謎の手紙⑨
六王ダンジョンを一通り見せてもらったあとで、最初の塔に戻って来た。
「ロゼさん、色々見せてくれてありがとうございました」
(どういたしまして~カイトくんが楽しかったなら、ロゼも嬉しいよ)
実際かなり貴重な体験をさせてもらった。未だに地下一階すら突破者が居ないダンジョンを最下層まで見せてもらえたわけだ。
ちなみに最後の黒の皇帝を倒すと、持っていた大剣だけが玉座に残り、それに触れるとダンジョンクリアの報酬である六王剣に変化するらしい。
そう言った演出にも凝っている作り込みには感心する……クリアさせる気はまったく感じられなかったけど……。
「しかし、凄かったですね。アレだと、クリアした人が居ないってのも納得です」
(クリアしてる人? いるよ~)
「……え?」
(挑戦者って意味じゃなくて試走って感じで、六王様は全員一回はクリアしてるし、メギド様も時々遊びに来るよ~。黒の皇帝は歯ごたえがあるから、暴れたいときには丁度いいんだって……でもでも、ちゃんと気は使って他の挑戦者が居ない時に来るよ~)
なるほど、言われてみればメギドさんにとっては格好の遊び場と言っていい。特に最後の黒の皇帝は六王ともやり合える強さということなので、戦闘狂のメギドさんにとっては最高の相手だろう。
メギドさんのことだから、入場制限のルールは守ってるだろうし、時々行ける楽しみみたいなものかな?
(あと、シャルティア様もよく着て、調整してるんだよ。メギド様が挑戦失敗しないかなぁって呟いてゴーレムの改良をしてるよ)
「……アイツが、ゴーレム強化してるのはそれが理由なのか……いや、でも、結果的に嫌がらせどころか、メギドさんは喜んでそうだから、悪いことでもないんですね」
(うんうん。メギド様も、シャルティア様が改良したゴーレムにはいつも感心してるよ~)
むしろアリス的にはいろいろ実験的な意味合いが強いのかもしれない。そして、改良した分もメギドさんが戦うことで実戦でのテストも出来ると……なんか割とWIN-WINな関係してる気がする。
そんなことを考えつつ、再び席に座ると、ロゼさんがテーブルの上でピョンピョンと跳ねながら話しかけてきた。
(カイトくん! 遊ぼ、遊ぼ!)
「いいですよ。なにして遊びますか?」
(これ!)
「うん? なんですか、これ?」
遊ぼうと言ってロゼさんが取り出したのは、大き目の煎餅みたいな円盤だった。フリスビーにしては小さいが、どういう使い方をするんだろう。
(これはね~投げて遊ぶんだよ! 塔の中じゃ駄目だから、外で遊ぼ!)
「ふむ、了解です」
やっぱりフリスビーみたいなものなのかなと、そう考えつつ塔の外に出て、開けた場所に移動する。
(投げてみて~)
「あ、はい。じゃ、投げますね」
ロゼさんの指示に従って円盤を投げてみると、飛んだ円盤から魔力が噴き出し、高速かつ滅茶苦茶な軌道で飛んでいった。
(わ~い)
「あっ、ちょ――早っ!?」
するとロゼさんが喜びながら俺の肩から降り、とんでもないスピードで円盤を追いかけてキャッチ、楽しそうに跳ねながら戻って来た。
フリスビーを加えて戻ってくる犬のようであり、大変可愛らしい。
「……つまり、それは投げてキャッチする遊具ってことですか?」
(そうだよ~投げると、投げる際に込めた魔力に応じて飛んでくの~フリスビーっていうおもちゃなんだって、クロム様が教えてくれたよ。見ててね~えいっ!)
ロゼさんが触手を伸ばして円盤を投げると、円盤は俺の時とは桁違いの速度で飛んでいき、空中に魔力の軌跡が見えた。
(向かい合って投げて遊ぶんだよ~)
「俺の知ってるフリスビーと違う……い、いや、そもそも、ロゼさん。俺にはあんなスピードの物体をキャッチできるような能力はありませんよ」
(…‥……そうだった!?)
