メイドオリンピア本戦⑦
ついにきたスーパーメイド同士の戦い。最初はカミリアさんとベアトリーチェさんの戦いである。どちらも知り合いではあるが、仲がいいというか付き合いが長いのはカミリアさんの方なので、気持ち的にはカミリアさんを応援したいところではある。
しかし、正直カミリアさん本人的には、あんまり勝ち残りたいと思ってなさそうなのがなんとも……性格的に真面目なので、実際に勝負となれば手は抜かないのだろうが……不思議と立ち姿からどこか哀愁と諦めを感じる。
『準決勝最初は、カミリア選手対ベアトリーチェ選手……過去の戦績で言えば、カミリア選手がやや有利というところでしょうか?』
『そうですね。カミリアはそのバランスの名が示す通り、どの分野も安定して強いですね。ベアトリーチェももちろんメイドとして必要な技能は高い次元で持ち合わせていますが、どうしてもある程度得手不得手はあります。対戦種目次第といったところですね』
実況の言葉に解説のアインさんが説明してくれる。なるほど、分かりやすい。カミリアさんは、どの種目でも安定して強いが、得意種目が嵌った時の爆発力みたいなのはないという感じか……戦闘はジョーカーとして。
『おっと、そしてベアトリーチェ選手、片膝をつき、恒例の祈りの姿勢だ』
どうやら準決勝であっても戦闘が選ばれないように祈るのは恒例のようだ。まぁ、それに関しては当たったら負け確定なので、祈る以外に方法はないのだが……。
かくして、ベアトリーチェさんの祈りは届き戦闘以外の種目が選ばれた。
選ばれた種目は、パーティ会場のセッティング? どうするんだろうと、首を傾げていると……一瞬で会場の様子が様変わりした。
おそらくアインさんがやったのだろうが、ダンスホールを切り取ったようなスペースがカミリアさんとベアトリーチェさんそれぞれの立っている場所にある。
『それでは、説明します。今回の課題は《豪華絢爛かつ優美な立食パーティ》……それぞれが課題から思い描くパーティ会場を作り出してください。道具などは一通りありますし、マジックボックス等による持ち込みの材料やテーブル等を使用するのも可能です』
なるほど、それぞれのスペースを課題に沿って飾り付けるという感じの競技か……いや、でも、スペースがかなり広い気がするが、かなり時間のかかる勝負なのだろうか?
『制限時間は、45分です。それでは、スタート!』
制限時間短っ!? あの広さのスペースだと普通であればテーブルと食器並べただけで制限時間になってしまいそうな気もするが……まぁ、その辺りはどちらも相当の実力者であり、まるで早送りの映像のようにそれぞれのスペースが飾り付けられていった。
カミリアさんの方のスペースは、全体的にシンプルなデザインではあるが、気品を感じる高級感があり、洗練された上流階級のパーティ会場というイメージがある。
対して、ベアトリーチェさんのスペースは……課題通りまさに豪華絢爛というべきか、非常に煌びやかな雰囲気ではあるが、成金じみた嫌味な感じはなく派手でありながら計算されつくした一体感を感じる形にセッティングさていた。
『おっと、さすがどちらもスーパーメイドだけあって早い! 制限時間を20分以上残して、両者ともセッティングが終わった様子です。それでは、これよりアイン会長を含めた5人の審査員が10点満点で採点します』
なるほど勝敗は採点式か……アインさんと、4人のメイドがそれぞれスペースのテーブルや全体的な見え方などを確認して、手元のメモらしきものに書き込んでいた。
少しして審査が終わった様子で結果の発表となり、カミリアさんが9点、10点、10点、9点、9点で47点。ベアトリーチェさんが10点、9点、9点、10点、10点の48点となり、1点差でベアトリーチェさんが勝利を掴んだ。
『決まりました。勝者はベアトリーチェ選手! アイン会長、今回の勝負のポイントはどこだったんでしょうか?』
『どちらもそれぞれの個性を生かした素晴らしいセッティングではありました。技量自体には差はないでしょう。ただ、少し仕える主の違いが出ましたね。カミリアの主は界王リリウッド……彼女は贅沢をよしとしない性格なので、カミリアのセッティングも飾りなどは極力少なく、上品さと落ち着きを重視したものでした。もちろん素晴らしかったのですが、一目見た際のインパクトという面でややベアトリーチェのセッティングに劣っていた印象です。彼女は王城のメイド長なので、豪華なパーティのセッティングにも慣れていて、シンフォニア様式を取り入れた課題にピッタリなセッティングでしたね』
『なるほど、その辺りが勝負を分けたのですね』
『ええ、ただ、あえて言うのなら……と、そのレベルの差でしかなく、もう一度やればカミリアが勝利する可能性もあるほど両者の実力は拮抗して、いい戦いでした』
なるほど、確かにカミリアさんのセッティングは美しく上品で、見れば見るほど細かな部分まで拘ったものであるのが分かるが、パッとみた豪華絢爛さで言えば、確かにベアトリーチェさんの方が上だ。
……奥が深いというか……困ったことに、本当に見てて面白いぞ……メイドオリンピア。
シリアス先輩「なるほど、仕える主によってある程度方向性が変わるか……しかし制限時間が短すぎない?」
???「準決勝まで勝ち進むレベルのメイドには、余裕でしょう」
シリアス先輩「……本当にメイド=超人という図式に疑問を抱かなくなってきた自分が凄く嫌だ」




