決勝レース④
激戦の決勝レース、森林地帯を越えて街が見えてきた。辺境の街ということもあってか、大きな建物は時計塔のみで、チェックポイントは分かりやすい。
ただ、ゴールである湖の方向的に、時計塔をポールの様にぐるっと右に回りつつ通過する形になる。
「……もう少し、前のブラックマスカットが曲がり始めたら、加速しますよ」
「うん、よろしく」
「高度は、いまの高さでよさそうですね」
ここが勝負所であり、加速した中でしっかりとコントロールができるかが重要だ。集中しつつその時を待つ……蛇行しながら街の上空を飛びつつ、前を行くブラックマスカットに意識を集中する。
そして、ブラックマスカットが大きく右カーブしつつ、チェックポイントを目指すのが見えた。
「快人さん! 行きますよ!」
「ああ、頼む!」
ここで葵ちゃんが速度を操作、フライングボードが一気に加速する。大きく曲がっては駄目だ。このスピードで出来るだけ最短で曲がる。
右を力いっぱい押しつつ、ところどころで進路の変化に合わせて方向を調整する。なんとかうまくコントロールできており、加速したフライングボードはブラックマスカットに並ぶ。
「なにっ、ここで、仕掛けてくるだって!? そのスピードで曲がり切るつもりか!?」
さすがのブラックマスカットも、このリスクの高すぎる攻めは予想外だったみたいで驚いていた。確かに、このスピード……ほんの僅かにでも変な方向に動けばチェックポイントを通過できないだろう。
ほぼ賭けのようなものだが、この角度なら……行けるはずだ!
そんな願いが通じるように、フライングボードは予想外の動きをすることは無く、想定通りの角度でチェックポイントを通過する。
そして同時にブラックマスカットを抜いて俺たちがトップに立った。
「よし、このまま行こう! 葵ちゃん、魔力は?」
「まだ大丈夫です。たぶん、一度私たちを抜いたブラックマスカットや、岩山地帯で仕掛けたスカーレットブルーも同じぐらいの魔力量のはず……このスピードで、なんとかギリギリゴールまで持つぐらいです」
「先輩たち、高度は少し下げます……あっ、2チームもスピード上げてきてます!」
コントロールに気を使っているので後ろを見る余裕はないが、陽菜ちゃんの言葉通りなら2チームもスピードを上げてきたみたいだ。
おそらくこれが最後の攻防だ。ここからゴールまでは、技術の勝負といっていい。いかにフライングボードをコントロールして、可能な限り真っ直ぐに飛ばせれるかが勝敗を分ける。
ただ、いい感じだ。ゾーンに入ったとでも言うべきか、直感的な操作でかなりフライングボードをコントロールできている気がする。
「陽菜ちゃん、後ろはどう?」
「ちょっとずつ引き離せてます! 快人先輩の方が、小さい揺れで真っ直ぐ飛ばせてますよ!」
「快人さん、大変だと思いますが、このまま頑張ってください」
「ああ、葵ちゃんも魔力管理を、陽菜ちゃんは後方の様子の確認をよろしく」
「「はい!」」
もうゴールに向けて高度の調整は終わっているので、陽菜ちゃんには後方の2チームを注視してもらって、俺は前だけを見てフライングボードをコントロールする。
葵ちゃんの魔力管理も信頼しているので、間違いなくこのスピードを維持したままゴールまで行けるはずだ。
「ッ!? 快人先輩!! 右から風が吹きます!」
「……分かった!」
陽菜ちゃんの叫びに呼応するように、瞬時に風に対抗するために右方向に強く操作する。これがまたタイミングも強さもドンピシャであり、逆に風のおかげで横揺れがほぼ無く真っ直ぐに飛行できた。
我ながら上手くコントロールできたものだと誇りたいし、葵ちゃんの魔力管理や要所要所の状況判断もよかった。陽菜ちゃんの直感にも非常に助けられたので、本当に誰が欠けてもこの結果は無かっただろう。
まさに三人で協力したからこその……。
『いま、1位がゴールを通過!! 決まりました!』
俺たちのフライングボードがトップを譲ることなくゴールを飛び抜け、大きな歓声が沸き起こった。
「……やった」
「……やりましたね」
「やりましたよ! 先輩! 私たちの勝ちです!」
ガバっと後ろから俺と葵ちゃんを両手で抱える様に陽菜ちゃんが飛びついてくる。顔を見るまでもなく、嬉しそうな笑顔が浮かんでいることを察することができた。
こうして俺たちの初めてのフライングボード参加は、激戦の中で見事に優勝という最高の結果につながった。
シリアス先輩「ば、馬鹿な……私はシリアスの化身で……あっ、そそ、そうだ! 私はシリアスの化身でありつつ、シリアスを観測する者! そういうことだよな、全知の神!! な? そうだと言ってくれ!!」
マキナ「…………ソウダヨ」
シリアス先輩「違いそうな反応!?」




