ジークと過ごす一夜②
グラスを二つとおつまみを出し、宿の部屋にある机でジークさんと向かい合って座る。透き通った色合いで、僅かに黄色がかった色合いの果汁酒は、甘い香りがしてなんだかリラックスできるような感じだった。
「そういえば、ジークさんがあまりお酒を飲んでるところって見ませんね?」
「私は果汁酒ぐらいしか飲みませんし、酒自体もそんなに好きではない……ということにしてました」
「していた?」
「ええ、体が治る前はあちこちボロボロで、そもそも医者に酒類は飲まないようにと言われていましたので飲んでなかったんですよ。なので、あの時にリグフォレシアで飲んだの自体数年ぶりでした」
「なるほど……」
そういえば、ジークさんは世界樹の果実を食べて回復するまではかなりボロボロの体で、常時身体強化の魔法を使用することで誤魔化していたと本人から聞いた覚えがある。
そしてそのことに関しては、責任を感じさせないためにリリアさんたちには伝えておらずジークさんの胸の内に秘めていたということも……。
たしかにそれぐらいの大怪我であれば、ドクターストップのひとつぐらいかかっててもおかしくない。
「ただ、どうもやはり久しぶりに飲むと酔いが回りやすくて、あの時も思った以上に早く酔いがきたのでゆっくりと飲んでました。その後はなんとなく、飲む機会もなかったので飲んでなかったですし……今日飲むのも久々ですね」
「じゃあ、ペースは抑えめにしたほうがいいですね。水もあるので小まめに飲んで……」
「……まぁ、今日に関しては勢いが欲しいので……むしろ酔いたいですが……」
「うん?」
「あっ、いえ、なんでもないです!」
いま、小さな声だったけど……酔いたいっていったよな? ジークさんの性格的に酔っているところをあまり他者に見られたいとは思わなそうだけど……。
そもそもである。今日のジークさんは、ところどころ若干のおかしさがあった。浮足立ちぎみというべきか、地に足が付いていないような……大好きな触れ合いイベントではしゃいでるからだと思っていたが、それだけでは説明ができない部分もある。
そもそも互いに転移魔法具持ちであり、なおかつ事前にそんな話は出ていなかったのに宿屋を予約して一泊を想定していたのも不思議だ。
いつものジークさんなら宿泊するつもりなら事前に相談してくるはずだが……今回の件に関しては、そういう話は無かった。
それどころかところどころ、勢いで押し切ろうとするようならしくない姿もあった……。
例えるなら、そうなにかしらの目的はあったが尻込みしており、当日まで言い出すことはできなかった。だが、せっかくの機会だし、準備もしてきたのだからを意を決して実行に移しているような感覚だ。
そして、いくつかの場面での様子……先ほどの発言……時折落ち着きなく動いてる視線、感応魔法で伝わってくる複雑な感情……それらから導き出される答えは……えっと、つまりは、そう言うことなのだろうか?
「……ジークさん、ペースが少し早すぎます。一度水を飲んでください」
「あ、えっと……はい」
「あとその……無理に酔おうとしなくて大丈夫です」
「……え? ええっと……」
あくまで推測ではあるが、流石に間違いないとは思う。ただやはりジークさんもかなり尻込み気味というか、部屋がツインだったり、酒でワザと酔おうとしていたりと、勇気を出そうとしている節があちこちに見える。
知らないふりをしたままというのもひとつの手ではあるが、このままなにもかもジークさんのリードを待つというのも男が廃るだろう。
「せっかくの機会ですし、ゆっくり楽しく喋りながら飲みたいですしね」
「うっ、えっと……カイトさんは、私がワザと酔おうとしていたのには……」
「すみません、さっき呟いた言葉が聞こえたので……」
「あぅ……えっと、ですね、これはその……」
「ジークさん、せっかくツインの部屋を取ってもらっておいてなんなんですが……えっと、寝る時もリグフォレシアに行った時みたいにしませんか?」
「ッ!? ……あ、は、はぃ」
万が一勘違いであった場合は死んでしまいそうなほどの羞恥だったので、少し遠回しな提案をしてみたが……どうやら、俺の予想は間違いでは無かったみたいで、ジークさんは耳まで真っ赤になりながら頷いた。
そういう反応をされてしまうと、こちらも変に緊張してしまうのだが……まぁ、俺は泥酔したりすることは無いので、酒に逃げることはできない。
「と、とりあえず、いまはゆっくり酒を楽しみましょう!」
「そそ、そうですね! そうしましょう!」
互いに少し慌てつつ酒を飲み始めたが……互いに落ち着くまでにある程度の時間を要したのは語るまでもない。
シリアス先輩「や、やめおぉぉ!? 最初にリグフォレシア行った時みたいな難聴鈍感でいけよ! 時々見せる察しの良さをここで発揮した上に主人公感出してんじゃねぇぞ!!」




