フライングボード③
陽菜ちゃんの熱意に押される形で参加申し込みをしたフライングボード。開催日当日となった日に、俺たち三人はハイドラ王国の辺境にある開催地にやってきていた。
大きな湖に岩山などがある場所で、空を飛んでレースと考えればかなりいい環境なのかもしれない。
「……結構賑わってますね」
「確かに、出店とかもそこそこあるし、変な熱気が……アリスの言う通り、カルト的な人気があるんだろうな」
「快人先輩、葵先輩、出店も見てみましょうよ!」
祭りというほど規模は大きくはないが、そこそこの出店があり、大人気競技というほど大勢の観客が居るわけでは無いが、そこそこの観客は見える。
なんというか、コメントが難しい……本当にそこそこの賑わいという印象で、まさにマイナー競技の大会かくあるべしみたいな雰囲気だ。
お祭りが好きな陽菜ちゃんははしゃいでおり、俺と葵ちゃんもその陽気につられて苦笑しつつ、受付開始まで出店を眺めてみることにした。
というか、特に出場者の控室的な場所があるわけでもなく、時間になって受付を済ませたら、自分が参加する組のレース開始までは自由にしてていいみたいだ。
フライングボードも運営側が用意するので、俺たちが用意するものはなにもない。精々動きやすい服装で来たぐらいである。そういう意味では、結構手軽に参加出来ていいのかもしれない。
適当に出店を見つつ、食べ物などを買っていると、店主に声をかけられた。
「兄ちゃんたち、参加者かい?」
「ええ、初参加です」
「そうか……俺はここで40年以上フライングボードを見続けてきたが、兄ちゃんたちはなにかやってくれそうな雰囲気を感じるな。将来有望だぜ」
「あ、ありがとうございます」
果たしてこれは喜んでいいのだろうか? 謎のマイナースポーツの才能を感じ取られるという妙な事態に苦笑しつつお礼を返す。
すると店主はどこか不敵な笑みを浮かべながら、言葉を続けた。
「見てみな、兄ちゃんたち。強豪のお出ましだぜ……」
「強豪?」
店主の言葉に葵ちゃんと陽菜ちゃんと一緒に視線を動かすと、黄色いタンクトップをきた立派な筋肉の屈強な男性三人組と、舞踏会にでも出るかのようなドレスを着た女性三人組が睨み合っていた。
「ふっ、前回よりさらに鍛え上げたこの肉体。今年の勝利は、我らイエローパイプが頂く!」
そう宣言して思い思いのポーズを決めるマッチョの男性たち、どうやら女性三人組とはライバル同士といった感じである。
果たしてフライングボードという競技において、筋肉がいかほどの効果を持つのかははなはだ疑問ではあるが、とりあえず意気込みは伝わってくる。
対する女性三人組は不敵な笑みを浮かべて、マッチョたちに向かい合う。
「そのような見せかけの筋肉など無意味、勝敗を決めるのは優雅さです。優勝は私たちスカーレットブルーがいただきますわ」
赤なのか青なのかハッキリしてほしいと思うのは、俺だけだろうか? あとこっちもこっちで、フライングボードにおいて優雅さがどれほど意味があるのかサッパリ分からない。
そんなことを考えていると、睨み合う二チームの元に黒い揃いのマントを身に着けた三人が近づいてきた。
「やれやれ、戦いは魔力……それも分からんおろかものばかりとは、これは我らブラックマスカットが優勝だな」
チーム名、もうちょっとなんとかならなかったのか? さ、流石マイナースポーツの強豪たち、無駄な濃さである。そして、魔法禁止かつ魔法具によるレース……魔力量があまり影響するとも思えない。
なんならパッと見た感じ、あの三人より葵ちゃんの魔力の方が大きい気がするが……まぁ、相変わらず熱意は無駄に伝わってくる。
「ふっ、傲慢な魔力主義者に優勝などさせるものか、我らの筋肉が阻んでくれる!」
「ふふ、優雅に勝利を決めて見せましょう」
「……実力の差も分からんとは、愚かな連中だ。精々、いまのうちだけでも粋がっているといい」
なんかこう、よく知らないスポーツでバチバチに盛り上がられても温度差についていけないというのはあると思うのだが、いまはまさにその心境である。
「ブラックマスカットまで登場とは……毎年あの三チームは激しい戦いを繰り広げているのさ……」
「は、はぁ、なるほど……ちなみに去年の優勝チームは?」
「初参加のチームだったな」
「……そうですか」
え? あんだけ強豪ですみたいな顔で出てきて、去年初参加のチームに負けてるのかあの三チーム!? な、なんというか……とんでもない連中である。
「……葵ちゃん、陽菜ちゃん、なんか変なところに来ちゃったかも」
「……独特の世界ですね」
「……あ~いまさらながら、強引に誘って、すみませんでした」
「……まぁ、俺たちは俺たちで、気にせず楽しもう」
「「はい!」」
とりあえず、別に俺たちは優勝狙いというわけでもないので、気にせずのびのび楽しむことにしよう。
シリアス先輩「濃いだけで、対して強くない……ギャグ展開とかでたまに見るキャラだ」
???「シリアス先輩みたいっすね」
シリアス先輩「…………は?」




