フライングボード②
アリスのおかげで、ひとまず陽菜ちゃんが貰って来たチラシが詐欺等ではないということは分かったので、一安心ではあるが……結構マニアックな競技っぽいのが心配である。
この場でフライングボードに関して知っているのはアリスだけなので、その辺りも説明してもらうことにしよう。
「それで、アリス。結局、そのフライングボードってどんな競技なんだ?」
「競技自体はシンプルですよ。読んで字の如く円盤状の魔法具の板に乗ってゴールを目指すレースです。この魔法具の板が、魔力を込めると浮遊するのでフライングボードって名前が付いたわけです」
「ようは空飛ぶ円盤に乗ってゴールを目指す競技ってことか?」
「それだけ聞くと、ごく普通の競技っぽいですね」
アリスの簡単な説明を聞く限りは、葵ちゃんが口にした通り普通の競技っぽい感じである。レースという明確に勝敗が分かれる競技なので、熱中する人がいるというのも頷ける。
というか、なんならもっとメジャーでもおかしくないような印象だ。空を飛ぶ円盤でのレースなんて観戦しても楽しそうだし……。
「……そうっすね。『普通に飛べば』……ね」
「え? どういうこと?」
「フライングボードは真っ直ぐ飛ばないんですよ。ある程度の方向は操作できますが、フラフラ飛んだり蛇行するように飛んだりと、奇妙な飛び方をするんです。そもそも、このフライングボードという競技は、失敗作の魔法具を遊びに利用しようとしたところから始まっています。なので、その起源に則り飛行術式をワザと崩してるんですよ」
ちょっと雲行きが怪しくなってきたな。フラフラと変な飛び方をする円盤に乗ってゴールを目指す競技……ある程度の方向は操作できるという話だが、アリスの口振り的にまともにコントロールできそうな感じではない。
「競技に使うフライングボードは主催者が用意しますし、ワザと崩して不安定にしている術式なので、どんな変な飛び方をするかは実際に乗ってみないと分からないんですよね。まぁ、そういう意味では初心者でも熟練者に勝てる可能性があるわけですが……まぁ、実際のレース風景はシュールですよ。下手するとコール前でしばらくゴールできずにフラフラあっちに行ったりこっちに行ったりしてますしね」
「……マイナーな理由が分かってきた」
「ちなみに魔法の使用などは禁止です。術式を書き換えたり、風魔法で操作したりというのを防ぐためですね。ああちなみに、落下防止の術式など安全面はしっかりしているので、その辺りは安心してください」
「そっか、教えてくれてありがと」
アリスの説明を受けて頭に思い浮かべるフライングボードは、なるほど確かにシュールである。コースがどんなものかにもよるのだろうが、トラブルが多そうなイメージだ。
アリスにお礼を言ってから、葵ちゃんと陽菜ちゃんの方を振り返ると……葵ちゃんは微妙そうな表情で、陽菜ちゃんはキラキラと輝くような明るい表情を浮かべていた。
「面白そうですね!」
「……え? 陽菜ちゃん、これ、本当に出るの?」
「初心者でも勝てる可能性があるみたいですし、楽しそうじゃないですか! 三人一組で出るみたいなので、三人で円盤に乗るのも楽しいですよきっと」
「な、なんでそんなに食い付いてるのか……えっと、快人さん、どうします?」
どうやら葵ちゃんはこちらに丸投げ……もとい、最終的な判断を年長者である俺に委ねるらしい。チラリと陽菜ちゃんを見ると……なんとも期待した表情で目を輝かせている。
残念ながら、俺にこの笑顔を曇らせるという選択肢は選べないので答えは一択だった。
「……まぁ、危険はないみたいだし……参加してみようか?」
「快人先輩ならそう言ってくれるって信じてました! 楽しみですね~」
「まぁ、そうね……出場するからには、頑張りましょう」
嬉しそうにジャンプする陽菜ちゃんと、苦笑を浮かべつつも負けず嫌いが顔を出したのか、少しやる気になっている葵ちゃんを見て苦笑する。
まぁ、変なことにはなったが……確かになんだかんだで面白そうではあるし、悪くは無いのかもしれない。
「……これは、面白い展開になってきましたね。大変愉快な……こほん。白熱した戦いが見られそうですし、不肖ルナマリアも、応援のために現地にはせ参じますかね」
「貴女はこのチラシの日は仕事でしょう?」
「その辺りは休みでも取って……いざとなればサボって……」
「……当主として命じます。この日の私の登城に同行すること、いいですね?」
「そんな、殺生な……」
おそらくフライングボードに翻弄される俺たちを見たくて、応援という名目で笑いに来ようとしていたルナさんだったが、リリアさんによって阻止されていた。素晴らしいファインプレーである。
とはいえ、仮にリリアさんが阻止しなかったとしてわざわざハイドラ王国まで笑いに来るかと言われれば……うん。まぁ、ルナさんならやるかもしれない。
シリアス先輩「確かにマイナーっぽい競技かも、けど、ランダム性が強いなら快人が有利か?」
???「とはいえ、ある程度自力での操作もありますからね。いい動きのボードを引けても、結局変な動きなのは変わらないです」




