至高と幻の決戦②
メイドオリンピアの会場に現れたアリス……もとい謎の仮面メイドの存在に会場が混乱する中で、アインさんが静かに告げる。
「彼女は、メイドとしての私のライバルであり、今回特別に私と一戦行うためにこの場に来てもらったんですよ。なかなか公に顔を出すことを嫌うので、交渉は苦労しましたが……」
『な、なんと!? 現れた謎のメイドは、噂に聞くアイン会長のライバルであり幻のメイドリックオーラの持ち主……幻のメイドだった!!』
「というわけで、これから彼女と一戦行うわけですが……疑問に思う者もいるでしょう。彼女の実力はと……なので、デモンストレーションということで……一杯紅茶を淹れていただけませんか? この場にいるメイドなら、それで貴女の実力は理解できるでしょう」
「……」
アインさんの言葉にアリスもとい幻のメイドは無言で移動し、慣れた手つきで紅茶を淹れ始め、それを見て会場が再び驚愕に包まれる。
『こ、これは、先ほどアイン会長が見せた紅茶の神……やはりこのメイドただ者ではない!!』
例によって俺には見えない紅茶の神を召喚したらしく、それによって幻のメイドの実力を疑う者はいなくなったというわけだ。
会場に居たベアトリーチェさんが退出し、会場の中央でアインさんと幻のメイドが向かい合う。
「……さて、勝負方法ですが、私からひとつ提案があります。いぜん六王祭の折に、料理対決をしたのを覚えていますか? あの時は横槍が入る形で無効試合となりましたが……どうでしょう、ここはあの一戦のやり直しということで料理対決というのは?」
「……」
アインさんが話しているのは、六王祭の前日に宿泊した際にアリスと行った料理対決の話だ。あの時は、アイシスさんが俺に料理を出したことでふたりは水を差される形となり、なんだかんだで互いに矛を収めた。いってみれば、アイシスさんの勝ちともいえる決着だった。
それを再度やり直そうというアインさんの提案に幻のメイドは無言で頷く。
「では、決まりですね。それでは、食材と調理器具の用意をしましょうか……準備時間は『5分』、私たちにしてみれば十分な時間だと思いますが、いかがですか?」
「……」
「異論は無いようですね。では、準備をしましょう」
そう告げた瞬間アインさんと幻のメイドの姿が消え、数秒後に大量の食材と調理器具と共に両者が再び姿を現した。
明らかに獲れたてっぽい巨大魚とかもあり、ほんの数秒で調達してきたみたいだが……あのふたりは時間を操作できるので、正体を知る俺は特に驚くことは無い。
「……な、なんや!? 一瞬で……どんなスピードやねん!?」
「アレは……ただの超スピードではなく、時空間系の魔法……おそらく時間の操作ですね。さすが、アイン様のライバルというだけあって、あの仮面のメイドも凄まじい実力者です」
茜さんとリリアさんの言葉を聞いて、俺は「おや?」と首を傾げた。茜さんはともかくとして、リリアさんも謎のメイドの正体がアリスだって知らない?
あ、そういえば、俺はそれなりに会ってるから忘れがちになっていたが、そもそもアインさんって表舞台にはほぼ出てこないんだったっけ? このメイドオリンピアとかメイド関連はともかくとして、普段はリリアさんの立場であってもアインさんと話す機会はほぼ無くて知らないというわけで、アリスがアインさんのライバルだとは知らないのか。
「どれも超一級の食材ばかりですね」
「ええ、それに扱いの難しい食材も多いです。ラインナップを見るだけでも、両者の実力の高さがうかがえますね」
フラウさんとルナさんも興奮気味で食い入るように会場を見ている。いや、まぁ、俺としてもアインさんとアリスの戦いというのは楽しみではある。
実際にあのふたりの実力はほぼ互角と言っていいし、どちらが勝つか予想もつかない。
そう思っていると、アインさんが再び口を開く。
「ふっ、失礼。5分は多すぎましたね。1分で十分でした……さて、では勝負形式ですが、アレコレと細かい条件を付ける意味もないでしょう。互いに最高と思える料理を作り勝敗を決める。ただし、高速で作り過ぎては観客が置いてけぼりとなるため、互いに時間操作や過剰すぎるスピード調理は無しとして……制限時間は1時間ということで、いかがでしょうか?」
「……」
たしかに見る側としては気付いたら完成していたというよりは、その方がいい。アインさんの提案に幻のメイドも不服は無い様子で頷く。
その反応に満足気に頷いたあとで、アインさんは高らかに宣言した。
「そしてもうひとつ! この勝負には特別審査員として『カイト様』を加えることにしましょう!!」
ちょっと待て。いきなりなにを言い出してるんだあの人!? 特別審査員? この状況で? この観客の中で?
いやいや、全力で拒否したいのだが……この人数の前で宣言されてしまっては逃げ出すのも難しいし、そもそも特別審査員を断った理由であるルナさんの応援に集中したいというのも、この場ではもう使えない。
「……カイトさん、胃薬飲みますか?」
「……効果があるかはわかりませんが、ください」
シリアス先輩「貴重な快人の胃痛シーンである」




