決勝レース⑤
初参加となるフライングボードにおいて、俺たちのチームは見事優勝を勝ち取った。大はしゃぎする陽菜ちゃんと、クールに振舞いつつも嬉しそうな葵ちゃんとひとしきり喜び合っていると、そのタイミングでブラックマスカットとスカーレットブルーの人たちがやって来た。
「素晴らしい勝負でした。完敗です。特に最後の大きな右カーブで突っ込んできたところは、完全に虚を突かれました」
「ありがとうございます。運が味方してくれたおかげでもありますけど」
作ったキャラではなく素であろう丁重な口調で賞賛してくるブラックマスカットに礼を言うと、スカーレットブルーの人たちも軽く拍手をしながら微笑んだ。
「運も実力のうちですわ。私たちの攻めにいち早く反応した状況判断も初参加とは思えないほどでした」
「あの、攻めにはこちらも驚きました」
「ふふ、決まったの思ったのですが……残念でしたわ」
うん。なんというか、非常に爽やかというか……やっぱりこの人たちはいい人だと思う。レースが終わると当たり前のように勝者を称えることができるのは、本当に素晴らしいことだ。
葵ちゃんと陽菜ちゃんも、それぞれブラックマスカットやスカーレットブルーのメンバーと話しており、どこか楽しげである。
「ああ、そうそう、君たちは初参加だから知らないと思うんだけど、毎年終わった後は運営が打ち上げの席を用意してくれる。参加は自由だけど、決勝レース参加者は飲み放題食べ放題だから、よければ参加してくれ」
「ええ、表彰式は1時間後に行われますわ。その席と、出来れば後の打ち上げでもお会いできることを祈っておりますわ」
そう言って軽く手を振ってブラックマスカットとスカーレットブルーの人たちは去っていった。そのあとで運営の方に説明をしてもらったのだが、チェックポイントの魔水晶などの回収が終わってから表彰式となるため、表彰式は1時間後。
打ち上げに関しては表彰式後夕方の6時から夜の8時まで、主にこの地方の郷土料理や地酒などが振舞われるとのことだ。料理や酒などは地元の方々が提供してくれるみたいで、なんだかんだで40年続いているだけあって、地域に根差した競技なのかもしれない。
「あ~楽しかったですね!」
「確かに、最初は変な競技かと思ったけど……結構熱くなって楽しんだ気がするよ。陽菜ちゃんが誘ってくれたおかげだね」
「この後の打ち上げも楽しみですね。私と陽菜ちゃんはお酒は飲めませんけど、地域ならではの料理は楽しみです」
運営の人に説明を受けたあとは、表彰式まで時間を潰しつつレースの疲れを癒すため、なにか飲み物でも飲もうとふたりと一緒に歩いていた。
やはり優勝したこともあってふたりの表情は明るく、なんだかんだでかなり楽しそうである。
飲み物を売っていた出店で購入し、ベンチがある場所に移動して三人で並んで座って休憩する。
「この辺りはのどかでいいですね」
「確かに、いまはフライングボードの大会があるからそれなりに賑わってるけど、観光地って感じでもないし雰囲気ものどかだね」
陽菜ちゃんのいう通り、この辺りの雰囲気は農業が盛んな田舎町という感じで、観光地のような雰囲気はない。まぁ、それでものどかな自然に湖、時計塔などもあるのでのんびり過ごすにはよさそうな感じである。
個人的にはこういう雰囲気は結構好きだ。湖とかでのんびり釣りでも出来たらリラックスできそうな感じがする。
そんなことを考えてると、不意に聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
「……よう、休憩中に悪いな。ちょっといいかい?」
「え? あ、はい。なんでしょうか?」
声のした方向に振り向くと、そこにはガッチリとした体格の年配の男性が居た。60代前後の見えるが、結構鍛えてる感じで、背も高く顎髭も生えていて、なんというかこう、退役軍人みたいな凄みがある感じの人だった。
少なくとも見覚えのある相手ではないが、なんの用だろうか?
「お前さんアレだろ? 宮間快人って名前じゃねぇか?」
「そうですけど……貴方は?」
「ああ、私は大蔵重信って言ってな。まぁ、早い話が過去の勇者役さ」
「……え? じゃあ、もしかして、香織さんが言っていた重さんってのが……」
「ああ、私のことだ。こちらも、香織ちゃんや旧友から、お前さんの名前は聞いてたよ。会いてぇとは思ってたが、こんなところで偶然会えるとは思わなくてな、ついつい声をかけにきちまった」
これは本当にまさかの遭遇である。香織さんやアリスから話を聞いていた移住を決めた元勇者役のひとりで、俺がまだ会っていなかった大蔵重信さんと、こんなところで遭遇するとは……。
そういえば、ハイドラ王国の辺境に住んでいるとかって話をチラッと聞いた覚えがあるが……まさかこの付近とは思わなかった。
なんにせよ、是非会いたいと思っていた相手だったので、こうして会えたのは幸運だ。
シリアス先輩「……私はシリアスの化身。誰がなんと言おうとシリアスの化身なんだ!」
???「……そ、そうっすか……まぁ、先輩がそれでいいならお好きにどうぞ」




