至高と幻の決戦⑤
アインさんの料理とアリスの料理、どちらを選ぶかの答えはまだ出ていないが、これ以上待たせると空気がまずい……そう思って非常に困っていると、突如景色が切り替わった。
そこは見覚えのある神界の花畑であり、俺は審査員席ではなくシロさんと向かい合った席に座っている。
「……あれ?」
「困っているようだったので」
「あ、いや、でも審査が……」
「いまこの神域の時間はズラしてあるので、ここでどれだけ過ごしても、実際の時間は経過しません。それならゆっくり考えられるでしょう」
紅茶を飲みながらそう告げるシロさんの言葉を聞き、俺は大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。これは、本当に助かった。考える時間ができたというのはありがたい。
「ありがとうございます……本当に助かりました。まだ答えが出ていなかったので」
「ふむ……答えとは?」
「えっと、アインさんとアリスの料理、どっちが上かの答えですね」
お礼を言うと、シロさんは無表情のままでコテンと首を傾げる仕草をしたあと、俺の説明を聞いて再び首を傾げる。
「それは、必ずどちらかが上と決めなければならないのですか?」
「え? そりゃ、審査なので……」
「引き分けでいいのでは?」
「………………え?」
当たり前のように告げられた言葉に、一瞬頭が真っ白になるような衝撃を受けた。なんというか、その発想は無かったというか、思い付いていなかった。
「快人さんの中では。ふたりの料理は互角だったのでしょう? では、引き分けでいいのでは?」
「……確かに」
言われてみれば盲点だった。アインさんが勝つ形が丸く収まるかと思っていたが、よく考えれば引き分けが一番綺麗に纏まるのではないだろうか?
実際に俺の感想としては、ふたりの料理はどちらも最高に美味しくてまったくの互角だった。素直な感想を言うのであれば引き分けだ。
「あの両名も、無理やり選んだ末の優劣など望まないのでは?」
「まったくもって、反論の余地もないです。あとはあの場の空気で俺にそれを言うだけの勇気があれば……」
「大丈夫です。私がルールとそう思っておけばいいのです」
「あ、あはは……なんというか、シロさんらしいですね」
これは完全にシロさんに助けられた。そう、悩まず堂々と素直な感想を言えばよかったんだ。アインさんもアリスも、シロさんの言う通りに無理やりの決着なんて望まないだろう。アリスに至っては、勝敗なんてどうでもいいと思ってそうだし……。
「ありがとうございました、シロさん」
「答えが出たようならなによりです。では、戻しますね」
「はい!」
返事をするとともに景色が再び切り替わり、メイドオリンピアの会場に戻ってきた。こちらを見るアインさんとアリス、他の審査員や観客の前で、俺は両方の皿を前に出した。
『おっと、これは? カイト審査員、皿を両方とも前に出しました』
「俺が食べた感想としては、両者ともにまったく互角で差はありませんでした。なので、俺の審査結果としては……引き分けです」
そう告げると、会場はザワザワと困惑したような感じの空気になった。それはそうだろう、2対2でこれで勝敗が決まるという場面で引き分けとなれば、微妙な空気になるのは仕方ない。
だが、俺の中では本当にピッタリ同率なので……これでいい。そう思っていると、フッと笑みを浮かべたアインさんが口を開いた。
「……さすが、カイト様ですね。正直、私も彼女の完成した料理を見た際に……まったく互角だと、そう感じました。おそらく、彼女の方もそうでしょう」
「……」
アインさんの言葉を聞いてアリスも無言で頷く。もしかしたら俺をフォローしてくれているのかもしれないが、どちらにせよふたりにとって、俺の審査結果に不服は無いみたいだった。
『では?』
「ええ、この勝負は引き分けです……ふふ、流石というべきですね。私は5人の審査員の好みに合わせて作った料理の中でも、特にカイト様に出した料理は自信作だったのですが……ただ、嬉しくもあります。この領域に至ってなお、互角に戦える相手が存在することに感謝しましょう」
「……」
『分かりました! それでは、今回のエキシビジョンマッチは……引き分けとなります! 皆さん、互角の戦いを繰り広げた偉大な2名のメイドに惜しみない拍手を!』
実況が締めくくると会場は万雷のような拍手に包まれる。アインさんがキレイに話を纏めてくれたおかげで、特に俺の審査結果に非難なども来ずにホッとした。
ただまぁ……次の機会は、無しでお願いしたい。というか、メイドオリンピアの審査はマジでもうやりたくない。
シリアス先輩「……天然神が滅茶苦茶まともなアドバイスしてやがる」
天然神「ドヤァ」
シリアス先輩「……そして、たぶんアインだけじゃなくて、アリスも快人に出した皿に一番全力出してそう」




