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競技後の打ち上げ④



 フライングボードの打ち上げは賑やかに進んでいく。イメージ的には地域のお祭りや宴会のような感じで、かなり緩めで楽しい席だ。

 イエローパイプのライブクッキングは大人気で人だかりもできているし、俺たちは優勝者ということもあって結構声を掛けられたので会話も多かった。

 大体どの参加者も勝っても負けてもフライングボードを楽しんでいるという感じで、会話は非常に和やかだった。フライングボード自体が運の要素が強い競技なので、負けても運が悪かったと割り切りやすいからかもしれない。


 ともあれそうして打ち上げを楽しんでいたが、ある程度お腹も膨れたので少し会場の端の方に移動して食休みをしていた。

 この周囲は辺境ということもあって、少し打ち上げ会場の中心から離れると結構静かなものである。


「……快人さん、休憩ですか?」

「うん? ああ、葵ちゃんも? ……陽菜ちゃんは?」

「陽菜ちゃんは、まだあっちで食べてますね。私はもうお腹いっぱいで……」


 のんびりしていると飲み物を片手に持った葵ちゃんが近づいて来た。陽菜ちゃんの姿が見えなかったので尋ねると、葵ちゃんは苦笑しながらある方向を指し示す。

 そちらに視線を向けると、美味しそうに料理を食べている陽菜ちゃんが居て、俺たちに気付くと軽く手を振ってきた。


「美味しそうに食べてるね。前々から思ってたけど、陽菜ちゃんって結構食べる?」

「少なくとも私よりはずっと食べますね。普通あんなに食べると太ると思うんですが、しょっちゅう走ってるからか……カロリーが全部胸にいってるからか、そんな感じは無いですね」

「あはは、なるほど」


 若いから代謝もいいだろうし、いっぱい食べても太らないのだろう。俺も陽菜ちゃんぐらいの頃には、かなりたくさん食べていたような気がする。

 まぁ、この世界の基準で言うとアリスという胃がブラックホールみたいなのが居るから、たくさん食べるという基準が揺らいできてる気もするが……。


 そんなことを考えていると、葵ちゃんは俺がもたれ掛かっている柵に同じようにもたれ掛かりつつ微笑む。


「今日は大満足の結果でしたね」

「なんだかんだで、楽しかったね。最初に陽菜ちゃんに誘われた時は、ちょっと首を捻ったものだけど……」

「分かります。私も正直、他になにかもっといいのがあるんじゃないかって思いましたよ」


 陽菜ちゃんがグイグイ押してこなければ、マイナーな競技ということもあって参加は見送っていただろう。そうなると熱い勝負も、勝ち取った達成感も、重信さんとの偶然の出会いも無かったわけなので、陽菜ちゃんに感謝である。


「……そういえば、ちょっと前の話ですけど、私たちの高校生活の話をしたじゃないですか?」

「え? ああ、葵ちゃんがよくモテてるってやつかな?」

「アレは陽菜ちゃんが大袈裟に言ってるだけですよ。むしろ、快人さんがどうだったか聞きたいですね。この世界での様子を見たら、モテ過ぎてるレベルですし……高校時代の恋愛事情も聞きたいですね」

「う、う~ん。とは言われても、本当に寝てるばっかりだったしなぁ……青春的なイベントはひとつもなかったよ」


 これは本当に嘘偽りない事実である。なんならクラスメイトであっても、一言も言葉を交わしたことない相手が多いレベルで空気だった気がする。

 勉強はテストだけ一夜漬けでそこそこ、運動神経はほどほど、顔立ちや身長もごく平凡という目立つ要素が皆無だったので、なんなら同級生の大半は俺のことなど覚えていないのではないだろうか?


「そもそも、なんでそんなに寝てばかりだったんですか?」

「MMOに熱中してたからね。ほぼ昼夜逆転してるみたいな感じだったんだよ」

「……そういえば、基本的にいつINしても居たような……」

「本当に家にいる間はずっとログインしてたからね。まぁ、いま思い返すと、現実逃避の手段を見つけてのめり込んでたってのが一番しっくりくる気がするけど……」


 いろいろと理由はある。月額課金制でアイテム課金の無いMMOだったので、月2000円程度でいくらでも遊べたのでコストパフォーマンスもよかった。当時のMMOと言えば、時間をかければかけるだけ有利だったからというのも要因だろう。

 ただやはり、母さんと父さんが居ない現実から逃げ続けていた結果だったような気がする。


「逆に葵ちゃんは、ログイン時間は短めだったね。家庭の事情だったっけ?」

「ええ、習い事が多くて自由に使える時間が少なかったですしね……けどまぁ、私も現実逃避みたいな感じでしたよ」

「……そっか」

「はい」


 いろいろと複雑な事情がありそうではあるが気安く踏み込んでいい話題とも思えないのでそれ以上尋ねなかった。

 そのまま少し沈黙が流れたあとで、葵ちゃんが苦笑しながら口を開く。


「……ちょっと愚痴に付き合ってくれませんか?」

「もちろん、いくらでも」

「ありがとうございます……昔から、家が大っ嫌いだったんですよ」


 そう言って葵ちゃんはどこか懐かしむような表情で、静かに語り始めた。俺たちが出会うことになったMMOを始めるきっかけを……。





シリアス先輩「なんだかんだで、2部に入ってから後輩組の出番が増えてるよな。1部はほぼ空気だったのに、2部からは冒険者やら出店やらフライングボードやらと、メインとなってくる話が増えてきた感じがする……私としては背筋が冷たくなる思いだけど……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに、ついに葵√か!?
[一言] シリアスパイセン、大丈夫だ、(読者的には)問題ない。
[良い点] 葵ちゃんルート?!葵ちゃんルートなんですか?待ってた! [気になる点] 今回はシリアス先輩、溶けて何になるんだろ?
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