ジークと過ごす一夜①
夜の部の魔物は、昼の部の魔物とはまた違った魔物たちが多くかなり楽しめた。夜行性の魔物の多くには、暗い色合いの魔物が置く、ナイトドラゴンなどは神秘的で綺麗だった。
夜行性ではないが、ジークさんのペットのセラも夜が似合う魔物だと思う。黒い体にオーロラの翼と、非常に映える見た目だ。
あと魔物ではないが、ネピュラも夜が似合いそうなイメージがある。星空のような独特の髪がそう思わせる要因かもしれない。
ともあれ夜の部の触れ合いイベントもしっかりと楽しむと、それなりに遅い時間になっていた。現在は夜の10時であり、流石にそろそろ宿に移動すべきだろう。
夜の部は深夜2時まで行われているらしいのだが、やはり昼の部に比べれば人は少なく2時間で一通り見て回ることができたし、何体かの魔物と触れ合いも出来た。
「……ジークさん、他に興味のある魔物とかいますか?」
「いえ、もう一通り見ましたし、そろそろ遅い時間なので宿に移動しましょう」
「了解です」
ジークさんが他に触れあいたい魔物が居るならと思ったが、どうやらジークさんも俺と同じようにそろそろ宿に移動しようと考えていたみたいだった。
今回の宿に関しては、ジークさんが予約してくれているので俺はどこの宿か分からないため、ジークさんの案内で移動する。
しばらく歩いて辿り着いたのは……なんとも、かなり高級そうな宿だった。
「え? ジークさん、ここですか?」
「はい。こちらです」
「……結構高そうな宿ですよ?」
「貴族などが利用することもある宿らしいです」
「え? じゃあ、結構高いんじゃ……やっぱり俺お金出しますよ?」
この街は観光地としても有名みたいなので、高級な宿があること自体は不思議ではない。しかし、貴族も利用するレベルの宿となると一泊のお値段はかなりの金額になるはずだ。
そう思って提案するが、ジークさんは苦笑しつつ首を横に振った。
「大丈夫です。たしかに以前であれば、このような場所に泊まるのは金銭的に厳しかったですが……いまはかなり貯えがありまして、せっかくなのでいい宿をとらせてもらいました。カイトさんと一緒に泊まるわけですし、やはりいい場所がよかったので」
「そうですか……まぁ、今回は一度厚意に甘えると決めましたので、ジークさんがそういうのであれば素直に甘えさせてもらいます。ただ、今度こういう機会があれば、その時は俺が奢りますからね」
「ふふふ、はい。次の機会も楽しみですね」
そんなやりとりをしながら宿屋に入り、受付で鍵を受け取った……ひとつだけ……あれ?
「あの、ジークさん? 部屋の鍵がひとつなんですが?」
「ひとつですね」
「俺の部屋の鍵は?」
「その鍵ですよ」
「……ジークさんの部屋の鍵は?」
「その鍵です。あっ、大丈夫ですよ! ちゃ、ちゃんとツインの部屋の予約をしたので、ベッドはふたつあります」
いや、そう言うことではないのだが……どうもジークさんの様子を見る限り、間違ったとか部屋に空きがなかったとかではなく、ワザとツインの部屋で予約をしたという風に見える。
しかもなんとなくではあるが、ジークさん……強引に押し切ろうとしている感じがある。
「ま、まぁ、受付で話し込んでも迷惑なので部屋に行きましょう」
「え? あ、はい」
受付で新しく部屋をとるという方法もありはしたが、流石にそれを実行する気にはならず、ジークさんに促される形で移動を始める。
ジークさんは後ろからでも分かるほど顔を赤くしながら俺の手を引いて歩いており、その様子を見るといろいろと思うところはあったが……それをここで口にするのも野暮だろう。
軽く息を吐いたあとで、俺はとりあえずしばらくはジークさんの意向に従おうと、そう思った。
部屋に辿り着いて中に入ると、室内はかなり広く窓際に大きなテーブルなどもあった。本当にいい部屋みたいで、かなり大きめの風呂もあり、室内には備え付けの魔法具も複数置いてあった。
「これはまた……かなりいい部屋ですね」
「広いですね。私も事前に聞いてある程度は把握していましたが、実際に目にすると少し驚きました」
「結構歩き回りましたし、座って一息つきますか?」
「いいですね。ついでに、お酒でも飲みませんか? 実はこんなこともあろうかと、前にカイトさんと一緒に飲んだ果汁酒を持って来たんです」
「リグフォレシアで飲んだやつですね。美味しかった覚えがありますし、それは楽しみですね」
ジークさんの言う果汁酒は、ジークさんの里帰りに付いてリグフォレシアに行った際、縁側を模した場所で一緒に飲んだお酒のことだ。
リプルを使った甘めの果汁酒で、かなり美味しかったのを覚えている。せっかくなので、俺もいろいろつまみを出すとしよう。甘い酒に合わせるなら、ナッツみたいなシンプルなものが良さそうだ。
シリアス先輩「ひぃっ……こ、攻勢かけてきやがった……」




