決勝レース①
フライングボードの決勝レース。すらりと並ぶ者たちは全員予選レースにて1位を獲得した猛者たち……といえば聞こえはいいが、実際予選は運の要素が強めだったので、半分ぐらいは初参加のチームらしい。
ただ決勝レースは運だけで突破できるものではなく、戦略や状況判断なども必要になってくる。
『それではお待たせしました。フライングボード決勝レース……スタートです!』
スタートの合図とともに何組かのフライングボードがかなりのスピードで飛び出した。スタートダッシュ……それはたしかにフライングボードにおいてはかなり有効な戦法といっていい。
そもそもフライングボードは基本的に先行している方が有利だ。真っ直ぐ思った通り飛ばないという性質上、後ろから追い抜くのは難しく接触の危険もある。
予選の時の俺たちがそうであったように、先行しておけばスペースを広く使ってダイナミックに動くことができる。
「やっぱり飛び出ましたね。予想通り、初参加のチームが多そうです」
「俺たちはこのまま、周りとの接触に注意しつつ慎重に行こう」
「了解です」
実際俺たちが作戦会議をした時もスタートダッシュ策は案として出た。だが、予選はともかく決勝においてのスタートダッシュは難しいと言わざるを得ない。
それは特に魔水晶の魔力量……それを駆け引きのひとつとして組み込む以上、どう考えても、ハイスピードを維持してコースを飛びきることは出来ず、高スピードを出せる回数は限られてくる。
その状態で次々追い越そうとしてくる後続のチームたちを対応しつつ、最後まで魔力を持たせられるだろうか?
後ろから追われる立場というのは相当上手くやらないと無理だ。しかもこれが歴戦のベテランが魔力消費を完璧に計算した上でスタートダッシュを決めたのならともかく、初参加のチームが集団を嫌って前に出てもペース配分が上手くできるとは思わない。
ペース配分やコース取りなどは、やはりなんだかんだ言ってもスカーレットブルーやブラックマスカットのような歴戦のチームに一日の長がある。その辺りのチームが前に出ていないということは、予想した通りスタートダッシュからの逃げ切りはあまり現実的ではないのだろう。
「歴戦のチームはやっぱり、あまり動きませんね」
「やっぱり予想した通り、勝負所はここではなさそうかな?」
葵ちゃんの言葉にひとまず、作戦会議で予想した通りの展開になっていることに胸を撫で下ろす。俺たちの予想では、勝負所は終盤の森林地帯から湖に戻っていく辺り……それか、そこに有利に入るための位置取りを森林地帯手前ぐらいから始めるかもしれない。
ともかく、ここではないことは確かだ。前を飛ぶトップ集団も、やはり初参加チームが多いのかコース取りでもたついている様子で、この分なら最初のリード分はすぐに無くなってしまいそうだった。
そんなことを考えていると、湖の上にひとつ目のチェックポイントが見えてくる。四つの光る魔水晶に囲まれ四角いエリアを通過すればOKなのだが……。
「……地図で見るより小さく見える気がする」
「結構シビアそうですね。陽菜ちゃん、もう少し高度下げて」
「はい。このぐらいですね」
初めて見たチェックポイントは想像したいたより狭く見え、細かな調整が必要な感じだった。幸い、ある程度の蛇行はしつつも、現在のフライングボードの飛行は安定気味。急変にさえ注意しておけば、通過できそうだ。
そう思っていると、スタートダッシュを決めた先頭集団の内の2チームほどがチェックポイントを通過し損ねるのが見えた。コレは非常に大きなタイムロスだ。
戻って通過しなおせばOKではあるが、フライングボードでUターンして再びチェックポイントを通るのは結構難しく、大回りをする必要もある。あの2チームがここからトップ争いに戻ってくるのはかなり厳しいだろう。
俺たちは慎重にチェックポイントを通過し、湖を越えて山の方……岩山地帯へ向かう。ここはかなりの、難所であり、低い高度では岩山が障害物のように立ち塞がる。
なので、ここは打ち合わせ通りに高度を上げる。他のチームもやはり同じように上昇して……。
「勝負所、行きますわよ!」
「「おう!!」
そんな声が聞こえて反射的に振り返ると、他が一斉に上昇している中で1チーム……スカーレットブルーが高度を落としながらスピードを上げているのが見えた。
まさか、スピードを上げて低空で岩山地帯に突っ込む気か!?
「ッ!? 不味いです、快人さん!」
「葵先輩?」
「このアタック、決まったら追いつけなくなりますよ!!」
葵ちゃんの声でハッとする。岩山地帯のチェックポイントは低めの高度に設定されている。そこを安全に通過するために、俺たちや他のチームは安全な高めな高度で移動し、調整しつつ降下してチェックポイントを通過する予定だった。
だが、それに対してスカーレットブルーは真逆の、ハイリスクな高速での岩山地帯抜けを選択……リスクは高いが、上昇と下降という過程が無い分最短距離であり、更に低い高度に設定されているチェックポイントは、低空飛行の方が通過しやすく速度を維持したまま通過できる可能性が高い。上手く抜ければ他に大きく差をつけることができる。
そして、そのハイリスクハイリターンの策を仕掛けているのは、先ほどのような初参加チームではなく、強豪と称されるスカーレットブルー。葵ちゃんの言う通り、ここで大幅なリードを許してしまえば、差し返すのは不可能に近いかもしれない。
となると、大きく離されないためには……。
「陽菜ちゃん! 下降だ!」
「やっぱり、そうなりますよね……快人先輩、操作頼みますよ!」
追うしかない。同じように低空で岩山を抜ける……ただでさえ真っ直ぐ飛ばないフライングボードでの岩山地帯の通過、俺の方向操作が超重要な……まさに勝負所だ。
覚悟を決め、俺たちと同じようにスカーレットブルーを追う選択をしたチームと同じく。高度を落としつつ加速し岩山地帯に向かった。
シリアス先輩「え? い、いいじゃないか……こういうのだよ! こういうのでいいんだよ!!」
???「シリアスかって言うと若干首は傾げますが、真面目な展開ですね」




