触れ合いイベント⑥
小型エリアでプチデビと戯れたあとは、順番的に大型エリアに移動することになった。大型エリアには5mを越えるサイズの魔物が居るということで、流石に一匹一匹のサイズがデカい。
モンスターレースで見たレッドドラゴンやフェンリルもこの枠である。というか、あのフェンリル胸に穴が塞がったような傷痕があるので、ベルにブレスで撃ち抜かれたフェンリルではなかろうか?
「大型エリアは、あまり触れあえる魔物は多くないんですよね?」
「気性が荒い魔物が多いですしね。魔法により人に危害を加えることは出来なくなっていますが、それでもあのサイズで威嚇してきたりすると怖がる人も多いですし、暴れると柵などが破損する恐れもありますからね」
ちなみに柵が壊れても結界魔法があるので外には出れないらしいが、それでもパニックになる可能性もあるので触れ合いはできない魔物が多い。
ただ、一部大人しい魔物などは触れ合いもできるらしい。
「そうですよね。皆が皆、ベルみたいに大人しくていい子ってわけでもないですしね」
「……むしろベヒモスは、本来かなり気性が荒い魔物なんですが……ベルちゃんは、カイトさんに心底懐いていることもあって、カイトさんの言いつけをちゃんと守ってますからね」
ジークさんに言われてみて思い出す。俺にしてみればベルは大人しくて可愛い魔物なのだが、本来のベヒモスは……圧倒的格上であるリリウッドさんにも、若干自棄気味とはいえ攻撃しようとするなどしていたし、そう考えると気性は荒いのかもしれない。
「さすがに、超大型の魔物はいないんですね」
「会場のスペースもありますしね。それに、超大型となると竜種がほとんどです。魔物認定されている大型種のレッドドラゴンなどと違って、魔族認定されている竜種を捕獲したりするのは、竜王様に喧嘩を売るようなものですから、基本的に超大型竜種の捕獲などは違法にあたりますね。まぁ、そもそも超大型竜種はかなり強いので、しようとしても簡単に捕獲できる存在ではないです。ちなみに、超大型種でも魔族認定されていない……知性の低い魔物も僅かに存在するのですが、そちらは竜王様が管理下においてます」
そういえば、数十メートルのサイズならともかく100m越えの竜種で、魔族ではない種類は見たことが無い。やっぱり、そのぐらいのサイズまで成長する竜種は知性も高く、無暗に暴れたりはしないものなのだろう。
「なるほど……けど、残念ながらこのエリアの触れ合いチケットは売り切れみたいですね。この後は、一通りぐるっと見て回るとして、その後はどうしましょうか? 回り終えてすぐに帰るのも味気ないですし、回り終える頃には夕方でしょうから、どこかで夕食でも食べますか?」
途中で触れ合いのために並んだりしていたので、それなりに時間は経過しているし、会場自体が広いので一通り見て回ると夕方になりそうな感じだった。
回り終えたあとでどうするかと尋ねる俺に対し、ジークさんは少し躊躇するように視線を動かしたあとで、ゆっくりと口を開く。
「……じ、実はですね。この触れ合いイベントには、夜の部もありまして、そっちでも見たい魔物が……」
「夜の部?」
「ええ、夜行性の魔物も多いので……」
「ああ、言われてみればそうですよね。それじゃあ、食事のあとでもう一度戻って夜の部を見て回ることにしましょうか。遅くなっても、転移魔法具ですぐに帰れますし」
「……そ、そのことなんですが!」
「はい?」
そりゃ夜行性の魔物もいるよなぁと、ジークさんの説明に納得し夜の部への参加も決めたタイミングで、ジークさんがなにやら意を決したような表情を浮かべる。心なしか、少し顔が赤いようにも見える。
「その、せっかく遠出してきて日帰りというのも味気ないので、一泊して帰りませんか?」
「たしかに、慌ただしく帰るのもアレですし、この会場以外の場所は見てないので、それもいいかもしれませんが……すぐに宿が見つかりますかね?」
「実は……えっと、事前に予約しているんです」
「え? そうなんですか……俺の分も?」
「はい。言うのが遅くなってしまって、申し訳ないです」
「あ、いえ、全然問題ないんですが、お金を……」
なんと、ジークさんが宿を予約してくれていたみたいだ。当たり前だがこの世界にネット予約などは無いので、ジークさんは事前に一度この街に来て予約したのだろう。
宿屋は基本的に料金は前払いがほとんどであり、俺の部屋も予約しているということは、ジークさんが既に俺の分も支払っているということになるため、お金を渡そうと財布を取り出すが、ジークさんに手で制される。
「いえ、カイトさんにはいつもお世話になっていますし、私が勝手にしたことでもあるので、今回は私が出します」
「……そ、そうですが、分かりました」
ジークさんの表情は強い意志が籠っており、ここは素直に厚意に甘えておいた方が良さそうな感じだった。代わりに夕食代は俺が出そうと、そんな風に思いつつ頷くと、ジークさんが小さく何かを呟いた。
「……予約してるのは一部屋ですし……」
「え? いま、なんて?」
「なんでもないです! さっ、行きましょう!」
あまりにも小さな声で聞き取れなかったため聞き返したが、ジークさんは首を横に振ったあと俺の手を引いて、少し慌てた様子で歩き出した。
シリアス先輩「あ、あぁ……うわぁぁぁ!?」
???「おっと、ジークさんここで強い攻勢に出てきました。砂糖確定演出ですね」




