死霊術士の頼み①
魔界の死の大地にあるアイシスさんの居城に遊びに来た俺は、アイシスさんとお茶を飲んだあとはウルと遊んでいた。
ウルは十本の尻尾の先に小さな球体を浮かべて、それを自在に操る光景を見せてくれていた。
「キュッ!」
「おぉ、凄いなウル。もうこんなに魔法が使えるようになったんだ」
「キュゥ~」
もうすでに明らかに俺よりレベルの高い魔法操作技術を持っていそうな感じだったが、その辺りに関してはとうの昔に諦めているので、素直にウルの頑張りを賞賛する。
なんとなく褒めて欲しそうにしていたウルの頭を撫でると、ウルは嬉しそうに尻尾を振って甘えてくる。なんとも可愛らしい子である。
「……もう、かなりのレベルなんじゃないですか?」
「……うん……ウルの魔力操作技術は……もう……高位魔族並み……ウルは凄い子」
「本当に凄い成長速度ですね」
やはりウルは天才っぽい感じというか、アイシスさんも感心するほどの才能を持っているみたいだ。実際、あっという間に魔法を使えるようになったので間違いないと思う。
なんなら直接見たことは無いが、尻尾でナイフとフォークを使いこなして食事するらしい。まぁ、こうして見ていると人懐っこい可愛い子供という感じなのだが……。
そのまましばらくアイシスさんと共にウルと遊んだあと、そろそろいい時間だったので帰ることになった。アイシスさんの居城内では転移魔法具は使えないので外に出てから使う必要があるため、廊下を歩いて玄関へ向かっていた。
アイシスさんは玄関まで送ると言ってくれたのだが、遊び疲れたウルがアイシスさんの膝で眠ってしまっており、起こすのも悪かったのでひとりで玄関に向かっていた。
アイシスさんの居城にはよく来ているので、迷うこともなく廊下を歩いて玄関に向かっていたのだが、その道中で意外な人に声をかけられた。
「おヤ? お帰りですカ?」
「ああ、ラサルさん。ええ、そろそろ帰ろうかと……アイシスさんはウルが膝の上で寝てしまったので」
「あア、なるほド……ふム、ならばちょうどいいですネ。少々お時間をよろしいでしょうカ、ミヤマカイト様」
「え? あ、はい。大丈夫ですが?」
声をかけてきたのは目深にフードを被って大きな棺桶を担いだ女性……アイシスさんの配下のひとりであるラサル・マルフェクさんだった。
ラサルさんとは以前アイシスさんに紹介されて軽く挨拶は行ったが、それほど多くの会話を行った相手ではない。魔界でも有名な死霊術士であるということや、ゼクスさんの知り合いというのは知っているが……。
「実ハ、ミヤマカイト様に少々お力を貸していただきたいのですガ……」
「俺に? なんでしょうか?」
「個人的な用途で純度の高い魔水晶ヲ、ある程度まとまった数仕入れたいと考えているのでス。たダ、死の大地で採れる魔水晶ハ、アイシス様とクロムエイナ様の契約により権利はクロムエイナ様が持っていますのデ、私が個人的に使うにはアイシス様の手を煩わせることになってしまいまス……なのデ、なんとか自分で仕入れたいと思うのですガ、私には伝手などが無ク、少々困っておりましタ」
「ああ、なるほど、それで俺に……」
「はイ。図々しいお願いとは思うのですガ、なにか伝手があればご紹介いただけたらと思いましテ」
ラサルさんの言葉を聞いて考える。魔水晶を仕入れる伝手となると、真っ先に思い浮かぶのは……トーレさんだ。確か、魔水晶部門の特別顧問とか言ってた。
ただ、ひとつ疑問なのでセーディッチ魔法具商会相手なら、ラサルさんにはゼクスさんという伝手があるのではないだろうか?
いや、待てよ。そういえばゼクスさんは、ラサルさんはゼクスさんの名前も覚えていない的なことを言っていた気がするので、連絡先なども知らない可能性がある。
「えっと、セーディッチ魔法具商会の魔水晶部門の特別顧問の知り合いが居るので、その人に紹介しましょうか?」
「おオ、それは助かりまス。是非お願いしまス」
「分かりました。とりあえず、予定とかを確認してみて、改めて連絡しますね」
「分かりましタ。お手間をかけて申し訳ありませン。このお礼ハ、いずれ必ズ」
そう言って丁寧に頭を下げるラサルさんに気にしないでくださいと伝えてから、俺はアイシスさんの居城を後にした。
とりあえずトーレさんに連絡して、可能ならゼクスさんにも同席してもらうことにしよう。そうすればたぶん話もスムーズだろう。
トーレさんとラサルさんの対面だと、どういう会話になるのか予想もつかないし……ゼクスさんが居てくれた方が安心である。
シリアス先輩「そういえば、ラサルとゼクスの再会はまだだったか……マジでどんな会話になるのやら」




