競技後の打ち上げ⑦
初恋の人は誰と聞かれて、一番初めに思い浮かんだのは父親とかそういった定番の答えだった。しかし、ここまでの話で、葵ちゃんが実家や両親を毛嫌いしているのは理解できたのでそれは違うだろう。
けどこうして、わざわざ問題にして出してくるということは俺にも分かる相手? いや、ヒントを出すと言っていたので初期状態ではわからずとも、ヒントを聞くことで推測できるのかもしれない。
「最初のヒントは……私が初恋をしたのは小学生の頃です」
「定番ではあるけど、それだけで範囲を絞るのは難しそうな……俺が知ってる相手なの?」
「さぁ、どうでしょうね?」
う~ん、曖昧な返答ではある。最初のヒントも初恋は小学生の頃というだけの情報である。陽菜ちゃん情報では、葵ちゃんはその初恋の相手を忘れられてないという噂とのことだったので、同じ高校には居ない可能性が高い。
小学校の頃に引っ越した同級生とか、可能性敵にはあり得そうではあるが……小学校の時の同級生なんて範囲が広い答えがありなのだろうか?
「う~ん、小学校の時の同級生とか?」
「残念ですが、違います。そもそも同年代では無いです。結構年上の相手ですね」
「年上か、そうなると本当に範囲が広いなぁ……」
「では、ふたつ目のヒントです。その人は、私にいろいろなことを教えてくれた人で、ある意味では先生のような相手だと言えるかもしれません」
先生のような相手……家庭教師とか? いや、ような~ということは、実際に先生とかではないのだろう。マジで難しいぞ。というか、葵ちゃんの交友関係をあまり知らないというか、思い返せばあまり話題に出すことが無かった。
陽菜ちゃんや正義くん、高校の同級生数人ぐらいしか葵ちゃんが自ら話す交友関係というのは無かった。家族は毛嫌いしているみたいだったし、高校生活とMMOの話以外は殆どしなかったはずだ。
「……悩んでますね。じゃあ、一番大きなヒントです。私は、結構最近まで……少なくとも初恋の時点では、その人の本名も顔もしりませんでした」
「ふむ……ふむ……う、うん?」
あ、あれ? おかしいな……これまでの葵ちゃんの話を総合すると、妙な答えに辿り着いてしまうことになる。
初恋をしたのが小学生時代で、俺がその相手を知っているかどうかという質問には曖昧な答え、いろいろなことを教えてくれた相手で、なおかつ本名や顔は知らない。
本名はという言い回しから考えると、他の名前は知っているということになる。そして俺が知っている相手かどうかという問いに曖昧だったのは……。
「……え? ……俺?」
「正確にはシェルさんですけどね。つまるところ、快人さんです」
戸惑いつつ辿り着いた答えを口にすると、葵ちゃんは苦笑しつつ俺の答えに頷いた。
「そりゃあ、世間知らずの箱入り娘が初めてプレイしたMMOで右も左もわからなくて不安になってるところを助けられて、その後もいろいろ優しく接して貰ったら恋のひとつもしちゃいますよ。特に私の場合は、シェルさんは私のことを楠グループの令嬢としてじゃなくて、ありのままの私として見てくれる相手でしたしね」
「……そう、だったんだ」
「はい。なので、この世界で快人さんがシェルさんって知った時は本当にびっくりしましたよ。まさか、こんな偶然があるんだって、運命を感じたぐらいです」
正直予想外の事実に言葉を失っていた。いや、実際ハイビスくんはかなり俺のことを慕ってくれていたという自覚はあったが、当初は性別を勘違いしていたこともあってなかなかその結論に達しなかった。
しかし、えっと……これはいったい、どう答えればいいんだろうか?
「……快人さんはやっぱりシェルさんだったというか、私が思ってた通りの相手だったので本当にホッとしましたし、嬉しかったです」
「えっと……葵ちゃん?」
「あっ、ストップです。いまはまだ、なにも言わないでください」
なんとか言葉を紡ごうとする俺に対して、葵ちゃんが待ったをかけてきた。そしてそのまま沈黙したあとで、小さく笑みを浮かべて口を開く。
「……知ってます? もう成人の年齢は18歳に引き下げられたんですよ?」
「へ? あ、うん。知ってるけど……」
「そして私の誕生日は6月23日、この世界に来た時点で17歳というわけです。まぁ、一度こっちの世界から戻ってリセットされたので、滞在した1年は除外して考えますけどね」
そこまで話したところで、葵ちゃんはにっこりと笑って立ち上がった。
「最低でも1年以上はこっちの世界に滞在するつもりです。というか、元の時間に戻れるので、陽菜ちゃんと話して数年は居ようって話になってますしね」
「……つまり?」
「……さっきの話の続きは、私が18歳になってからします……なので、待っててくださいね」
そう言って可愛らしく微笑んだあとで、葵ちゃんは俺の返答を聞かずに陽菜ちゃんが居る場所に向かって移動していった。
人の成長の瞬間はあっという間というべきか、なんというかほんのわずかの間に葵ちゃんがずいぶん大人っぽくなったように感じて、妙な気恥ずかしさと共に軽く頬をかいた。
???「これはメインヒロインの風格……1部で空気だったのがうそのようです」
マキナ「我が子が愛しい我が子を好きになる。素晴らしい構図だね。私得だよ」
シリアス先輩「……はぁ……はぁ……よかった。まだ、軽く致命傷だ」
???「致命傷に軽いもくそもあるんすかね?」
 




