メイドの挑戦⑧
メイドオリンピアの開会式はまず、選手の入場から始まった。ルナさんなどの一般参加というか、メイド界においてそれほど有名ではない方々はまとめて入場してきており、続いて上位入賞経験のある者たちが入場してくる。
「会長、ミヤマ様、公爵様、そろそろ来ますよ……スーパーメイドたちが!」
興奮した様子で告げるフラウさんの言葉に呼応するかのように、周囲のボルテージが高まったような気がする。もちろん俺たちはテンションについていけていないので、置いてけぼり感が凄いが……。
『さぁ、来ました! メイドの心技体のひとつ心を極限まで高めた熱きメイドの求道者! その身に纏う苛烈のメイドリックオーラは熱き心の炎となって我らの心にも火を灯します! シンフォニア王国王城メイド長……心のスーパーメイド、ベアトリーチェの入場だ!』
聞こえてくる大歓声と共に、会場に悠然と入場してくるのはベアトリーチェさんであり、その歩く姿にはどこか強者のオーラが感じられるようだった。
さすが世界で4人しかいないスーパーメイドとあれば、極めて人気のようだ。
「心のスーパーメイド、ベアトリーチェ様……さすがに凄まじいです。あの方の象徴たる苛烈のメイドリックオーラを前にしては、未熟なメイドは立ち向かうことすら出来ず心折れることでしょう」
「……そ、そうなんか……凄いな」
グッと拳を握って熱く解説するフラウさんに、茜さんがなんとも言えない表情で言葉を返す。その直後に再び大きな歓声が聞こえてきた。
『続いて入場してきたのは……その姿は瀟洒かつ優雅、長き歴史を誇る帝国の貴族社会にて常にメイドとして第一線に立ち続けてきたその技術は、見る者を魅了する美しさがあります! アルクレシア帝国メイド長……技のスーパーメイド、アレキサンドラの登場です!』
続いて入場してきたのは、一見すると貴族の令嬢のような美しく優雅な佇まいの女性で、メイド服ではなくドレスを着ていたなら高位貴族と間違えたかもしれないというほど、歩く姿も洗練されている気がした。
「技のスーパーメイド、アレキサンドラ様……一説では元皇族であり、皇女という立場に生まれながら、メイドという存在に惚れ込み立場を捨ててメイドとなった存在です。その技術はメイド界でも屈指であり、最も美しく戦うメイドとも呼ばれています」
「……なんで、メイドの異名に『戦う』って文字が入ってんねん」
本当に茜さんが居てくれてよかったと思う。俺が突っ込みたいことをすぐに突っ込んでくれるので、こちらとしては少し楽である。
そして、心、技とくれば、当然次は……。
「続いての入場は、でました! その圧倒的なスタミナは底無し、果たして彼女には疲労という概念が存在するのか! ハイドラ王国の誇る不沈艦は、今日もまたメイドオリンピアの場で躍動します! ハイドラ王国王城メイド長……体のスーパーメイド、エミリーの登場だ!」
入場してきたのは190㎝近い高身長でメイドであり、ニコニコと人のよさそうな笑顔を浮かべており、なんと言うか元気で明るい女性といった印象を受ける方だった。
「体のスーパーメイド、エミリー様……沈まぬ太陽の如く無尽蔵のスタミナを持つ方であり、彼女に持久戦を挑むのは自殺行為です。終盤までそのパフォーマンスが衰えることは無いでしょう」
「……いや、メイドの大会で持久戦ってなんやねん」
これで、心技体のスーパーメイドが出そろったわけで、となると次に出てくるのは……。
『そして最後の入場は、来ました! 彼女こそ理想のメイド像、あらゆるメイドのお手本と言っていい存在です! 基本に忠実ながらすべてが高次元に洗礼されており、派手さはなくともその強さを疑う者などいないでしょう! 界王配下幹部七姫の一角にして、前大会覇者! バランスのスーパーメイド、カミリアです!!』
ここにきて一番大きな歓声が上がる。カミリアさんは自分のことを街中を歩いていても気付かれないと評するが、メイド界では滅茶苦茶有名らしい。
というか、カミリアさんメイド服着てるんだけど……たぶん、アインさんにやられたのだろう。なんか、若干目が諦めの籠った感じになってる気がする。
……あと、カミリアさんが前回の優勝者なのか……。
「キャー! カミリア様ぁぁぁぁ! サインください!!」
「いや、解説はせんのかい!? ただミーハーか、お前……」
「し、失礼、憧れのメイドなので……こほん。気を取り直して、バランスのスーパーメイド、カミリア様……基本を究極の域まで突き詰めた存在というべきでしょうか、とにかくお手本のような所作で、目指すべきメイドの理想形とまで語られています。あと、戦闘力は間違いなく参加者でトップですね!」
「……戦闘力のくだりいるか? いるんやろうな……この世界のメイドなら……」
なんとなくではあるが、茜さんが疲れているのを感じた。気持ちはよく分かる。入場だけでもうすでに濃すぎて、会場の空気も凄まじいせいで、どうにも気疲れしてしまうのだ。
出だしからこんな感じだと、本当に不安である。
『心のスーパーメイド』 ベアトリーチェ メイド力120000
カリスマ性と熱い向上心、高い指揮能力などを兼ね備えた優秀なメイドであり、燃え滾るような熱い魂を宿している。並のメイドでは、彼女の前で立つことすらできないと言われている。
『技のスーパーメイド』 アレキサンドラ メイド力130000
本名をアレキサンドラ・リア・アルクレシアというれっきとした元皇族ではあるが、メイドとなるために王族の地位は捨てた。魔族との混血であるため、数百年に渡ってアルクレシア帝国にてメイド長を務めている。
『体のスーパーメイド』 エミリー メイド力110000
元々はハイドラ王国の漁師の娘であり、明るく元気な女性。マーメイド族とのクォーターであり、なにより圧巻なのはそのスタミナであり、不沈艦の異名を持つ。
『バランスのスーパーメイド』 カミリア メイド力100000
スーパーメイドの基準でもあり、メイドとしてお手本とまで言われている存在。普段の影の薄さとは裏腹に、メイド界ではかなりのスターである。ただ、やはりメイド服を着ていないと中々気付かれない。メイド服は例によってアインに渡され、断り切れずに毎回着ている。




