死霊術士の頼み③
しばらくチェントさんとシエンさんと会話をしていると、どうやらトーレさんとラサルさんの交渉が終わった様子だったので、ふたりにお礼を言って席に戻る。
トーレさんもラサルさんも互いに微笑みを浮かべており、互いに納得できる形で交渉は纏まったみたいだった。
「ラサルさん、交渉は無事纏まりましたか?」
「えエ、さすがはセーディッチ魔法具商会の特別顧問。手強い相手でしたガ、納得できる条件で契約を結べましタ」
「なるほど、それならよかったです。トーレさんも、ありがとうございました」
「いえ、ミヤマカイトさんの頼みであれば、このぐらいお安い御用です」
「……」
「なんでそんな気味の悪いものを見たような顔するかなぁ……」
公私を分けるタイプとは聞いても、やはり敬語口調のトーレさんには物凄い違和感があり、それを己に向けられるとなおさらだった。
すると、トーレさんは俺の心境に気付いたのか苦笑を浮かべていつもの口調で話したあと、席を立ちながら笑顔を浮かべる。
「それじゃあ、私の用件は終わったからゼクス呼んでくるね~」
「あ、はい。お願いします」
「またね~」
魔水晶の取引に関しては終わったので、ラサルさんの知り合いであるゼクスさんを呼んでもらおうと思ったのだが、それに関してもトーレさんはお見通しだったみたいでこちらが言うまでもなくゼクスさんを呼びに行ってくれた。
そのトーレさんの言葉を聞いて、ラサルさんはなにやら考えるように顎に手を当て、少し間を開けてから口を開いた。
「……ゼクス、というト……たびたび取引をしていたリッチですネ。セーディッチ魔法具商会に務めていたとハ……」
「あっ、ゼクスさんのこと覚えてたんですね。ゼクスさんはラサルさんは名前も覚えていないんじゃないかって言ってましたが……」
「名を呼んだことは無かったですネ。当時の私にとってハ、さほど必要な相手でも無かったのデ……とはいエ、一度聞いた言葉程度ハ、記憶していまス」
「なるほど……」
特にゼクスさんに興味もなかったので名前を呼んだりすることは無かったが、ラサルさん自身の記憶力がいいので名前は覚えてはいたみたいだ。
ただ、セーディッチ魔法具商会に所属していることも知らないってことは、本当にほぼ会話をすることは無かったんだろう。
そんな風に思っていると、少ししてゼクスさんが応接室にやって来た。
「お待たせいたしました。お時間を作っていただいてありがとうございます、ミヤマ殿。そして、お久しぶりですな、ラサル殿」
「あア、前回の取引依頼カ……久しいナ、ゼクス」
「おや? 貴女に名前を呼ばれたのは初めてですな」
「以前とは立場が違ウ。お前ハ、冥王陣営の重鎮デ、私はアイシス様の配下ダ。最低限の礼節は持って接しなけれバ、私の態度ガ、場合によってはアイシス様を貶める結果にもなりかねン」
「……ほほぅ、なんとも、変われば変わるものですな。いえ、失礼。やはり驚きが大きくて……」
ラサルさんが名前を呼んだことに驚きつつ、その理由を聞いてどこか楽し気に頷いたあとで、ゼクスさんは俺たちの対面の席に座る。
すると、そのタイミングで紅茶が運ばれてきて俺たちの前に置かれた……毎回思うけど、ゼクスさんの姿で普通に紅茶を飲むのは若干違和感があるな。隙間からこぼれたりしないものなのだろうか……。
「そういえば、ラサル殿。アイシス様の配下になったということは、例の研究は?」
「あア、完成しタ。いずれ機会があれバ、見せてやろウ」
「それは楽しみですな。では、今回相当の数の魔水晶を仕入れているとのことですが、新しい研究に使うのですか?」
以前にお茶会でゼクスさんと会った時に聞いたが、ラサルさんは長年死霊術士として究極の研究をしていたみたいで、それが完成したからこそアイシスさんの配下になったのだろうとの話だ。
そしてだからこそ、そんな大きな研究を完成させたラサルさんが大量の魔水晶を仕入れていると聞いて、ゼクスさんも興味を持ったのかもしれない。
そういえば、俺も魔水晶を何に使うかは聞いていなかった気がする。
「いヤ、研究というほどのものでもなイ。主な用途としてハ、アイシス様の居城の改築用ダ。アイシス様はその辺りはあまり頓着していない様子だったのでナ、いくつか利便性を考えて改良しようと思っていル。半永久的に術式を維持するにハ、それなりの個数の魔水晶が必要というだけダ。まァ、半分は他の研究にも使うつもりだがナ」
「なるほど……いや、しかし意外ですな。貴女がそこまで献身的に仕えるタイプだったとは……いえ、貴女にそうさせるほどアイシス様が優れた王であるということでしょうな」
「……少々甘すぎるのハ、困りものだがナ」
そう答えるラサルさんの声は優し気で、なんだかんだでアイシスさんを慕っているというのが伝わってくるみたいだった。
やはり、アイシスさんやイリスさんの言う通り面倒見が良くて優しい方なのだろう。
シリアス先輩「なんなら、アイシスの配下の中で一番配下らしい活動をしてるまである」
???「確かに……」
 




