触れ合いイベント⑨
服を買い終えたあとでいくつかの店を回り、ちょうどいいぐらいの時間になったので会場へと戻って来た。夜の部用のチケットを買って入ってみると、会場内は昼の部とはまた大きく変わっていた。
全体的に暗めで幻想的な雰囲気であり、それなりの明るさはあるのだが、照明の色合いなども暗めのものが多い印象だった。
「たしかに、夜の部って感じの雰囲気ですね」
「夜行性の魔物の中には光を苦手とする種も多いので、特に照明に関してはかなり気を付けてる印象です」
「……パッと見た感じ鳥型の魔物が多いですね」
「夜の部は昼の部と違って、サイズではなく種類ごとに分かれているので、ここは鳥系の魔物のエリアという感じです」
「ああ、なるほど、だから鳥ばっかりなんですね」
そう言われて周囲を見てみると確かに鳥ばかりである。滅茶苦茶デカいフクロウみたいな魔物も居て、なんというか若干不気味な見た目の鳥も多い。
フクロウっぽい魔物に関しては5mぐらいあるので、夜道で不意に遭遇したら叫ぶ自信がある。
「……そういえば、ジークさんが見たい魔物は? 触れ合いチケットの関係上、早めに言ったほうがいいですよね?」
「あっ、そうですね。かなり人気の魔物で数も少ないので、急いだほうがいいかもしれません」
「なんていう魔物なんですか?」
「ブルーイヤーという大きな耳が特徴の魔物で、臨戦態勢になると耳が青く光るのでそう呼ばれています。見た目は……クマに近いですかね」
「……ふむ」
クマに近い見た目というと、可愛い系ではない気がするのだが……パンダとかも居るわけだし、人気という話なので意外とかわいい外見なのかもしれない。
そんな風に考えつつ、ジークさんと共に移動すると目的の柵に到着した。早めに来たのが功を奏したのか、まだほとんど人はおらず、これならすぐに触れ合いチケットを買って触れ合えそうだ。
「あっ、見てくださいカイトさん! アレです。可愛いですよ!」
「え? ……あれって……ああ、なるほど……」
触れ合いチケットを購入したタイミングで、ジークさんがはしゃいだ様子で柵の中を指差し、釣られて見てみるとブルーイヤーの姿が見えた。
なんというか……うん。ハッキリ言おう……『デカいコアラ』である。クマのようなサイズのコアラ……確かにこれは人気が出るかもしれない。
すぐに触れ合いの順番は回ってきたので、ジークさんと共にブルーイヤーに近付く。ブルーイヤーは大人しめの希少みたいで、地面にテディベアのような姿勢で座って近づいてくる俺たちをジッと見ていた。
「はぁぁ、可愛いですね。珍しい魔物ですし、直接触れる機会は貴重なんですよ」
「大人しいですね」
「ブルーイヤーは草食かつ温厚ですからね。魔法で縛られてなくても、そうそう人を襲ったりはしません。ただし、耳が青く光っている時は臨戦態勢なので注意する必要がありますが……はぁ、柔らかい」
「耳の感触が面白いですね。プニプニしてて、なんか癖になりそうな感触です」
ジークさんや俺が手を伸ばして触ってもブルーイヤーはのんびりしており、時折くすぐったそうに体を動かしたりはするものの、基本はされるがままである。
「あっ、カイトさん少し待っててください。このブルーイヤーには餌をあげてもいいので、飼育員から購入してきます」
「え? あ、はい」
ジークさんが餌を買いに行ったので、少しの間ブルーイヤーと一対一の状態になる。しかし、クマと同じぐらいのサイズなのでかなりデカい。普通に考えると怖さも感じそうだが、マジで大人しくてこっちに敵意を全然向けてこない。
頭を撫でたりすると気持ちよさそうな表情になるので可愛らしく、大人しくはあるが反応は人懐っこいという感じで、少し接して見ただけでも人気の理由が分かった気がする。
そうこうしているとジークさんが餌を買って戻って来た。
「あれ? これ、リプルですか?」
「はい。ブルーイヤーは果物が好物なので……さっ、どうぞ」
ジークさんがリプルを手に乗せて差し出すと、ブルーイヤーはそれを両手で挟むようにして受け取り、むしゃむしゃと食べ始めた。
「なんとも和む可愛らしさですね」
「はい。凄く可愛いです。あっ、カイトさんも上げてみてください。ひとり一個まで餌をあげてもいいらしいので」
「じゃあ、いまのものを食べ終わったら……」
ジークさんからリプルを受け取り、ブルーイヤーが手に持っていたリプルを食べ終わったのを見計らって、掌にリプルを乗せて差し出す。
するとブルーイヤーはジークさんの時と同じように、両手で挟むようにしてリプルを取る。その際にぷにっとした肉球の感触があって、なんとも心地よかった。
「しかし、リプルが好きなのは俺と同じで……うん?」
「ふふ、いまのカイトさんの言葉が聞こえたみたいですね」
「あはは、ありがとう。でも大丈夫だから、全部君が食べていいからね」
俺の呟きを聞いたブルーイヤーが、スッと食べかけのリプルを差し出してきたのは、たぶん俺もリプルが好きと聞いてお裾分けしようとしてくれたのだろう。
その愛嬌たっぷりの行動に癒されつつ、俺とジークさんはしばし触れ合いを楽しんだ。
シリアス先輩「教えてくれ! 触れ合いイベントから、イチャラブ宿泊イベントに移行するまであと何話なんだ!? 三話か?」
???「次からっすね」
シリアス先輩「展開が早い!?」