どうも、悪意あってのことではなく、完全に忘れていただけの様子だった。その様子を見て思わず苦笑しつつ、俺はマジックボックスからボールを取り出す。
「なので、そのフリスビーではなく、キャッチボールでもして遊びませんか? 例によって、俺は速い球は取れないので、ゆっくり投げて欲しいですが……」
(うん! わかった、優しく投げるよ~。えへへ、よかった。カイトくんと遊べないかと思って、しょんぼりだったけど、遊べて嬉しい!)
なんだろうこの可愛らしい生き物は……ピョンピョンと跳ねる姿が非常に可愛らしい。ロゼさんは、俺からボールを受け取って少し離れて、触手を使ってフワッと優しくボールを投げてきた。
(このぐらいなら大丈夫?)
「ええ、大丈夫です。俺と同じぐらいの強さであれば問題ないですよ。じゃ、こちらも投げますね」
(わ~い!)
俺が投げたボールを嬉しそうにキャッチして、こちらに投げ返すロゼさんの姿からは楽しいという感情が伝わってきて、見ているだけでこちらも楽しくなる気持ちで、しばしキャッチボールを楽しんだ。
~おまけ・六王ゴーレムまとめ~
焼き尽す獣
メギドを元にしたゴーレムで、赤い魔獣型。肉弾戦特化型で、接近戦闘に優れる。反面遠距離での攻撃手段は少ないが、そもそもスピードもかなり早いので離れて攻撃するのは難しい。
耐久力もすさまじく、長期戦は免れないほど……。
叫ぶ大地
巨大な体躯を持つ地竜型のゴーレム。元となったのはマグナウェル。とにかくサイズが強大かつパワーと防御が極めて高い重戦車タイプ。六王ゴーレムの中では焼き尽す獣と同じく前衛型だが、地面を操って広範囲攻撃も可能。
歌う森林
リリウッドを元にしたゴーレムで、巨大な木の怪物。防御とカウンターに特化した能力で、更に森自体が歌う森林であるため、生半可な火力では受け潰される。
再生能力や回復力も高く、突破するのは非常に困難。
凍てつく絶界
アイシスを元にしたゴーレムであり、ゴースト型。魔法戦主体の後衛型であり、開幕と同時にコキュートスインフィニティとコキュートスゼロを放ってくる。これに耐えられないようでは、凍てつく絶界と戦う資格すらない。三体の守護獣を連れており、守護獣が居る限り本体はダメージ無効。
嘲笑する月光
アリスを元にしたゴーレムで、特殊型。影のゴーレムであり、姿を変えたりとトリッキーな戦法で攻めてくる。
最初は不意打ち主体のトリッキーな戦闘、次に六王ゴーレムに姿を変える戦闘、続いて複数に分裂して六王ゴーレムの力を使う戦法、最後に最強の本体として登場する影の道化との戦闘という形でフェーズが移行する。
アリスがデザインしたもので、基本のトリッキースタイル→ヘカトンケイル→分体+ヘカトンケイル→究極戦型をそれぞれイメージしている。
銀の従者
アインを元にしたメイド型のゴーレムであり、その能力は万能型。時や空間を操作する魔法を多彩に使い、超速で攻撃を仕掛けてくる。
また戦闘中に魔力糸を設置しており、気付いた時には逃げ場が無くなっていたりと、強かな戦闘も仕掛けてくる。
黒の皇帝
クロを元にした最下層に君臨するダンジョンボス。最初は銀の従者とふたりで向かってきて、この時点でもあらゆる能力が極めて高く強い。銀の従者を倒さない限りダメージが通らないので、先に銀の従者を倒す必要があるが、そうすると最終形態に移行する。
最終形態に関しては、すべての六王ゴーレムの力を自在に使え、基礎能力も桁違いに上昇しているため、現役の六王が戦っても歯ごたえがあると感じるレベルの強さである。




