メイドの挑戦⑤
メイドの祭典メイドオリンピアは4年に一度開催されるメイドたちにとっての一大行事……らしい。ただ、開催場所はほぼ知られておらず、メイド……あるいは、参加者から招待を受けた観戦者のみにしか知らされない。
というもの、どうも毎回開催場所が違うみたいで、開催場所に着いては日程が近くなるとアインさんよりメイドたちのネットワークによって伝達されるらしい。
メイドオリンピアを取り仕切るのは世界メイド協会というこれまた謎の組織で、例によって代表である会長はアインさんらしい。
この世界のメイド文化は、だいたいアインさんのせいである。
「……そうですか、ルナマリアの応援に集中したいということであれば、無理強いも出来ませんね。でしたら、今回の特別審査員の依頼は取り下げます」
「ありがとうございます。でも、そもそも、俺にメイドオリンピアの審査員は務まらないんじゃないですかね?」
そもそもメイドオリンピアがなにをするのか不明なんだけど……メイドとしての技能を競うってことだから、紅茶淹れたり掃除したりするってことかな?
そう思えば一種の競技会として楽しめなくもない……のだろうか? 料理対決とかあれば、見た目的には楽しめそうな気もする。
「いえ、カイト様は世界メイド協会が認定するメイドアドバイザーなので、問題は無いかと」
「……メイドアドバイザー? 俺が? なんで?」
俺はいつの間にそんな謎の称号を認定されたのだろうか? 全く心当たりがないし、本当にやめて欲しい。なに勝手に俺をメイド界に組み込んでいるのだろうか……。
そしてそもそも、俺にメイドに対してアドバイスできるようなことはなにも……。
「カイト様は以前、六王祭の場にてメイドとしての在り方に思い悩む私に、メイドとはなにか、メイドの誇りとはというものを思い出させてくれました。あの時の熱い言葉は、いまも私の胸に深く刻まれています」
「……」
……言ったわ。たしかに、あの時その場のノリとテンションで、分かったような感じでメイドじゃないって落ち込んでるアインさんを慰めた気がする。
世界メイド協会の会長で、メイド界において重鎮中の重鎮……トップと言っていいアインさんの、メイドに関する悩みを解決した。だから、メイドアドバイザー……そうか、身から出た錆ってのは、こういう時に使う言葉なんだ。
「……ま、まぁ、そういうわけで、俺は普通に観客として参加しますよ」
「畏まりました。カイト様が見て満足いただける大会にできるよう、運営側として努力します」
「……が、頑張ってください」
なにをどう頑張るのかは分からないが、まぁ……いいか。
「そういえば、今回の開催地って決まってるんですか?」
「ええ、今回は魔界の南部を利用するつもりです。マグナウェルと、エインガナにも協力して貰い。メイドたちが競技で『狩る獲物』も確保してあります。あとで地図をお渡ししますね」
「……了解です」
メイドとしての技術を競い合う大会なんだよね? なんで狩るとか獲物とかって単語が出てくるのかな? 狩人の大会じゃなかったはずなんだけど……メイドとはいったい……。
「そういえば、今回は実はネピュラ様に賞品の協力をしていただいたんです」
「え? ネピュラにですか?」
「ええ、月に一度の、茶葉購入に来た際にティーカップを自作しているという発言を聞きまして、見させていただいたのですが、素晴らしい造りの一品でした」
「まぁ、ネピュラは凄いですからね」
さすがはアインさん、メイドたちの頂点に立つだけあっていいものを見抜ける素晴らしい目を持っているみたいだ。そう、ネピュラとイルネスさんが作っている陶磁器は本当に素晴らしい出来だ。
それこそ、個人的には身内の贔屓目もあるかもしれないが、高級店に並んでいても不思議ではないと思うほど……。
「さらにアイディアを凝らした細工砂糖など、数々の素晴らしい品を作り出しており、私も本当に感激しています」
「アインさんにそう言ってもらえると、ネピュラも嬉しいと思いますよ」
うんうん、俺としても本当に誇らしい思いだ。ネピュラはいろいろアイディアも豊富だし、それを実現させる器用さもある凄い子だ。
砂糖もチョコレートも陶磁器も、本当に毎回驚かせてくれるし、次はなにをするのだろうという楽しみもある。
「それで、ネピュラ様に依頼してメイドオリンピアの優勝賞品として、世界メイド協会の紋章が入った特別デザインのティーセット。上位入賞者への景品として細工砂糖の詰め合わせを用意していただきました」
「なるほど、そうだったんですね」
「ええ、快く引き受けてくださって本当にネピュラ様には頭が下がる思いです。素晴らしい賞品があれば、参加者たちの切磋琢磨もより見ごたえのあるものになるでしょう」
「ふむふむ、楽しみですね」
まぁ、そうだよな。ネピュラの作った品が賞品となると、皆やる気を出すと思うし見ごたえのある大会になりそうだ。
これは少し、メイドオリンピアが楽しみになってきたかもしれない。
シリアス先輩「メイドオリンピアにさんざん文句を言っておいて、この掌返し……親バカモード発動中」
???「まぁ、アインさんもご機嫌取りとかじゃなく本心で言ってるので、カイトさんも上機嫌なんでしょうね。その辺は感応魔法で分かりますし」




