出店の相談
ロゼさんの元を訪れて数日経ち、現在俺は家で来客の対応をしていたのだが……。
「なんて……なんて羨ましいっ!」
「六王ダンジョンに行ったことですか?」
「ああ、魔界の深淵に座す究極の魔窟。数多の強者が挑み敗れた万夫不当の大迷宮に招待を受けるなんて、さすがは我が盟友と言いたいが、それでもやはり羨ましい」
ちなみに来客はアメルさんである。今度一緒にやることになっている出店の打ち合わせに来たのだが、そこで六王ダンジョンに行ってゴーレムを見たことを聞くと、かなりの食い付きを見せた。
たしかに思い返してみれば、あのダンジョンのゴーレムはどれも中二心をくすぐる感じだったし、アメルさんは好きそうである。
「ボクの実力では魔窟には足を踏み入れることすら敵わないが、いつか地の獄に潜む魔獣たちをこの目で見たいものだ。盟友は全ての魔獣を見てきたのだろう?」
「ええ、いちおう全部見ましたね」
「ボクが知っているのは、万物を焼く猛き業火……焼き尽す獣。大地を制す不滅の巨頭……叫ぶ大地。死へと誘う優しき旋律……歌う森林。万象を凍てつかせる絶望……凍てつく絶界の四体……まぁ、もちろん直接目にしたことは無く、挑戦者の話を聞いただけだが……」
アメルさんが挙げた四体は、ローテーションで地下一階に出現する可能性がある四体であり、地下一階を突破できなくとも姿を見ることができる存在だ。
ただ、それはそれとしてその前に付けた煽りみたいなのはなんだ? そういう紹介をされて伝わっているのか、アメルさんが即興で付けたのか……即興で付けた気がする。
「しかし、その先を知らないんだ。盟友が制約に縛られぬなら、さらなる闇に潜む怪物示して欲しい」
話しちゃ駄目とか言われていないのであれば、その先のゴーレムについて教えてほしいとのことだ。これに関してはロゼさんに確認を取ってある。
六王ゴーレムのことを他で話してもいいのかと……隠しているわけでもなんでもないので、まったく問題ないそうだ。なんなら広まって挑戦者が増えたほうが、ロゼさん的には嬉しいらしい。
「ダンジョンマスターにも問題ないと許可を貰ってますし、大丈夫ですよ。えっと、地下五階にいるのは嘲笑する月光で、幻王を元にしたゴーレムみたいですね」
「虚ろなる幻影の王を!? や、やっぱり、凄いのかい?」
「最終階層のボスを除けば最強のゴーレムで、戦闘が進むごとに4段階に変化するみたいです」
「四段階に変身!? はぁぁぁ、凄いなぁ、やっぱり幻王様はカッコいいなぁ。盟友、盟友! もっと、詳しく――んんっ!? ボクに更なる深淵を詳らかにしてほしい」
アメルさんは幻王のファンでもあるので、かなりテンションが上がっており口調が素に戻りかけていたが、すぐに気付いて咳払いと共に取り繕った。
出店の話は完全に後回しになってしまっているが……まぁ、いいかと思いつつ、嘲笑する月光について詳しく説明すると、アメルさんは目をキラキラと輝かせていた。
そして一通り嘲笑する月光についての説明を終えたあとは、最後のボスについても説明していく。
「そして、最終階層に居るのが銀の従者と黒の皇帝ですね」
「し、漆黒の皇帝……か、かっこいぃ……」
なんでサラッと「漆」を付け加えたのか……。しかし、まぁ、本当に凄い食い付きである。やはり、公式的には誰もクリアしていない伝説のダンジョンとか、そういうのは大好物なのかもしれない。
ここまではしゃいでいるなら、いっそロゼさんと会わせてみるのもいいかもしれない。通訳は俺がすればいいし、ロゼさんの性格なら多少アメルさんの言ってることが意味不明でも気にしなさそうだ。
「……アメルさん、あくまで先方がOKといったらの話ですが、またこんど六王ダンジョンの管理者……ダンジョンマスターを紹介しましょうか?」
「ッ!? 深淵を統べる者へ拝謁する機会を!? あ、会いたい!」
「じゃあ、また今度確認しておきますね」
「うん! ありがとう、盟友!」
嬉しそうな笑顔を浮かべるアメルさんはなんとなくチワワ感がある気がした。まぁ、本当に性格の相性とかはよさそうな気がするし、ロゼさんが新しく作ろうとしているダンジョンに関しても、アメルさんならいいアドバイスをしてくれそうではある。
「まぁ、それはその話は追々ということで、とりあえず出店についての話をしますか」
「ああ、そうだね。時に余裕があるとはいえ、導かれし先は詳細にしておくべきだろう」
「そうですね。方向性だけでも先に決めておきたいですね」
「盟友は以前豊穣をテーマとしたわけだし、今回は進むべき方向を変えて……」
建国祭でやった食べ物の店ではなく、他の店にしようという感じでアメルさんとの話は進んでいった。もう少し具体的になったら、協力者も探したほうがいいかもしれない。
さすがにふたりだけでは大変だし……ただ、アメルさんは癖のある方なので、相手は選ぶ必要があるが……まぁ、本当にまだまだ時間に余裕はあるしゆっくりで大丈夫かな。
シリアス先輩「確かに、性格の相性は良さそう。まぁ、しかし、快人が居ないとアメルはロゼの言葉が分からないし、ロゼはアメルの言い回しを理解できないから、間に快人は必須かな?」




