至高と幻の決戦①
アインさんとベアトリーチェさんの対戦方式。ベアトリーチェさんが長江の末に決めたのは……。
「……紅茶対決で、お願いします」
『おっと、ベアトリーチェ選手は紅茶対決を選択。現状で最もアイン会長に迫る可能性があると考えたのでしょうか? ともかく、決勝に続き対戦方式は紅茶対決に決定しました!』
ある意味では無難な選択かもしれない。ベアトリーチェさんは決勝の紅茶対決にて殻を破り、スーパーメイドからさらに成長してみせた……という解説だったし、いまの彼女にとって一番の武器はその戦いで見せた紅茶なのかもしれない。
ただ、それでもやはり、アインさんに対して紅茶で挑むのは……いささか無謀のように感じてしまう。
「……なるほど、紅茶ですか」
「ええ、決勝戦で感覚は掴みました。いまの私なら、メイドバーストを使わずとも……」
『おっと、コレは!? 紅茶を淹れるベアトリーチェ選手の背後に、決勝で見た紅茶の天使が再び姿を現した!』
うん、やっぱり見えないが……とりあえず、また出てるらしい紅茶の天使。それはすなわち、決勝戦でアレキサンドラさんに勝利した紅茶を完全に自分のものにしたということでもある。
そんなベアトリーチェさんの様子を見て、遠目ではあったがアインさんがフッと笑みを溢したようにも見えた。
そしてベアトリーチェさんが紅茶を淹れ終わるタイミングで、アインさんも動き出した。
「……素晴らしい成長です。ところで、貴女が見たという紅茶の神というのは……これのことですね?」
「なッ!?」
『こ、これは!? アイン会長の背に、神々しい紅茶の神が現れました!? な、なんという凄まじい雰囲気……』
どうやら紅茶の天使を出したベアトリーチェさんに対し、アインさんは紅茶の神を出してきたらしい。いや、どっちも見えないんだけど……謎のバトルは止めて欲しいものである。
「究極の所作には、それに相応しきヴィジョンが宿るものです。最も、他者に神を見せられるほどの所作となれば、紅茶を極めているといえる状態でなければ不可能ですがね。ですが、逆に言えば紅茶を極めていれば、メイドでなくとも紅茶の神を見せることは出来るのですよ。それは、技術であり、信念であり、練度であり……なんにせよ。まだ、貴女はこの段階には至れていないということ……今後も精進しなさい」
「くっ……」
『ベアトリーチェ選手、膝をついた! これは決まったか?』
「……参りました」
なんというか、アインさんの格上感が強い。あとサラッと紅茶の神とやらを誰でも出せるとか、メイド理論で語るのはやめて欲しい。
まぁ、仮に本当に出せたとしてもメイド以外には見えないわけだが……。
「す、すごい戦いでしたね。さすが、アイン会長……圧倒的です」
「ええ、ベアトリーチェ様もスーパーメイドに恥じぬ技を見せましたが、やはりアイン会長は余裕の様子……あまりにも、高い頂です」
例によってフラウさんとルナさんは盛り上がっており、興奮冷めやらぬ様子で戦いに付いて語り合っていた。
勝負に関してはベアトリーチェさん自身が敗北を認めて降参したため、アインさんの勝利となった。
『アイン会長への挑戦は、今回もアイン会長の圧倒的な勝利となりました。果たして彼女の本気を見る機会は我々に訪れるのでしょうか……ともあれ、これにて勝負は終わりとなり、次は表彰式に……おや?』
表彰式に移行すると言いかけた実況の言葉が止まる。その理由は単純であり、いつの間にか会場に新たな存在が現れていたから……。
黒い長髪でメイド服を身に纏った女性であり、顔を仮面で隠していて見ることができない……まぁ、間違いなくアリスである。どうやら姿は変えたみたいだ。
「何者ですか? あのメイド……おかしいですね? メイドリックオーラを……感じない?」
「え、ええ、私もまったく感じません。メイドリックオーラの無いメイドなんて……存在するんでしょうか?」
神妙な顔で話すフラウさんとルナさんだが……うん、だって、そいつメイドじゃないし……メイドリックオーラが無いのは必然である。
ともかく、いきなり現れた謎のメイドに会場が戸惑いの空気に包まれる中、アインさんが獰猛な笑みを浮かべて口を開いた。
「……ずいぶん待たされました。ですが、ようやく、貴女とこの舞台で競い合うことができるのですね!」
「……」
『こ、これは!? アイン会長のメイドリックオーラが凄まじい勢いで高まって……な、なんという……強大な……』
なんかよく分からないが、アインさんのメイドリックオーラが高まったらしく、フラウさんやルナさん……他の観客たちも青ざめた表情を浮かべていた。
そしてこっちはこっちで大変そうなフラウさんとルナさんは、苦しそうな表情で話す。
「こ、これだけ離れていても体が砕けそうです!? なんて凄まじいメイドリックオーラ……」
「ベアトリーチェ様も両手を付いて必死に堪えています。やはり近くであのメイドリックオーラを受けては――そんなっ!? あ、あのメイド……アレだけのメイドリックオーラに晒されながら、平然としていますよ!?」
「あ、ありえません!? メイドでありながら、あの至高のメイドリックオーラに晒されて平然としているなど……平然と……あ、ああ、そうか……メイドリックオーラを感じない。いや、私たちが彼女のメイドリックオーラを捉えられていないだけなのです! まるで幻の如く……」
「幻の……ま、まさか――幻のメイドリックオーラ!?」
なぜ、至高のメイドリックオーラに晒されても平然としていられるか? その答えは単純である……言いたい。俺はいま、心から叫びたい気持ちでいっぱいである……そいつメイドじゃないから!! と……さすがにこの空気の中で言えるわけもなく、俺はなんとも言えない表情を浮かべていた。
【至高のメイドリックオーラ】
究極のメイドリックオーラと呼ばれており、メイドとして真なる高みに至った者のみが纏うことができる。そのメイドリックオーラは他のメイドリックオーラを封じ込め、一切のメイド技の使用を不可能をさせるだけでなく、格下のメイドに大きなプレッシャーも与えるため、アインは普段このメイドリックオーラを極限まで抑えている。
【幻のメイドリックオーラ】
至高のメイドリックオーラに唯一対抗できるとされる謎に包まれたメイドリックオーラ。そのメイドリックオーラは格下には僅かすら感じることは出来ず、まるで存在しないかのように思えるため幻と評されている。他のあらゆるメイドリックオーラの影響を受けないとされ、至高のメイドリックオーラであってもこの幻のメイドリックオーラを封じることも威圧することも出来ない……とアインが語っていたが、アリスは心底嫌そうな顔をしていた。




