メイドオリンピア本戦⑪
30分の休憩が終わり、ベアトリーチェさんが会場に姿を現す。その表情は険しく、緊張が見て取れる。
『さぁ、それではメイド界の頂点……アイン会長の入場です!』
実況の言葉に促され、会場にゆっくりとアインさんが入場してきた。立ち振る舞いから感じる圧倒的な強者感、堂々とした佇まい。メイド力だとかメイドリックオーラだとかがよく分からない俺にも感じられる凄みがあった。
「ぐっ……や、やはり、凄まじいメイドリックオーラ……」
「こうして見ているだけで、押し潰されそうです。これでただ普通に立っているだけとは……さすが、頂点のメイド……」
なにやらフラウさんとルナさんは重圧に耐えるような表情を浮かべており、なんなら周囲の観客席のメイドたちもそんな様子である。
そしてもちろん、俺とリリアさんと茜さんはなんの重圧も感じていないので、またもや置いてけぼり感が凄い。
いや、理屈は分かるんだ。なんか圧倒的強者のオーラ的なのに気圧される感じなんだと思うのだが……そもそも、通常のメイドリックオーラすら分からない俺たちには、アインさんの強大なメイドリックオーラとやらもさっぱり感じ取れない。
「……まぁ、その反応である程度分かるんやけど……アインさんてやっぱ凄いんか? ウチとしては、クロム様のメイドぐらいのイメージしかないんやけど……」
「もちろんです。アイン会長はメイド界の頂点。そのメイド力は53万……ただ、それはあくまで平時であり、本気を出せば億を超えるメイド力を持つと言われています」
「……インフレ半端ないな」
茜さんの言う通り、10万越えでスーパーメイドと言われて世界に片手で数えるほどしかいないメイド界で、53万だとか億だとかの数値がいきなり出てくるとは……それだけ、アインさんが圧倒的ということなんだろう。
「アイン会長への挑戦では、メイドとしての地力が問われます。アイン会長の圧倒的なメイドリックオーラは、強大すぎてあらゆるメイド技を無効化させます。アイン会長の前では、メイドバーストなどの技も使用することができません」
「……えっと、そうですか……」
興奮気味に語るルナさんの言葉に、リリアさんがなんとも言えない表情で頷く。能力の無効化……強いボスが持ってそうな分かりやすい強能力である。
つまり、アインさんと戦う場合は小細工は通用せず、純粋にメイドとして培ってきた技量のみで勝負しなければならないと……たぶん、そんな感じだろう。
「アイン会長のメイドリックオーラは、至高のメイドリックオーラ……あらゆるメイドリックオーラの上位であり、メイドリックオーラそのものを封殺します……ただ、アイン会長自身が語っていた話ですが、噂に聞くアイン会長のライバルは、幻のメイドリックオーラを持つそうです。その幻のメイドリックオーラは、唯一至高のメイドリックオーラに対抗できるものであるらしいのですが……その名の通り、まさに幻ですね」
「……やめてくれんか? ここに来てさらに専門用語増やすんは……」
神妙な表情で呟くフラウさんに茜さんが突っ込むのを横目に、俺は背後に向かって周囲に聞こえないように小声で話しかけた。
「……そんなオーラ持ってるの?」
「とんでもない誹謗中傷ですよ。マジ止めてください……要するに、私がアインさんの気迫に威圧されないってだけの話でしょ。勝手にメイド扱いして、変なオーラを纏わせないで欲しいんすけど……」
心底嫌そうな声が返ってきたので、どうやらというか、やっぱりというか、アインさんが勝手に言ってるだけらしい。なんというか、アリスも大変である。
『さて、それでは恒例として、アイン会長への挑戦において、対戦形式は挑戦者が選択します。決勝戦の抽選魔法具に登録された対戦方式のリストをお渡ししますので、そちらから選んでください』
なるほど、アインさんへの挑戦では対戦方法に関しては挑戦者が選ぶ……つまり、自分の得意種目で挑むことができるわけだ。
「……ちなみに、過去に勝った人っているんですか?」
「いいえ、まったく。過去一度もアイン会長に勝つのは愚か、アイン会長の実力の半分も引き出せたものはいません」
「……さすが」
まぁ、俺も正直アインさんが負けるのは想像できない。カミリアさんが戦闘で挑んだとしてもほぼ瞬殺だろうし、他のメイド関連の技術はそれこそ極めに極めているだろう……勝ち目ないなこれ。
「……はぁ、というかこの後が憂鬱なんすよねぇ……大金詰まれたからって安請け合いするんじゃなかったです」
「……うん?」
「いえ、まぁ、いい加減毎々毎回出ろ出ろと五月蠅くて、売り言葉に買い言葉で『お金詰むなら一戦応じてやる』的なことを言ったら……まぁ、そういうことです」
「……そっか、頑張れ」
どうやら、この勝負のあとにもう一戦エキシビジョンマッチがあるみたいだ。本人滅茶苦茶嫌そうだけど……話を聞く限り金に釣られたっぽいので、自業自得だとは思う。
シリアス先輩「え? お前出るの?」
???「私ではなく、アリスちゃん……もとい、変装したアリスちゃんが出る予定です。マジ憂鬱ですけどね……だいぶ積んできたので……まぁ……一戦付き合うだけであの額と考えれば……滅茶苦茶美味しい話ではあるので……」
シリアス先輩「完全に買収されてやがる」




