メイドの挑戦④
とりあえず、ベアトリーチェさんとネピュラの戦い? 戦いではないかもしれないが、実力を見極めるという話は、ネピュラが勝利した様子である。
若干のよく分からないメイド関連のやり取りはあったものの、これでひとまずこの一件は解決と……。
「ありがとうございました、師匠。おかげで、メイドオリンピア前に大切なこと思い出せました」
「参考になったのなら、なによりです」
嫌な単語が聞こえてきたな。メイドの祭典メイドオリンピア……いまの口ぶりだと、まるでその開催が近いみたいな話じゃないか……。
すごく嫌な予感がするから、出来れば知りたくなかったんだけど……。
そう思っていると、ベアトリーチェさんがルナさんの方を向いて口を開く。
「そういえば、今回はルナマリアも初めての参加となるのでしたね」
「はい。4年前はまだメイド力が基準に達していなかったので、今回からようやく参加できます」
「そうですか……4年でそこまでメイド力を伸ばすのは見事なものです。ですが、メイドオリンピアはそう簡単に勝ち抜ける場ではありません。周りは全て格上と思って参加してください」
「はい! ですが、『応援に来てくれるお嬢様』の前で無様は見せられませんので、しっかりと全力で頑張るつもりです」
ベアトリーチェさんの言葉に力強く答えるルナさんだが、大丈夫? リリアさんが、完全に初耳って顔してるんだけど……。
「……あの、ルナ? 完全に初耳なんですがえっと、メイドオリンピア? そういう大会があるんですか?」
「ええ、メイドによるメイドのための祭典、4年に一度のメイドオリンピアです。私もようやく、今回初参加できます」
「そ、そうですか……それはよかったですが……えっと、私が応援というのは?」
力強く頷くルナさんに対し、リリアさんは戸惑った表情を浮かべており、メイド関連の話についていけないという感じがありありと出ている。
気持ちは凄くよく分かるし、実際俺もついていけていない。あと、このままここに居ると俺も巻き込まれそうな流れだから、出来れば帰りたいんだけど……退出するタイミングを逃してしまった。
「……え? 私は、親友であるリリは、私の晴れ舞台を応援に来てくれると思ってたんですが……違うんですか?」
「……行きます」
「さすがお嬢様、話が分かる主を持てて私は幸せです」
そして、リリアさんの弱さである。いや、まぁ、リリアさんの性格上ああ言われては拒否も出来なさそうではあるが……いや、助けを求めるようにこっちを見ないで欲しい。俺はできれば参加したくない。
なんか、これ以上メイド界に関わると、俺の脳まで浸食されそうな気がするので……。
「ああ、そういえば、ミヤマ様に関してはアイン会長が特別ゲストとして招く予定らしいですよ」
「……完全なる初耳なんですが、そして、マジで勘弁してほしいんですけど……」
「扱いとしては、特別審査員とかになるのでは?」
「……」
ヤバい、そんな役割は嫌だ。だって、分かんないもんメイドのことなんて……いや、仮に普通のメイドが分かっていたとしても、この世界のメイドには付いていけないと思う。
しかし、しかしである。先ほどはリリアさんを、心の中で押しに弱いとか思ってしまったが……俺も大概弱い。アインさんが真剣に頼み込んできたりすれば、おそらく断り切れずに了承してしまう可能性が高い。
なんとか回避できる方法は無いかと、そう思っていると……ルナさんの悪魔のささやきが聞こえてきた。
「ああでも、既に観客として観戦することを決めていたりすれば、アイン会長も無理にとは言わない気がしますね」
「……」
俺がアインさんの頼みを断り切れないと仮定した上であれば、俺が選べる道はふたつである。アインさんに押し切られる形で特別審査員を了承するか、メイドオリンピアには行くけどあくまで観客として参加するか……。
残念ながら行かないという選択はない。だって仮に、断って目に見えてアインさんが落ち込んだりしたら……絶対無理だ。俺には拒否できない。
「……そう、ですね。アインさんには悪いですけど、俺もルナさんの初参加を応援したいですし、審査員は断る形ですかねぇ……」
「おや、ミヤマ様まで私を応援してくださるとは、不肖ルナマリア感涙を禁じ得ません。これは、ますます頑張らねばなりませんね」
仕方ない。仕方ないんだ……特別審査員として出るよりは、観客として見る方が圧倒的にましなんだ。
そうやって自分を納得させつつも肩を落とす俺の傍にリリアさんが着て、ポンと俺の肩を叩いた。
「……カイトさん、諦めて一緒に行きましょう」
「……正直、リリアさんが居てくれることだけが救いですよ」
「私も同じ気持ちです」
本当に幸いなのは、メイド論に染まっていないリリアさんが居てくれることで、これなら多少置いてけぼり感も抑えられる……と……いいなぁ。
シリアス先輩「あっ、メイドの挑戦ってそっち……まさかのメイドオリンピア編開幕か……」




