メイドの挑戦⑨
周囲の熱気に取り残されつつあるが、とりあえず開会式は続いていく。
『さてそれでは、今回の大会に先立ちまして、世界メイド連盟及び世界メイド協会会長、メイド研究会名誉教授、メイド管理機関特別理事にして、メイドオリンピアの審査員長でもありますアイン様よりお言葉をいただきます』
肩書多っ!? 世界メイド連盟、世界メイド協会、メイド研究会、メイド管理機関……いまらっと言われただけでも4つ組織がある。さらにメイドオリンピアの運営にも関わってるだろう。
やっぱりというか、完全にこの世界のメイドがおかしいのは全部アインさんのせいだと思う。どう考えてもあの人が主導してるし……感性もこれまでで一番デカい。
「会長、あちらが世界最高のメイドであるアイン様です」
「クロム様のメイドの人よな? あんま話したことはあらへんけど……」
「ええ、メイドオブメイド、メイド界の頂点など様々な通り名を持ちます。そのメイド力は530000と言われています」
「そりゃまた、凄いなぁ。参加者で一番高いスーパーメイドとやらでも130000やろ? 4倍以上やん」
「ええ、しかも、まだアイン様は一度もメイドオリンピアで全力を見せたことは無いと言われていて、その真の力は100万を優に超えるのではとも言われています。メイドオリンピアでも圧倒的な強さで10連続優勝を決め、相手になるものが居ないため審査員になったとのことです。ただ……噂では、世界でただひとりだけアイン様のライバルが存在するらしいのですが……詳細は一切不明で、謎に包まれています」
当たり前ではあるが、アインさんはメイド界においては超が付く有名人である。なにせ、世界中のメイドのトップであり、一種のカリスマともいえる存在なのだろう。
会場の熱狂も先ほどまでより凄いし、フラウさんも憧れるような視線を向けている。
「……マジで、恐ろしい風評被害は止めて欲しいんすけど……」
「アインさんに言え」
「言っても聞かねぇんすよ」
背後から俺にだけ聞こえる小声で、心底うんざりしたような声が聞こえてきた。まぁ、アインさんの言うライバルというのは間違いなくアリスのことであり、アリスはうんざりしているのは理解できるし、この件に関しては素直にアリスに同情する。
『……ここに集まった覚悟あるメイドたちに、いまさらメイドとはなにかなど基本的なことを語るつもりはありません。貴女たちは日々メイドとして研鑽を積んできたでしょう。それは技術であり、心であり、戦闘力であり……いずれも一流のメイドには欠かせぬものです。今日はその磨いたメイドとしての技量を存分に示して、ライバルたちと競い合いなさい。ですが、これだけは言っておきます。勝利に満足してはいけません。たとえこの大会で優勝したとしても、それはメイドを極めたことには程遠い。メイドという道は遥か先まで続いています。同時に敗北に蹲っている暇などありません。貴女たちは皆、果てなきメイド道を歩き続ける探求者なのです。前を見て進み続けなさい……今回の大会が、貴女たちが踏み出す一歩の助けとなることを祈ります』
熱意を持って語るアインさん……メイドって本当になんだろう。そんな、この世界に来て幾度となく湧いてきた疑問が再び湧き上がってくる。しかし、残念ながら今回も答えは出そうにない。
「……ところで、これ、どんな競技を行うんですか?」
「最初はオーソドックスなものですね。参加者も多いので、振るい落としも兼ねて大人数で競い合える競技で予選が行われます」
「……メイドの競技で、大人数で競い合うってなんやねん」
リリアさんの呟きにフラウさんが説明し、茜さんがツッコミを入れる。そうこうしているうちに開会式は終わり、続けて競技が発表される。
『それでは、予選となる競技は……メイドとしての必須事項である。戦闘力を競う競技です! グループに分かれてのバトルロワイヤルです!』
「……なぁ、フラウ?」
「なんですか?」
「オーソドックスなんか?」
「定番中の定番ですね。メイドたるもの、戦闘力は必須です」
「……そうか……なんやねんメイド……」
茜さんのどこか諦めたようなツッコミに全面的に同意である。初手からバトルロワイヤルって……。
「ああ、ちなみに参加者には既にグループ分けの紙は配られていまして……私は6組、ルナマリアさんは2組ですね。ちなみにスーパーメイドの方々と全大会ベスト8の参加者は予選免除です」
「……けど、戦闘力を競うならルナさんは突破の可能性も高いんじゃないですか?」
「そうですね。ルナなら大概の相手には負けないでしょう……ただ、参加者の一部には爵位級レベルの方も居るみたいなので、その辺は注意ですが……」
爵位級レベルもいるのか……ますます怖いなメイド。
シリアス先輩「……メイドとはいったい……」




