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競技後の打ち上げ⑤



 賑わう打ち上げの喧騒を遠くに見ながら、葵ちゃんはポツポツと話し始める。


「私の家って、結構……いやまぁ、相当大きいんですよ」

「楠グループだね」

「はい。きっと多くの人は私を羨むんだと思います。日本でも屈指の大企業のトップの一人娘、生まれながらの勝ち組とか言われてもおかしくはないぐらいです」


 実際、葵ちゃんの実家……楠グループは俺でも知るぐらいに大きな会社だ。日本が誇る世界的大企業とでも呼ぶべきか、そこの令嬢として生まれた葵ちゃんはハイソサエティであるのは間違いない。

 ただ、それが幸せだったかと問うと、葵ちゃんは首を横に振りそうな気がする。


「物心ついた気にはいろんな習い事ばかり、両親と会うこともほぼ無かったですし、呼ばれるとしても『おい』とか『お前』とかで、ロクに名前を呼ばれたことは無いですね。基本的に私の周りに人たちにとって、私は楠葵ではなく『楠グループの令嬢』でしかなかったんです」

「……想像でしかないけど、自分を見てもらえないってのは辛そうだね」

「はい……それに、周りに寄ってくる人も大嫌いでした。凄く極端な話ですけど、一人娘である私と結婚するってことは実質楠グループの後継者になるって意味でもありましたし……幼い時から出ていたパーティとかで、明らかに親子ほど年齢の離れている連中がそういう目的で寄ってきてたのは、本当に気持ち悪かったです」

「そういう内心って、けっこう分かるもんだからね」


 俺にも少しだけ覚えがある。葵ちゃんとは環境やシチュエーションが違うけど、両親を亡くした直後に周りが俺に同情しているってのがよく分かったし、引き取られたばかりの時におじさんやおばさんが俺にかなり気を使っているのも分かって、どこか申し訳ないような心境になった。


「まぁ、そんな感じで私生活はギッチギチで本当につまらなかったって印象しかないですね。信頼できる相手なんて周りに居なかったですし……それこそ、立場は違いますけどリリアさんにとってのルナさんやジークさんみたいな相手が居たら、また違ったかもしれませんね。陽菜ちゃんと仲良くなったのは高校に入ってからですしね」

「てことは、召喚された時点での付き合いは半年未満だったのか……その割にはかなり仲良さそうに見えたけど……」

「元々陽菜ちゃんが部活で私を慕ってくれてたってのも大きかったですし、より仲良くなったのは召喚されてからでしたからね。同じ境遇同士だったこともあって、いまでは親友と呼べる相手ですね」


 実際、リリアさんたちに負けないぐらい葵ちゃんと陽菜ちゃんのふたりもいいコンビだと思う。性格的な相性が噛み合っているというか、互いに長所を生かして短所を補い合っているみたいないい関係だ。冒険者としての活動が順調なのも、ふたりが好相性の証明だろう。


「っと、話を戻しますけど、習い事が山ほどあって自由に使える時間が少なかった中で巡り合ったのが、あのMMOでした。なんでしょう? 私のことを楠グループの令嬢と知らない人ばかりの場所に憧れていたってのもあって、一度始めたら熱中しましたね」

「そういえば、初めて会った時は小学生だったっけ? 言葉遣いがしっかりしてて、後から知って驚いた覚えがあるよ」

「最初はかなり困ってました。MMOなんて初めてだったので、あそこでシェルさん……快人さんが声をかけてくれなかったら、ハマる前に止めてたかもしれませんしね」


 葵ちゃんとの出会いは言ってみれば気まぐれのようなものではあった。当時俺はMMOにガッツリはまっていたこともあって、その時点で実装されていたコンテンツは最高難易度まで含めて全てクリアしていた。

 装備なども一通り必要なものは揃いって、次の大型アップデートまではなにをしようかと思っていたタイミングだった。別キャラを作ろうかとか、新実装のアイテムに備えてお金を稼いでおこうかとか、いろいろ考えていた覚えがある。


 ゲーム開始時点の初期位置の街は、その性質上拠点にしている人も多く、プレイヤーの露店なども盛んだったので、たびたび足を運んでいた。

 その際に見つけたのがハイビスくんこと葵ちゃんだった。いや、実際そのゲームに慣れた側から見ると、困惑している初心者ってのは結構わかりやすいもので、丁度暇していたこともあって声をかけていろいろ教えた。


「声をかけたのは本当にたまたまだったけど、結構話があったというか、いろいろ指導しているうちに楽しくなった覚えがあったよ」

「ログイン時間の半分ぐらいは街でチャットしてましたしね。私もなんと言うか、こう……初めて会った優しい年上の相手みたいな印象で、話をしていて楽しかった覚えがありますよ」


 あまりに丁寧でしっかりしているので、普通に同世代か年上だと思っていたぐらいだった。知り合ってある程度経ったタイミングで年齢を知って本当に驚いた覚えがある。

 最初こそ気まぐれでの声かけだったけど、なんというか話も合って純粋にこちらを慕ってくれていたハイビスくんと一緒に居るのが楽しくて、いつもハイビスくんがログインするぐらいの時間帯には、狩りとかにはいかずに時間を空けていた覚えがある。


 一日のログイン時間は短かったけど、それでも何年も一緒だったので……考えてみれば、葵ちゃんとの付き合いも相当長いと言っていいかもしれない。





シリアス先輩「ハイソサエティながら複雑な家庭に生まれ、ネットゲームで主人公と知り合って顔は知らないままに初恋をして、主人公が引退したあとも一途に思いつ続けて、異世界で偶然再会する……本当に要素だけ見ると、メインヒロイン張っててもおかしくない設定だよな」

???「それが、1部ではほぼ空気だったって言うんですから分からないものっすよね。いや、まぁ、セイギさんというレジェンドオブ空気が居るので、霞ますけど……出番はマジで少なめでしたしね」

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― 新着の感想 ―
[一言] レジェンドオブ空気やめてやれよw
[気になる点] レジェンドオブ空気でふと思ったけど、あの王様って妹に近づく男は全て殲滅すべし、だったけど、娘である王女は馬の骨なエア勇者と婚約させてよかったの……? 娘よりも妹が大事なシスコン陛下やべ…
[良い点] レジェンドオブ空気wwwwww
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