星空のキャンプ⑪
朝の澄んだ空気の中、小型魔法具の上で小さな鍋を置いてお湯を沸かす。基本はそこまで低くはないのだが、なんとなく朝には温かい飲み物を飲みたいという気分があった。
そう考えつつ、マジックボックスからいくつかの品を取り出してアイシスさんに声をかける。
「アイシスさん、紅茶とコーヒーだとどっちがいいですか?」
「……よく飲むのは紅茶だけど……マグカップで飲むなら……コーヒーの方が合う気も……する」
「確かに、そうですね。じゃあ、コーヒーにしますね」
基本的にこの世界で飲む機会が多いのは紅茶だが、コーヒーもそれなりに飲む。というか、クロが基本ベビーカステラにはコーヒーなのが大きい。
ふたり分のマグカップを用意してコーヒーを準備する。
「アイシスさんの方は、なにを作ってるんですか?」
「……スクランブルエッグ……パンに挟んで……食べると手軽」
「あ、いいですね。美味しそうです。たしか、ハムもあったと思うので……」
役割分担しつつ準備して、大き目のクロワッサンにハムとスクランブルエッグを挟んだクロワッサンサンドとコーヒーの朝食である。
これはシンプルだがかなり素晴らしい朝食、朝に飲むコーヒーも美味しいし、クロワッサンサンドも非常にいい感じだ。
「……アイシスさん、ご飯を食べ終わったらせっかくですし、いつもみたいに記念品を探しません? ここって、あの小説に出てきた場所に似てますし、なにか持って帰れるものを探しましょう」
「……うん! ……なにがいいかな……カイトは……なにがいいと思う?」
「う~ん、あんまり大きすぎない方がいいですよね。そういえば、あの小説だと水辺で小さな花を見つけてふたりで見ていましたね」
「……うん……珍しい花じゃないけど……場所が特別だからか……特別に見えるって……そう書いてた」
特別な花では無いはずだけど、場所が特別だから特別に見えるというのは、なかなかいい言葉だし呼んでた時にも共感できた。
実際、見る時のシチュエーションによって受ける影響というのは大きいし、登場人物たちの気持ちも分かるというものだ。
「なので、湖の近くに咲いてる花を探してみましょうか?」
「……うん……一緒に……探そう」
嬉しそうに頷くアイシスさんを見て、俺も笑顔を浮かべつつ朝食を食べる。
その後朝食を食べ終えて片づけをして、テントも収納してからアイシスさんと共に湖の近くに移動して花を探す。
観光地というわけでは無いので綺麗に整えられているわけでは無いが、自然豊かな場所なので探せば花のひとつやふたつはすぐに見つかるもので、いい感じに綺麗な花を見つけることができた。
「これなんかよさそうですね」
「……2輪寄り添ってて……私たちみたい……綺麗」
「ええ、大きな花ってわけじゃないですけど、なんか自然体の美しさがあるというか、いい花ですね」
「……うん……あの小説に書いてあった通り……この花は珍しい花じゃない……どこにでも咲いてる花だけど……カイトと一緒に探した花だから……凄く……特別に思える」
そう言いながらアイシスさんが軽く手に魔力を込めると、花は周囲の土と一緒に浮かび上がり、アイシスさんがどこからともなく出現させた鉢植えに収まった。
その状態で強力な状態保存の魔法をかけ、枯れないようにして保存するというわけだ。ちなみに最初の段階で、精霊が宿ったりしていないかも確認しているらしい。
まぁ、こういった小さな花は魔力が微弱なので精霊が宿ることは基本無く、いくつもの魔力が集まってようやく精霊ではなく妖精が生まれる可能性があるという程度らしい。
「……そうですね。たぶん今日、こうしてアイシスさんと一緒じゃなければ見つけられなかった花ですね。どこにでも咲いてるからこそ、ここで巡り合えたのは特別だって思いますよ」
「……うん……ふふ……でも……カイトと一緒だと……いつも特別で……凄く幸せ」
「アイシスさん……ええ、俺もアイシスさんと一緒だと、本当に些細なことも凄く楽しくて、幸せですよ」
それは本当に心からの言葉だ。ふたりで朝食を作ったり、こうしてどこにでもあるような小さな花を探したり、やっていることは別に特別でもなんでもない。
だけど、笑顔を浮かべる愛しい恋人と一緒に行っていると思うと、それが凄く特別で価値があるものだと感じがれるので不思議なものだ。
あるいは、そう思える相手がこうして当たり前のように隣で笑っていてくれるのが……なにより一番の幸せなのかもしれない。
シリアス先輩「……」
???「いろいろとダメージが大きすぎたのか、魂が飛んでっちゃってる感じですね。なんてひどいことを……」
マキナ「こんなになるまでシリアス先輩を追い詰めるなんて……」
シリアス先輩「……お前らが逃がさなかったせいだから……」




