メイドの挑戦①
それは、リリアさんの奇妙な呼び出しからだった。来客が来ているので、可能であれば来てほしいと……これがまた妙なもので、俺への来客ならこちらの家に来ればいいのにリリアさんの家に来て俺を呼び出すということは、俺の知り合いではなくリリアさんの知り合い?
貴族とかで考えればそういう人はいくらでも居るだろうが、リリアさんが俺を紹介するというようなものはいままで無かった。
そしてなんか、呼びにきたルナさんの顔がなんとも微妙な表情なのも気にかかる。
「……なんで、ルナさんはそんな微妙に申し訳なさそうな顔してるんですか?」
「ミヤマ様、都合が悪ければ断ってもいいですよ」
「……えっと、誰が来てるんですか?」
「ミヤマ様は面識のない方ですね。悪い方ではないのですが、少し気質が直情的といいますか、行動的といいますか……」
「なんか、さっきからやたら不安になることを言ってませんか?」
呼びに来ておいて、断ってもいいとか言い出すし、なぜか性格面のフォローをし始めるし……悪い方じゃないって、それどこかしらに問題があるときに言うセリフだよね?
なんとも不安な言い回しに断りたい気持ちも湧いてくるが、それではリリアさんにも迷惑がかかると思うし……実際困ったことに、いま予定はなにも無いので応じることにした。
「それで、結局誰なんですか?」
「シンフォニア王国のメイド長であるベアトリーチェ様です」
「……完全に面識のない方ですね」
「国王陛下の奥方のおひとりでもありますね」
「あっ、そうなんですか? そういえば、チラッとそんな話も聞いたような……」
以前オーキッドとの話の中で、ライズさんの奥さんのひとりがライズさんが昔から姉のように慕っていたメイドであるという話を聞いた覚えがある。
身の回りの世話をしてくれていたベアトリーチェさんにライズさんが惚れた形だろうか? それはそれでドラマがあって素敵なのだが……俺とは完全に面識がない。
王城には何度か行っているが、メイド長という役職の人とは会ったことが無い。いや、もしかしたら見てはいるのかもしれないが、少なくとも会って自己紹介をしたことは無いはずだ。
さらに言えば、そのメイド長がなぜ俺を訪ねてきたのかもさっぱり分からない。
「ベアトリーチェ様は、メイド界が誇る4人の至宝。スーパーメイドのおひとりであり、心のスーパーメイドと呼ばれている方です」
「……おっと、いま一気に帰りたくなったんですが……」
「身に纏うのは苛烈のメイドリックオーラであり、その性質上、時として主をも厳しく叱咤し導くような強さを持ったメイドですね。国王陛下もベアトリーチェ様には頭が上がらないとか……」
またそのメイド界とかいう知りたくない異常な世界に関する話なのか……割と本気でやっぱ用事を思いついたとか言いたくなった。
お願いだから、もう俺にこれ以上その変な知識を埋め込まないで欲しいものである。最近割と理解できるようになってしまったのが、もの凄く嫌だ。
「ともかくメイドに対する熱意の強いお方で、その拘りは会長にも引けを取らないほどです」
「……いま俺、用事を思い出して帰りたい気持ちでいっぱいなんですが……なんでその人が俺を訪ねてくるんですか? 俺は別にメイドじゃないですし、そのメイド界とやらに関わりたくないんですが……」
「ご冗談を、メイド界の頂点であるアイン会長が認めるミヤマ様は、メイド界にとっても重要な存在です」
「やめてください。本当に、やめてください」
なんて恐ろしいんだメイド界。知らないうちに勝手に重要な存在にされてるとか、本当に勘弁してほしい。マジで心から、そのメイド界からは距離を置きたいと思ってるんだけど……。
まぁ、ルナさんに関しては、俺が嫌がるのを分かった上でからかってるんだろうが……。
「話を戻しますが、ベアトリーチェ様はイルネス様を酷く尊敬しているんですよ。まぁ、事実上かつての王城一のメイドはイルネス様でしたしね」
「それは、まぁ、納得できる話ですが……俺とは繋がらなくないですか?」
「いえ、それが……そのイルネス様が最近親しくしているネピュラ様に興味があるようで」
「ネピュラに?」
さっきより行きたくない気持ちが強くなった気がする。うちの可愛いネピュラを、メイド界とかそういう変な界隈に関わらせたくないんだけど……。
「イルネス様が賞賛するほどの腕ということで、是非お会いしてみたいと、まずはミヤマ様に許可をという話ですね」
「なるほど……まぁ、ネピュラは凄いですからね。会いたくなるという気持ちもわかります」
「……そ、そうですね」
これはなかなか難しい問題である。ネピュラの凄さを分かって訪ねてきたというのは、俺の中で非常に評価が高い。王城のメイド長にまでネピュラの凄さが知られているというのは、誇らしくもある。
ただそれはそれとして、やっぱり変な界隈に関わらせたくはないという気持ちも……う~ん、悩む。
シリアス先輩「とりあえず、快人の好感度上げようと思ったら、ペットかネピュラの話を振るのが手っ取り早そう。明らかに掌返したし、この親バカ……」




