フライングボード⑦
フライングボードの予選レースでは、俺たちのチームは見事1位となり決勝レースへの出場が決まった。
「やりましたね!」
「葵ちゃんの作戦が綺麗に決まったな」
「今回はほぼ直線のコースでしたし、決勝はもっと複雑みたいなので、本番はそちらですね。でも、やるからには頑張りましょう!」
「…‥おっと、葵先輩の負けず嫌いが出てますよ」
たしかに最初に比べて葵ちゃんのテンションというか、モチベーションが上がっている感じはある。陽菜ちゃんの言う通り、葵ちゃんは結構負けず嫌いだ。
なんというか、「やるからには全力で勝ちに行く」みたいなスタンスとでも言うべきだろう。それ自体はいいのだが、問題はむしろ負けた時である。
想像ではあるが、今回のフライングボードで敗北した場合は陽菜ちゃん以上に熱意を持って、来年再挑戦と言い出す可能性もある。
そう考えれば、むしろ優勝した方が綺麗に終わるのか? とはいえ、さっきのレースには強豪と呼べる存在は居なかったし、そう簡単に勝てるとも思えない。
そんなことを考えながら歩いていると、俺たちの歩く先に見覚えのある三人が立っていた。筋骨隆々とした鍛え上げられた肉体で腕を組み不敵な笑みを浮かべる黄色いタンクトップの三人。
あっ、アレだ。見覚えがある。あの強豪と言われてたチームの……えと? 名前なんだったっけ?
スカーレットブルーとブラックマスカットは覚えているんだけど、この三人は見た目のインパクトは一番デカいのに、名前のインパクトが薄くてすぐに思いつかない。
俺がチーム名を思い出そうと考えていると、葵ちゃんが不思議そうな表情で呟いた。
「アレは確か……イエローパイプとかいうチームの」
ああ、そうだ! イエローパイプだ! なんか妙に筋肉に拘りがあるチームだった気がする。俺たちに何か用だろうか?
そう思っていると、イエローパイプのメンバーたちはマッチョポーズを決めつつ話しかけてきた。
「ふっ、先ほどの戦い、見せてもらった!」
「素人ゆえの粗削りさはあるが、筋肉を生かしたレース展開はなかなかどうして見事だった!」
「侮れない筋肉を持っているようだな! 将来有望だ」
「は、はぁ……どうも」
先ほどの俺たちのレース展開のどこに筋肉を感じたのかは分からないが、たぶん突っ込むべきではない話題だと思うので曖昧な返事を返す。
これはアレだろうか? レースの結果を称えつつ宣戦布告的な、バトルものによくある展開。
「だが、上には上が居るということを覚えておくのだな!」
「貴様たちの筋肉もなかなかだが、まだまだ我らには敵わん!」
「だが、期待はしている。決勝では筋肉の沸き踊る名勝負を繰り広げようではないか!」
見た目も言葉も暑苦しさを感じるイエローパイプの面々は、ビシッと再びマッチョポーズを決めて笑いながら去っていった。
「……これ、アレだよね? 宣戦布告的な?」
「だと思います。なんか、筋肉感じたらしいですよ」
「……なんとなく、話が通じる相手じゃない気がしたわね」
俺の言葉に陽菜ちゃんと葵ちゃんもなんとも微妙な表情を浮かべていた。そう、葵ちゃんの言う通り、あんまり話の通じるタイプとは思えなかった。
例えるなら頭の中まで筋肉に染まり切っているような、脳筋と呼べるタイプだと感じた。
「イエローパイプってこの後のレースなのかな?」
「えっと……6レース目みたいですね」
なるほど、待機場所に向かう途中で見かけて声をかけてきた感じか……しかし、全員2m越えのマッチョだし、タンクトップに色黒の肌だし、見た目のインパクトは一番凄い。
フライングボード云々ではなく、ボディビルダーに見える気もするが……。
そうして、再びレース見学に戻った俺たちの前で6レース目が行われ……イエローパイプは敗退した。
「……あんだけ強敵みたいな雰囲気で出てきて、負けるの!?」
「しかもあれですよ。別にトラブルとか事故も無く、普通にちゃんと負けましたね」
「……あ、あの、ボードの上でポーズをとっていたのはなんの意味が……」
そう、決勝で戦おう的なことを言っておきながら、普通に負けていた。葵ちゃんと陽菜ちゃんがあきれ果てたような表情を浮かべているのも当然だろう。
中盤ファンサービスなのかどうか知らないが、ボードの上でマッチョポーズも取ってたし……ちなみに実況がついていたので分かったのだが、1位になったチームも別に強豪とかではなく初参加らしい。
……うん。やっぱり、結果はともかくインパクトは一番凄いな。試合に負けて勝負に勝ったとでも言うべきか、もう完全にイエローパイプの名前は覚えてしまったと言うぐらい、印象に残るレースだった。
……これと並び称されるチームがまだふたつ残っているのが不安ではあるが……。
シリアス先輩「……強敵そうに見えて、実際は別に大したことないギャグ敵パターンの奴らだったか……」




