競技後の打ち上げ⑥
昔話を交えた葵ちゃんとの話は、やはりというべきかMMOの話題に移っていた。実際結構長くプレイしていたわけだし、一日のログイン時間が短くても思い出は多い。
「そういえば、あの収集イベントの時は忙しかったですね。私はログイン時間が短いので、欲しいものを絞って必要個数を集めるのが大変でした」
「譲渡可能だったから、俺のをあげようとしたけど、断固拒否してたからね」
「最初は快人さんに迷惑をかけると思って拒否してたんですが、一回一緒に収集に行って現実を知りましたね。私が10個集める間に、快人さんは1000個ぐらい集めてましたし」
「あの当時はガッツリやってた時期だから、最先端の装備も揃ってたしね。時間も無駄にあったから、2~3日で主だったアイテム交換に必要な個数は集まってたよ」
「でも知ってますか? いまはもう私の方が強いですよ」
「さすがに数年経つと、俺の知識はもう古いよなぁ」
MMOもそうだがネットゲームのインフレはそれなりに早い。当たり前だが、新しい装備が過去の装備より弱くては意味がないので、調整しつつも少しずつ強くしていくものだ。
半年とかの単位で見ればあまりインフレしてないように見えても、2年前とかと比べてみると明らかにダメージの桁とかが違ったりするものだ。
「そういえば、最新の情報はあんまり知らないなぁ」
「いまは過去のレイドボスはソロで余裕で狩れますからね。快人さんがやってた頃と比べると、本当に与ダメージの桁がひとつどころか、職によっては2桁違いますよ」
「そういう情報を聞くとまたやりたくなってくるもんだけど、プレイするのは……もしかしてあの黒い箱、MMOもできたりして……」
「そんなまさか……と言いたいところですが、常識が通用するような相手が作った品じゃないですし、可能性はあるかもしれませんね。今度試してみましょう!」
「お、おぉ、凄いやる気だね」
あらゆるゲームが遊べるというシロさんの言葉通りなら、MMOもできておかしくはない。異世界からどうやってという思いはあるのだが、葵ちゃんのいう通りどうとでも出来そうな方々が制作者だからなぁ。
しかし、葵ちゃんの食い付きが凄いというか、目をキラキラさせてる。
「……あっ、えっと、その……実はですね。まだ、快人さんの……渡されたシェルさんの装備品は全部残ってるんですよ」
「え? あの時のを? 数も相当多かったんじゃ、倉庫容量とか足りなくならなかった?」
「最悪別アカウントを作ってそこに保存ってのも考えましたけど、快人さんが引退して少しして倉庫システムの拡張要素が来たので大丈夫になりましたね」
「……売ってくれればよかったのに」
当時でこそ最高級の装備ではあったが、何年も経った今では型落ちどころか二束三文になるかも怪しい。前衛職だった俺の装備は、魔法職だった葵ちゃんではほぼ使えなかったはずだ。売って新しい装備のを買うお金の足しにでもしてもらえればと思っていたのだが……まさか、全部取ってあるとは……。
そう思っていると、葵ちゃんは少し気恥ずかしそうに視線を逸らしながら呟く。
「……だって、売ったら、もうシェルさんが帰ってこないって認めるような気がして……嫌だったので……」
「もしかして、戻ってくるのを待っててくれたとか?」
ハッキリ言ってしまえば、受験合格が決まり大学に進学して少し慣れたタイミングで、MMOを再びやりたいという気持ちが湧いて来て、復帰しようかと考えたこともあった。
しかし、知り合い全てに別れを告げて未練が無いように装備もすべて手放して引退したのに、いまさら戻るというのも情けないような気がして結局復帰することは無かった。
「……待ってましたよ。本当は引退するのだってすっごく嫌で、引き留めたかったです」
「そうだったんだ……割とアッサリ納得してくれた印象だったけど、実は違ったんだ」
「そりゃ、ワガママ言って困らせたくなかったですし……けど、まぁ、実際はかなり泣きましたからね」
「うぐっ、それは気付けず申し訳ない」
「ふふ、流石の快人さんもネットゲーム越しでは、感情の機微に鋭いとはいかないみたいですね」
まさか復帰を待つほど慕ってくれていたとは思わなかった。もしそれに気付いていれば、たぶん大学生になってから復帰してたと思うし、なんとも申し訳ない気分ではある。だからさっき、またあのMMOをやってみようかなって言葉にあんなに食い付いたのか……。
しかし、なんというか葵ちゃんはどこか楽しそうである。いまの「泣きました」という台詞も、楽しそうに笑いながら言っていたので、彼女にとってはそれもなんだかんだでいい思い出に消化できているのかもしれない。
「……そういえば、話は変わりますけど……快人さん。少し前に陽菜ちゃんが言った言葉、覚えてます? ほら、私に初恋の相手が居て、その相手を忘れられてない~っての」
「ああ、そういえばそんなことを言ってたね」
「……さて、問題です。私の初恋の人は誰でしょう?」
「え? いきなりなにを……」
「当ててみてください。大丈夫です、ヒントはちゃんと出しますから……」
そう言って葵ちゃんは、どこかいたずらっぽく、それでいて心底楽し気に笑っていた。
シリアス先輩「待て、落ち着け……ステイ! ステイだ! 年齢考えろ、未成年だぞ……」
???「それ異世界で関係あるんすか?」
シリアス先輩「そういう話はやめろ……マジで」




