魅惑のすき焼き⑤
最初はジェットコースターに乗ったわけだが、俺の基準で言えばかなり速かったし、結構怖かった。しかし、それはあくまで人間である俺の基準であり、クロもアリスものんびりとしたものである。
「高い所からだと遊園地の全体が見えてよかったね。このアトラクションを最初に乗っておくと、次に回る場所を決めやすくていいかもね」
「まぁ、時速換算で180kmぐらいに調整してるので、ジェットコースターとしては速い部類なんすけど、まぁ、私たちの感覚ではね」
「……道理で、ジェットコースターにしてもかなり速いと思った」
時速180kmとなると、ジェットコースターの中でもかなり速く、速さを売りにしてもおかしくないレベルである。昔少しテレビで見ただけでそこまで詳しくないが、世界最速のジェットコースターがたしか時速200kmちょっとだった気がするので、相当な速度である。
「それはそうと、クロさん。乗ってる間に次に行くアトラクション決めたんすか?」
「うん! あっちの山みたいな形状の奴がいいな」
「ウォータースライダーっすね。ああ、カイトさん。濡れる心配はしなくていいっすよ。その辺は魔法で防壁貼るので」
どうやら次のクロの希望はウォータースライダーらしい。う~ん、まぁ、いいけど……たぶんあの山みたいな形状的に考えて、最後に落ちる奴だよな? 速いジェットコースターに乗った後だし、間に緩いのをひとつ挟みたかったが……まぁいいか。
「……あ~クロさん。途中に売店もあるので、軽くそこによりません?」
「売店? 面白そうだね。あっ、聞いたことあるよ。遊園地に来るとお揃いのヘアバンドするんでしょ?」
「まぁ、定番ではあるかな」
楽しそうに告げるクロの言葉に頷く。たしかにヘアバンドとか付けるのは定番ではある……というか、ヘアバンドとか置いてるってことは、グッズも作ったのか? 何のために……。
「……アリス、お前、後々この遊園地どっかにオープンさせる気なんじゃ……」
「この遊園地はシャローヴァナル様が好き勝手に付けたチート能力のおかげで、各アトラクションが勝手にエネルギーを生み出して動いてるんすよね。つまり運用コスト0です。人件費とかメンテナンス費はかかるとしても、利益はかなり見込めそうですしね。私持ちの商会でも介して、どっかに作るつもりですよ。まぁ、あくまでいずれですけどね」
「ちゃっかりしてるなぁ……ああ、それと、ありがと」
「何の事っすかねぇ?」
俺がジェットコースターで疲れて、ちょっと休憩を挟みたいのを察して間に売店に行くことを提案したであろうアリスにお礼を言うが、アリスはどこかとぼけた様子で首を傾げていた。
売店に辿り着くと、そこは思ったよりも本格的な作りだった。
「……これ、お前、大分作ったなぁ」
「これは、シャルティアの着ぐるみを元にしてるんだね。へぇ、デフォルメしてぬいぐるみとかになると結構可愛いね」
「クロさん、それだと通常時は可愛くないって聞こえるんすけど」
「……いや、うん。中にシャルティアが入ってるって思うどうも……ね?」
「分かる。滅茶苦茶わかる」
「ふたりとも酷くないっすか!?」
俺とクロの言葉にアリスが抗議してくるが、正直これは仕方ないんだ。正直着ぐるみだけなら、キモカワ路線で行けるとも思う。でも、中にアリスが入ってて、動きが全般的に鬱陶しいし、なんかやかましい。
その、アリスが入っているというだけでウザさが3割り増しぐらいになる気がする。だからだろうか、確かにぬいぐるみ状態の物を見ると、割と可愛くも見えるのだ。
「……さっ、ヘアバンド選ぶか」
「そうだね。カイトくんはどれにする?」
「お~い……ぐぬぬ、こんなに超絶美少女なのに、おかしいっすね」
「いや、美少女云々はこの場合には関係ないだろ……」
着ぐるみを語る上で中身の美少女云々は関係ない話である。ともあれ、釈然としない様子のアリスを横目にヘアバンドを選ぶ、いろいろなヘアバンドがあり、大抵の動物のは揃っていそうな感じである。
「ねね、カイトくん。ボクにはどれが似合うと思う?」
「う、う~ん……このウサミミかなぁ。クロの髪の色と似てるし」
「これ? どう?」
「うん。よく似合ってるし、可愛い」
「えへへ、ありがと。じゃ、ボクはこれにしようかな」
単純に白い色合いでクロの髪に近いという理由で選んだのだが、うさ耳を付けたクロはかなりの可愛らしさで
だった。う~んこれはなんか、新鮮な魅力である。
「ちなみに、アリスちゃんには?」
「……う~ん。この狐の耳かなぁ?」
「完全に髪の色で選んでますね、カイトさん。その理屈で言うと、カイトさんはこの熊耳になりますよ」
「そう言いつつちゃんと付けてくれる……というか、お前、全然違和感がないというか、マジで頭から生えてるように見えるぐらい似合うな」
「どうっすか? 可愛いっすか?」
「うん、かなり可愛い。そういう姿もいいなぁって……」
「ど、ども……」
「だから、自分で振っといて恥ずかしがるなよ……」
狐の耳はアリスの髪の色とそっくりで、もの凄いフィット感だった。元々アリスの髪がある程度ボリュームがあるせいか、ヘアバンドの部分も髪に隠れてまったく違和感がなかった。
まぁ、クロもアリスもどちらも可愛く、普段は見せないであろうこういう姿を見れるのは恋人としての特権のような気がして、なんだか嬉しかった。
シリアス先輩「タイトルを見ろぉ! あのタイトルはなんだ! その様はなんだ!! 私は、私は、タイトル詐欺を許さない!!」




