競技後の打ち上げ③
いよいよ始まるフライングボードの打ち上げ。上位入賞者ということで、スカーレットブルーやブラックマスカットの人と一緒の場所に最初は居る様に言われたが、特に優勝者だからといってスピーチしたり乾杯の音頭を取ったりといったことは無いらしく、その辺りは助かった。
運営の代表……開催地の都市代表がスピーチを行い、乾杯の音頭も取るらしく、俺たちはせいぜいスピーチの中で軽く紹介をされる程度だった。
ただ、まぁ、こういう場においての偉い人の話というのが長いのは世界が変わっても同じようで、都市代表はなかなか長時間にわたりフライングボード大会の感想や辺境の地域活性などをスピーチをしており、中盤辺りから割と周りも「早く終わってくれ」という空気になっていた気がする。もちろん都市代表はそのまま、事前に用意しておいたであろうスピーチ文を最後の一文字までキッチリ読み切ったが……。
長いスピーチが終わり、乾杯の音頭がとられると、後は自由である。同じ競技の出場者と会話を楽しんでもいいし、用意された料理や酒を楽しんでもいい。
俺たちはそこそこお腹も空いていたので、最初は食事を楽しむことにした。
「……おっ、米の料理があるなんて珍しいね」
「確かに、この世界だと珍しいですね。見た目はパエリアっぽいですが……」
「おっきなフライパンですね。こういう大きな調理器具でどーんって料理出してくれるの、私好きです!」
食事はバイキング形式……いちおう立食パーティに近い形ではあるが、貴族のパーティとは違い宴会感が強く、料理なども大鍋や大皿で豪快に用意されているものを小皿にとって食べる感じだ。
その中で俺たちが最初に目を付けたのは、魚介などをふんだんに使ったパエリアっぽい料理。
そもそもだかこの世界はパン食が主流でご飯系の料理はかなりマイナーであり、こういった場で出てくるのは珍しい。
ただ、思い返してみればそもそもこの世界においての米は、当初ハイドラ王国の辺境で細々と作られていたという話を聞いた覚えがあるので、この辺りがそうなんじゃないかと考えると、地域の特産といえる品なのかもしれない。
けど、どこで聞いたんだったっけな……あっ、そうだ! 聞いたんじゃなくて見たんだ……そう、ノインさんの日記だ。そこに、そんな感じの内容が書かれていたような覚えがある。
「この辺って魚介類も取れるのかな?」
「どうなんでしょう? さすがに別の地域からじゃないですかね? この辺りは農業が盛んな印象ですし、海の近くだと塩害の危険がありますから……」
「あっ、そっか……じゃあ、他所から仕入れてきたのかな」
「あの大きな湖で採れたんじゃないんですか?」
パエリアを小皿に取りつつ、エビや貝はどこから仕入れたのかを葵ちゃんと話していると、陽菜ちゃんがキョトンとした表情で呟いた。
すると葵ちゃんが、苦笑を浮かべつつ陽菜ちゃんの言葉に答える。
「陽菜ちゃん、こういうエビや貝類は湖には……」
「え? でも、それは私たちの世界の話で、この世界も一緒とは限らないんじゃないですか?」
「「……あっ」」
言われてみれば、その通りである。俺たちの世界においては、エビやムール貝っぽいものは海で採れる。だが、この世界も同じであるという保証はない。
見た目が似ているだけで、湖で採れる甲殻類や貝類という可能性だって十分にあり得る。
「……これは、俺たちの頭が固かった気がする」
「陽菜ちゃんって、ごく稀に凄くいいところに目を付けるんですよね」
「……葵先輩? ごく稀とか付ける必要あります?」
ジト目で葵ちゃんを見る陽菜ちゃんは、なんというか微笑ましい感じだった。本気で怒ってるわけでは無く、不満を口にできるだけふたりが仲が良いという感じかな?
そんな風に思いつつなんの気なしに視線を動かすと、見覚えのあるマッチョ三人組……イエローパイプのメンバーが居た。
「……ふたりとも、あそこにイエローパイプが」
「あっ、本当ですね。ライブクッキングみたいな感じでしょうかね」
「……コックスーツ、パッツンパッツンですよ……」
葵ちゃんのいう通り、イエローパイプはライブクッキングをするみたいで、材料や調理器具を用意していた。しかし、ムキムキの肉体の上にキッチリコックスーツを着てるせいか、違和感が凄い。
陽菜ちゃんのいう通り、胸筋がや腕が太いせいで、ピッチリし過ぎの様に見える。
「さぁ、皆の者! 我らの調理に刮目せよ!」
「美味い料理を作るために必要なのは、筋肉!」
「この鍛え上げた肉体で、美味なる料理を作り上げようではないか!」
相変わらず濃い三人組である。そして、相変わらずの筋肉理論……ただまぁ、フライングボードよりは筋肉を生かす機会は多そうな気がする。
実際、三人が豪快に料理する様は非常に派手であり、ライブクッキングとしてかなり目を引く。見た目のインパクトも強いので、ある意味己の長所を完璧に生かしている感じだ。
ただ、ところどころファンサービスなのか、調理の合間にマッスルポーズを取っていた……コックスーツでマッスルポーズを決めるのは、なんともシュールで面白かった。
???「ナイスバルク! 手羽先の完全究極体!!」
マキナ「キレてるよ! 肩に山脈乗ってるよ!!」
シリアス先輩「え? なにしてんのお前ら……」
マキナ「いや、なんか???に一緒にやれって言われてね」
???「一応やっとかないとと思いまして」
マキナ「私には他の異世界人と変わらない喋る肉塊にしか見えないんだけど……」
シリアス先輩「お前の目はどうなってんの?」
 




