至高と幻の決戦③
さて唐突に始まったアインさんと幻のメイドによる料理対決。その対決の勝敗を決める審査員は、スーパーメイドの四人と……俺である。
理屈は分かる。ふたりの勝負ともなれば半端な者がでは審査できないということで、スーパーメイドたちを審査員に選ぶのは分かる。
そしてスーパーメイドは偶数であり、奇数にするために一人追加というのも分かる。だが、なぜそれに俺が選ばれたのかは……分かりたくない。
『さて、それではスーパーメイド四名にアイン会長公認のメイドアドバイザーであるミヤマカイト様を加え、審査の準備は整いました』
本当にナチュラルに俺をメイド界の重鎮的ポジションで紹介するのはやめて欲しい。さっき胃薬飲んだばかりなのにまた胃が痛くなってきた思いである。
現在俺は会場に特設させた審査員席に来ており……しかもなんか、俺が審査員の代表的なポジションで真ん中に座らされているという状態である。
「……大変ですね、カイトさん」
「いえ、カミリアさんも……」
唯一の救いは右隣にカミリアさんが座っていることであり、カミリアさんだけがこの異常空間での癒しともいえる存在である。
ちなみに左隣はアレキサンドラさんである。アレキサンドラさんに関しては、クリスさんを訪ねた際などに見たことはある。話したことは無いが、紅茶などを用意してくれていた方というのは覚えている。
いまになって思えば、クリスさんにとって俺は重要な客だったので一番腕のいいメイドに紅茶などを用意させていたのだろう。
「……こうして、お話するのは初めてですね。ミヤマカイト様」
「あ、はい。話したのは初めてですね。ご存知とは思いますが、宮間快人です」
「ご丁寧にありがとうございます。アレキサンドラと申します。いつも、クリス陛下がお世話になっております」
綺麗な金髪を結い上げた上品な顔立ちのアレキサンドラさんは、これはまた綺麗な動きで軽く頭を下げて挨拶してくれた。
よくよく考えれば、スーパーメイドに関してはカミリアさんは元々知り合い。ベアトリーチェさんは先日知り合った。アレキサンドラさんも城で何度か見かけていたということで……完全に初見なのはエミリーさんだけである。
いや、なにせ、ハイドラ王国の王城に関しては行ったことが無いのだ。ラグナさんと会う時は、ラグナさんの方から訪ねてくるか、前に一緒に釣りをした港で会うかのどちらかだったので、城に行ったことは無い。
エミリーさんは赤毛サイドテールの活発そうな女性で、パッと見た印象ではあるが明るい性格のようなイメージを受ける。
そんなことを考えている間に、準備が完全に整い勝負が開始されるみたいだった。それぞれいくつかの食材を手に取り、流れるような動きで料理を進めていく。
どちらもさすがの手際であり、加速などを行っていないにも関わらず目で追うのも大変なスピード……いや、実際目で追えなかったので、シロさん特性の眼鏡を着用した。この眼鏡、本当に便利である。
『両者ともに凄まじい手際で調理を進めていきます』
「……なんて美しい動き。どちらも調理に一切の無駄がない……戦慄しますね。調理風景を見ているだけで、いまの己では絶対に敵わないと理解できます」
アレキサンドラさんが息を飲むのも分かるほどにふたりの調理は凄まじい。材料や道具を見る限り、アインさんは洋食、アリスは和食を作っているような感じがする。
けど、あのふたりのスピードでそこそこの時間がかかっているという事は、結構大量に作るつもりなのかな?
『こ、これは!? 両者ともに同じ調理器具を5つずつとりだしました!?』
「……ふっ、流石ですね。私と同じように、審査員それぞれに合わせて味付けを変えるつもりですか……」
「……」
『なんと、両者とも1時間という制限時間の中で、五人の審査員それぞれに合わせた味付けの料理を用意するとのこと……なるほど、確かに味の好みは千差万別、それぞれの好みに合わせるのは重要です』
これは正直なるほどと思った。以前の六王祭の時みたいに、審査員が俺だけというわけでは無いので、俺好みの料理を作ればそれでいいというわけでは無い。
それぞれの好みに合わせた味を作るのが一番いい。もちろん、普通ならそんなことは困難だし、時間も足りないだろうが、あのふたりならば余裕である。
「……アイン様は分かりますが、あの謎のメイドは我々の好みを把握しているのでしょうか? しかし、それにしても……凄い実力者ですが、思い付く相手が居ませんね。アレだけの体捌き……伯爵級以上だと思うのですが……」
カミリアさんが不思議そうに首を傾げて呟くのを聞いて、ああそう言えばと思い至った。アリスの認識阻害魔法は超一級品であり、六王であっても簡単には見抜くことができない。カミリアさんも、幻のメイドの正体には気付けていないというわけだ。
これは、割と最近になって知ったことではあるが……俺から見ると明らかにアリスだとバレバレの存在の正体が不明だったりするのも、認識阻害魔法が原因らしい。
俺に関してはシロさんの祝福により認識阻害を自動で無効化するため、正体に気付けていると、そういうわけである。
……だから、誰もベビーカステラ仮面とか分かりやすすぎる存在の正体に気付かないのか……。
シリアス先輩「で、勝てそうなの?」
???「さぁ、どうでしょうね? 別にわた……アリスちゃんは勝敗には拘りないですし、負けてもいいと思ってると思いますよ……まぁ、カイトさんに関してはアリスちゃんが勝つでしょうけどね。そこさえ勝ちなら、他の有象無象の評価とかどうでもいいので……」




