フライングボード⑤
フライングボードの大会、いよいよ最初のレースが始まるのを、葵ちゃんと陽菜ちゃんのふたりと一緒に見学する。
ちなみに最初は予選レースとなっており、大きな湖の対岸まで一直線に進み、最初に向こう岸に到着した組が決勝に進出らしい。
決勝はもっとしっかりしたコースで、湖から岩山地帯に進んでぐるっと周囲を回るようなコースである。とはいえ、各予選レースの1位しか決勝には進めないので決勝進出は難しそうではある。
「いよいよ始まりますね」
「どんなレースになるのかしら？ コースは短め……魔力量は気にせず最高速度でいったほうがいいのかしら？」
陽菜ちゃんはワクワクしており、葵ちゃんは既にレースの際の速度調整を考えているみたいだった。そうこうしている間にレースのスタート時間となり、係員の合図によって一斉にスタートした。
そのうちの一チームが、先ほど葵ちゃんが呟いていたような戦法。すなわち魔力量を気にせずトップスピードで駆け抜けるを実行し、勢いよく飛び出し……直後にフォークボールのような角度で湖に突っ込んで水しぶきを上げた。
あまりの挙動にポカンとしたあと、思わず笑ってしまった。なるほど癖が強い飛行というのは、ああいう変な軌道で飛んだりするわけか……これは下手にスピードを出し過ぎると調整が効かなくて、リカバリーできない可能性があるし、結構奥が深いかもしれない。
まぁ、安全対策の術式はしっかりしており、湖に突っ込んだチームもフライングボードに発生した結界によってケガなどはなさそうな感じだった。
ただ、あの結界状態になると飛行機能は停止するらしいので、リタイアということである。
そのままレースを見ていると、なんともフラフラと変な挙動で飛ぶフライングボードが多く、競技者同士でぶつかりそうになったり、思わぬ軌道でゴールを目指していると急にUターンしたりと、いろいろなハプニングが次々発生していた。
「……これ、見る分には面白いですよね」
「確かに、ハプニングが多くて先が読めないというか、本当に飛び方がバラバラで面白いね」
酔っぱらったかのようなフラフラ飛ぶフライングボードもあれば、稲妻のようにギザギザに動くフライングボードもあるし、変な上昇や下降をするものもあるので、本当に多種多様に滅茶苦茶である。
ただ、だからこそ見ていると次の展開が予想できなくて楽しいのだ。最初に完全に出遅れたと思った組がいつの間にか1位になっていたり、順調に1位をキープしていた組がゴール直前で変な軌道で大ブレーキがかかったりと、なんだかんだでかなり楽しい。
「本当に飛び方が滅茶苦茶というか、いい軌道を引けた時に一気に加速するのが無難そうですね。ただ急変する危険があるので、加速し過ぎるとリカバリーが効かなくなるリスクもありますね」
「実際、コミカルな競技風景からは想像できないほどに奥が深いというか、考えるべきことが多い感じだね」
「しかもあれですね。しっかり対策してても、変な軌道引いたらアウトみたいなところもありますよね。咄嗟の時のチームワークが重要ですね。楽しくなってきましたね！」
観戦しながら3人で話し合う。なんだかんだで陽菜ちゃんの言う通り、皆で協力して挑む形になっているのがいい感じだ。
特に魔法禁止のルールにより、戦闘力では大きな差がある俺と後輩ふたりでもそれぞれ役割を持って参加できるのがいい。
ちなみに俺の感応魔法のように、基本的にONOFF可能だが特定条件下で自動発動してしまうような魔法に関しては、一種の体質として判定されるみたいで事前に申告しておけば問題ない。ただもちろん、故意に使用した場合は反則である。
少しして2レース目まで終わったので、俺たちもそろそろスタート地点に向かうことにして移動を開始する。その途中でふとあることを思いついたので、心の中で呼びかける。
シロさん、ちょっといいですか？
（なんでしょう？）
フライングボードにシロさんの祝福の効果が適応されないようにってできます？ 幸運だけでどうにかなる競技ではないとはいえ、シロさんの祝福は運の補正だけでも有利に働くだろうし、それ以外にも様々な神族の祝福の上位効果があるので、もの凄く有利になってしまう可能性もある。
（可能ですよ。では、私の祝福はフライングボードの挙動に影響しないようにしておきます）
ありがとうございます。まぁ、別に決勝に行きたいとかというわけでもないし、なんなら無難に予選を楽しんであとは観戦しているのが楽しそうだ。
運命の本祝福「Hey、Boy……なにか大事なことを忘れてやいないかい？ 普段は上位互換の創造神の祝福の影響で出番ないし、Me、この機会に頑張っちゃうよ？」
天空の仮祝福「空の競技は任せろ～」
大地の仮祝福「……地に足付いてない状況だと無理」
