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フライングボード⑥



 さて間もなくフライングボードのレースが始まるというところで、俺たち三人は直前の作戦会議を行っていた。

 やはり印象に残るのは第一レースで見た湖に急降下して突っ込んだ事故だろう。流石にああなることは避けたい。


「……やっぱり最初は速度は抑えめで、高度は高めにとった方がいいかもしれないな」

「ですね。スタート地点ってそんなに高い位置じゃないですし、ちょっと下方向に変な動き方すると危険ですし、即上昇した方がいいですね」


 どうしても強く印象に残る事故を避けるために、高度は高めにとりつつ、変な動きをしても対応できるように速度も抑えようと提案する俺に陽菜ちゃんも同意する。

 しかし、葵ちゃんは返事をせずにじっと顎に手を当てて考えている様子だった。俺たち三人の中で一番知恵者というか、こういう時にキレるのは葵ちゃんだし、考えているってことはなにか俺の提案とは別の案があるのかもしれない。

 そう思って少し待っていると、葵ちゃんは静かに口を開いた。


「……普通に考えると、快人さんの策が安全だと思います。でも、ふと思ったんですけど、このレースの参加者って……おそらく、第一レースを見ていますよね?」

「ああ、第一から第四までそこまで時間があるわけじゃないし、遠くに行くのは難しいだろうから、必然的にほとんど全員見てるんじゃないかな?」

「葵先輩、それが何か関係あるんですか?」


 葵ちゃんは陽菜ちゃんの言葉に軽く頷いたあとで、更に説明を続けていく。


「ええ、だから、私たちがそうであるように他のチームも第一レースの事故は強く印象に残ってるんじゃないかって思うのよ」

「……なるほど、つまり、他の組も俺たちと同じような策で来る可能性が高いってことか」

「はい。そうなると、多くのフライングボードが近い位置に密集することになります。そうなると、まともに飛ぶものでない以上他の組のフライングボードとの接触……無かったとしても、スピードは出しにくい状況になるのではないかと」


 葵ちゃんの言うことには一理ある。たしかにスタート直後に速度を落として上昇は安パイといっていい戦略だ。高めの高度の方が変な軌道をした時も湖に落ちる前に立て直しやすい。湖を避けるという点では、最適解と言えるかもしれない。

 そして、最適解だからこそ、同じ戦略で来る相手が多いというわけか……。


「……なので提案なんですが、勝負に出ませんか?」

「具体的には?」

「スタート直後に上昇するのではなく前に、軌道が下方向に向いてもギリギリ修正できるぐらいの速度で可能な限り早く飛んで、少し抜けだしてから改めて上昇という方法です」

「……リスクはあるけど、リターンも大きいか……よし、やってみよう。そういうわけだから陽菜ちゃん、最初の上昇は無しで、タイミングを見て指示するからそこで上昇してくれ」

「わかりました! 私たちのチームワークを見せてやりましょう」


 葵ちゃんの策はハマればそれで勝負が決まるかもしれないほど大きなリターンがあり、失敗しても最低限立て直すことはできる可能性が高い。

 ならば挑戦しない手はないので、俺たちのチームの戦略はスタートで前に出るものとなった。









『さあ、それでは第四レース間もなくスタートです』


 大きな円盤型の魔法具の上に乗って、スタートのタイミングを見る。方向を決めるのは俺なのだが、最初は前一択……挙動によっては、修正が必要なので集中力を高めてすぐに対応できるようにする。

 チラリとふたりの顔を見ると、ふたりとも力強く頷いてくれて、準備が整ったことを理解できた。

 スタートの合図は空中に浮かぶ魔水晶の放つ光が、赤から青に変わった瞬間……そしてその時はすぐにやって来た。


 青に変わった瞬間俺は前を指した矢印に触れ、同時に葵ちゃんがそれなりのスピードでフライングボードを飛ばす。

 グンと加速する感覚と共に、揺れるような感じ……やはり素直に真っ直ぐは飛ばないが、それでもかなりいい。多少蛇行はしているがちゃんと前に向かって飛んでおり、上下に変な動きはしていない。いい軌道を引いたみたいだ。


 軽く周囲を見てみると、他の組は見えない……抜け出せた!


「陽菜ちゃん!」

「了解です!!」


 俺の言葉を受けた陽菜ちゃんがフライングボードを上昇させる。その際に左右の動きが大きくなるが、蛇行に合わせて逆の矢印に触れて多少軌道を修正しつつ上昇する。


「葵ちゃん、どうだ?」

「成功です! 完全に抜け出しました!」

「よしっ、じゃあ、このまま一気に行くぞ!」

「「はい!」」


 葵ちゃんの策はほぼ完璧にハマった。他の組はスタート直後に上昇を選んだみたいで、同じような場所に密集してしまって迂闊にスピードも出せない。

 だが俺たちは完全に抜け出しているため、広いスペースを使える。かなりスピードを出して変な軌道をしたとしても、対応できるだけの余裕がある。

 それを理解して葵ちゃんが速度を上げ、時折急変する奇妙な軌道をなんとかコントロールしつつ、互いに声を出して協力し合って湖の対岸まで一気に飛んだ。


 運も味方したことで、俺たちは他の組を完全に引き離した状態で湖を越え、見事予選突破を成し遂げた。





シリアス先輩「いいね。私はこういう駆け引き的なシリアスも好きだよ。OK、許す」

???「何様っすか……」

シリアス先輩「シリアスの化身様だ!」

???「…………まだ、その設定で通ると思ってるんすか?」

シリアス先輩「マジトーンでの反応止めろ、傷つく……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白砂糖生物じゃなかったのか…
[良い点] 今後このシリアス具合を超えることはあるのだろうか?いや、ない
[良い点] シリアスの化身というより最近は砂糖の化身かと思ってた
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