メイドオリンピア本戦②
ルナマリアが発動したメイドバーストにより、会場内のボルテージが上がるが、もちろん付いていけていない者たちもいる。
なんとも言えない表情を浮かべつつ、茜は隣にいるフラウに説明を求める。
「……フラウ、メイドバーストってなんや? なんか、盛り上がってんのは伝わってくるんやけど」
「メイドバーストとは、メイドリックオーラの根底であるメイドスピリットを燃え上がらせ、一時的に限界を越えたメイド力を発揮することができる技です。メイドバーストとは、理想を求めるメイドの姿そのものであり、それを発動したものは目指すべき理想メイドヴィジョンを見て、その理想を限界を越えて再現すると言われています。その性質上、理想を強く思い描けるメイドでなければメイドバーストは発動できないと言われており、なによりメイドとして培った日々、メイドメモリーの深さが問われる難しい技です。ただ、メイドバーストはメイドリックオーラを大幅に消費する諸刃の剣といっていいので、まさに決死……」
「……なんでや、なんで、知らん単語の説明を求めたら知らん単語の数が増えんねん。やめろよホンマ、未だに既出の単語すら処理できてへんのやから……というか、メイドリックオーラって、魔力みたいに消耗するもんなんか?」
「……会長、なにを当たり前のことを……冗談が好きなのは知っていますが、常識を疑うような質問をしていては周りから変な目で見られますよ?」
「お前らの世界の常識やろうが!! ウチはそっちの世界に、おらへんねん!!」
猛然とツッコミを入れる茜の言葉に、快人やリリアも深く頷くが……残念ながら、この場はメイド界に生きる者たちが大半であり、3人はかつてないほどのアウェー感を覚えていた。
とりあえず、理解することは諦めて、ルナマリアの戦いを見守ることに決め、視線を会場へと戻した。
その会場では、淡い輝きを放つルナマリアに対し、対戦相手のアンネが不敵な笑みを浮かべる。
「なるほど……ですが、見くびらないで貰いましょう!」
『おっと、コレは!? アンネ選手もメイドバーストを発動しました! 彼女もまた歴戦のメイド、当然メイドバーストも使えます……となると、アイン会長、この勝負は?』
『ええ、互いのメイドヴィジョン……再現する理想の姿が勝負を分けるでしょう』
ルナマリアが纏う白銀の光に対し、アンネも金色の光を纏う。観客席の茜は「なんで光るねん」と遠い目で突っ込んでいたが、競い合う両者の耳には届かない。
アンネは素早く調理台に食材を並べ、美しさすら感じる動きで調理を開始する。
「……残念ですが、貴女に勝ち目はありません。私はアレキサンドラ様の下で長く鍛錬を積んできました。私がメイドヴィジョンで再現するのは、当然アレキサンドラ様の技術! メイドバーストによるメイドヴィジョンの精度は、その理想をいかに深く知るかによって差が生まれる。貴女が仮に、同じようにアレキサンドラ様のメイドヴィジョンを見せたとしても、私には遠く及び――ッ!?」
自信を持ち高らかに勝利を確信するような言葉を口にしようとしていたアンネだが、直後に言葉を止め驚愕に目を見開いた。
視線の先ではルナマリアも調理を開始しており、その動きを見たアンネは冷や汗が流れるのを感じていた。
(こ、これは……このメイドヴィジョンから感じる、桁外れのプレッシャーは!? それに、なんて流麗な動き……馬鹿な!? こんな、こんなことが……アレキサンドラ様のメイドヴィジョンをほぼ完璧に纏っているはずの私が……恐怖している!?)
ルナマリアの調理風景を見て、アンネの体は無意識に震えていた。それは、ルナマリアが纏うメイドヴィジョンの先、再現しようとしている理想に凄まじい力を感じたからだった。
理解が追い付かないアンネだが、その戦いを別の場所で見ていたスーパーメイド……アレキサンドラは、静かな表情で呟いた。
「……無理ですわね。なにせ、あのルナマリアさんとやらが思い描いているメイドヴィジョンは、私より遥かに、圧倒的に強い。ルナマリアさんの技量ではメイドバーストを用いても完璧には再現出来ぬほどに……ですが、その不完全な状態のメイドヴィジョンですら伝わってくる桁違いのメイド力……何者ですか?」
「ふっ、教えてあげましょう。彼女が思い描いているメイドヴィジョンは、彼女だけでなく私にもメイドの基礎を教えてくださった方です。メイドオリンピアに出たことは無いので、貴女が知らないのは無理もないでしょう」
「ベアトリーチェさん? そういえば、師と呼べる相手が居ると仰っていましたね……スーパーメイド以外にそれほどの存在がいたとは……驚きましたが、なんとも面白くなってきましたわね」
ベアトリーチェの言葉に、アレキサンドラはどこか獰猛な笑みを浮かべていた。彼女はアインを除き、メイド界では最大のメイド力を持つ存在といっていい。そんな己を越えるメイド力の持ち主が、まだ世界には存在していると知り、驚きと共に嬉しさを感じているようだった。
その隣で、ベアトリーチェはルナマリアの成長を見て、優し気な笑みを浮かべた。
(……成長しましたね、ルナマリア。まだまだ、イルネス先生の技術を再現できてはいませんが、それでも王城でイルネス先生に指導されていた頃から考えると、見違えました。貴女ならいずれ……スーパーメイドの領域に上ってくるかもしれません。ふふ、楽しみですよ)
シリアス先輩「過去一ぐらい、鎬を削り合う戦いとしてるし、強者たちが語る雰囲気もシリアスっぽいけど……メイドと思うとなんかやだ。あと、茜に凄く同意。増やすなよメイド関連用語……」




