メイドオリンピア本戦⑧
準決勝第二試合は、アレキサンドラさんとエミリーさんの対決となった。
『準決勝第二試合、アレキサンドラ選手対エミリー選手、スーパーメイド同士の戦いが続き会場内は非常に盛り上がっておりますが、アイン会長、この組み合わせはいかがでしょうか?』
なんというか、出来る実況という気がする。たぶん会場内の多くのメイド……メイドオリンピアを何度も見ている人たちにとっては、スーパーメイドの特色なども常識なのだろうが、俺たちのような初めての観戦者には解説が欲しい。
そして、実況のパスでアインさんが上手くポイントを解説してくれるのでかなり分かりやすい。
『そうですね。先ほどの組み合わせとは違い、この両者はそれぞれ得意分野がハッキリしています。アレキサンドラは技術を競う種目……たとえば、先の対決であったセッティング勝負などは彼女の得意分野であり、有利に戦えるでしょう。対してエミリーは持ち前のスタミナで量をこなす種目を得意とします。一定時間内に可能な限り大量に制作せよ等の数を競う競技であれば、彼女の方が有利と言えるでしょうね』
「なるほどなぁ、言ってみれば質と量の戦いちゅうわけか。質を競うならアレキサンドラさんが有利で、量を競うならエミリーさんが有利ってわけか」
「分かりやすい解説ですね。さすが、アイン様というべきでしょうね」
アインさんの解説を聞いて、茜さんとリリアさんも納得した様子で頷く。なんだかんだでふたりもここまでくると普通にメイドオリンピアを楽しんでいる感じだった。
実際ふたりの言う通りこの組み合わせはそれぞれの強みがハッキリしており、カミリアさんとベアトリーチェさんの戦い以上に、対戦方法に左右される勝負と言えるだろう。
『……さて、対戦方法が決定しました。内容は……着付けです! 選手両名には、それぞれひとりの人物の衣服をコーディネートしていただきます。出席するのは、勇者祭開催前夜の記念パーティと仮定し、両者とも子爵相当の地位であるとします。それぞれの特色や出身地とうは、用意されたボードを確認ください』
実況の説明と共に、アレキサンドラさんとエミリーさんの前には、貴族っぽさのある淑女が現れ、続けて非常に細かくびっしりと設定の書かれたボード、着替えを行うであろう外から見えないようになったボックスなどが用意された。
『制限時間は40分とします。なお、アクセサリー等も用意してあり、ドレス自体を仕立てることも可能とします。ただし、ドレスを着る時間も制限時間は進みますので、注意してください……それでは、スタートです!』
これは、またなかなか面白い勝負である。スーパーメイドのふたりであれば40分という時間でドレスを仕立てることも可能だろうが、着付けの時間も計算して行わなければならない。
あえて子爵と付けたり、細かな情報が記載されたボードがあるので、単純に豪華であればいいというわけでもない。
ただ、内容的には質を競うもののような気がするので、そう考えるとアレキサンドラさんがやや有利かもしれない。
『おっと、これは両者ともドレスの仕立てを行うようです!』
『必然ですね。この勝負においてドレスが与える印象は極めて大きいです。アクセサリーなどの小物も重要ですが、それ以上に多くのウェイトを占めるのはドレス……用意されたものよりも、それぞれに合わせた一着を作ろうとする判断は当然の帰結と言えます』
『なるほど……ところで、アイン会長。この対決はアレキサンドラ様有利と見てもいいのでしょうか?』
『総合的にはそうでしょうが、衣服の分化においてはハイドラ王国が流行の最先端でもあり、そういう意味ではエミリーの方が有利な点もありますね』
あっ、そっか、そういえばハイドラ王国は衣のハイドラって言われるぐらいファッションが有名なんだっけ。そうなると、単純にアレキサンドラさんが有利ともいえないわけか……。
そうこう考えている間に早々と両者はドレスを仕立て終えた。
「これはまた、ずいぶん雰囲気がちゃうなぁ……」
「アレキサンドラさんが作ったのは、伝統的な帝国式ドレス。エミリーさんが作ったのは、流行の最先端のドレスですね」
「古き良き伝統と、最新の流行の戦いって感じですか……」
茜さんとリリアさんの言葉に俺も頷きつつ勝負の行方を見守る。目を引くのはエミリーさんが作り上げたドレスの方ではあるが……コーディネートが進んでいく中で、エミリーさんは一瞬「しまったっ」と言いたげな表情を浮かべた。
『……おや? いまのエミリー選手の表情は?』
『彼女が作ったドレスはたしかに流行の最先端を取り入れつつ、貴族的な気品もある素晴らしい一着です。仮にこれがドレス作りの勝負であれば、エミリーの勝ちだったでしょう……ですが、残念ながらこの勝負は総合的なコーディネートを競う勝負です。用意されている装飾品の多くはオーソドックスなものが多く、あのドレスに合わせられるものは少ない。流石の彼女でも、装飾品まで一からすべて作っている時間的余裕はないというわけです』
『な、なるほど! 対してアレキサンドラ選手のドレスが伝統的なデザインであり、様々な装飾品を合わせやすいというわけですね!!』
『ハイドラ王国は流行の最先端であるから、ドレスも最先端のものをという意識に囚われ過ぎましたね』
これはまたなるほどと感心する解説だった。ドレスがいくら最先端でも……いや、最先端だからこそ、装飾品のデザインが合わせにくく足を引っ張ってしまう。特にアレキサンドラさんのドレスが定番で装飾品と合わせやすいドレスだからこそ、並べると違和感が強くなるというわけか……もちろん、見る人が見ればというレベルではあるのだろうが……。
そして、完成した審査においてはアインさんの言葉通り、定番ながら美麗にまとめ上げたアレキサンドラさんに軍配が上がった。
こうして、メイドオリンピアの決勝はベアトリーチェさんとアレキサンドラさんによって争われることとなった。
シリアス先輩「これ、仮にアリスが出てたとしてたどうなったんだろう?」
???「そりゃ、アリスちゃんなら流行のドレスに流行のアクセサリーまで全て自作しても、余裕で時間が余ったレベルで、負ける要素が無いですね」
シリアス先輩「さすが、アインのメイドとしてのライバル」
???「とてつもない誹謗中傷ですよ? マジ止めてください」




