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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
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コイツ何言ってるんだ?

 水の月26日目。魔界から帰った翌日、俺は結局買ったお土産を持ってアリスの雑貨屋を目指していた。
 どうせまた何だかんだでお金使ってるだろうと考えたので、スコーンでは無くワイバーン肉の方を沢山買って来た。
 自分自身つくづく甘いとも思うが、やっぱりなんだかんだで放ってはおけない。
 お土産を見て目を輝かせ、小さな身体からは想像もできない勢いで食べるアリスの姿が頭に思い浮かび、思わず苦笑する。

 最近は頻繁に足を運んでいる事もあって、すっかり見慣れた道を歩いていると……道の先が深い霧に包まれていた。
 ……いや、待て。可笑しくないか? 今の時刻は10時で、朝霧の出る様な時間帯じゃないし、そもそも霧が濃すぎる。
 シンフォニア王都は霧が発生しやすい……と言う事もないだろう。少なくとも2カ月近く生活をして来て、こんな光景は見た事が無い。

 その奇妙な光景に不気味さを感じて足を止める。
 昼前の時間帯だというのに静寂が周囲を支配し、心の中の不安を煽り立てる。

 そして周囲を警戒する俺の体の周りに、突如光る輪の様なものが出現し……直後にガラスの割れる様な音と共に砕け散る。

「ありゃ? 幻術魔法だけじゃなくて、拘束魔法も効かないんすか……凄いっすね。カイトさん」
「……アリス?」
「は~い。アリスちゃんですよ。お帰りなさい、カイトさん。会いたかったですよ」

 聞き覚えのある声と共に、霧の中からアリスが現れる。
 その姿は見慣れた作業着の様な服では無く、体を隠す様に黒いマントを羽織っていて、何やらいつもと雰囲気が違った。

「……なんで、ここに?」
「カイトさんに会えるかな~って出てきたら、ドンピシャでした。いや~運命感じちゃいますね」
「……」

 なんだろう……アリスの口調はいつも通りなのに、どこか寒気を感じる様な……酷く不気味に聞こえる。

「さてさて、カイトさんの強い護衛が来ちゃう前に、話を進めましょうか……カイトさん、ちょっと私に攫われてくれないっすか?」
「……は? い、一体何を……」
「実は私、雑貨屋だけじゃ食べてけないので副業もしていましてね。何て言いますか、裏のなんでも屋? みたいな感じなんですよ。で、先日大変美味しい依頼が来た訳なんですよ……貴方を誘拐してくれってね」
「なっ!?」

 そう告げた直後、アリスはいつの間にか俺の目の前まで接近しており、俺の首元にナイフを突き付けていた。
 首に触れるか触れないかの絶妙な距離、そしてナイフの発する鈍い光沢が相まって、息苦しさに似た緊張を感じる。

「だから、カイトさん……私のお小遣いの為に、誘拐されてください。愛の逃避行ってやつですね……って、ありゃ?」
「……ッ!?」
「……悪意ある攻撃に自動発動する防御魔法まであるんすか?」
「え?」

 その言葉に反応して自分の体を見てみると、アリスが持っているナイフの前……俺の体の周りに、いつの間にか淡い黒色の膜の様なものが現れていた。
 そういえば、リリアさんはクロのペンダントに防御魔法が込められてるって言ってた気がする。

「がっ!?」

 悪意ある攻撃を自動的に防御してくれる魔法、それがある事を知り少し安堵した瞬間、首を裏に強い衝撃が走り、体が己の意思に関係なく力を無くした。

「まぁ、それなら魔法を使わず、悪意を消して気絶させればいいだけなんすけどね~」
「……ア……リス」
「おやすみなさい、カイトさん。大丈夫優しく運びますよ」

 意識が消える瞬間に聞こえた声は、この状況には不釣り合いな程……優しく穏やかなものだった。
































 気絶した快人を軽々と脇に抱え、アリスは近くの建物の屋根へと飛びあがる。

「さてさて、このまま運べば依頼は完了……ですけど、そう簡単には行かないっすかねぇ~」

 アリスがそう呟いた瞬間、濃い霧を一筋の閃光が貫く。
 まるで光線の様なそれを顔を少し横に動かしてかわした後、アリスは軽く溜息を吐く。

 そう簡単には行かない……その言葉を肯定する様に周囲に強風が吹き、視界を覆っていた霧を吹き飛ばしていく。
 そして霧が晴れると、アリスの立つ屋根の周囲に6つの影があった。

「……思った以上に早かったっすね。成程、緊急信号を送る魔法具ですか……」
「ご主人様を離せ、無礼者!」
「うぉっ!? 怖っ……」

 アリスを取り囲む様に数メートルほど離れた場所に立つ、リリア、ルナマリア、ジーク、アニマ、イータ、シータ……ジークが霧で快人を見失った直後に使用した緊急信号を送る魔法具の発動を受け、現場に急行した6人は鋭い視線でアリスを睨む。
 しかしアリスは口では怖いと言いながらも、特に動揺した様子はない。

「なぜ、カイトさんを……貴女は、カイトさんの友人では無いのですか?」
「友人ですよ。カイトさんの事は好きですし、気に入ってます……でも、それと仕事は別ですよ」

 静かに告げた言葉に対し、飄々とした態度を崩さないアリスを見て、リリアは苛立った様な表情を浮かべる。

「……随分と余裕ですね? まさか逃げ切れるとでも?」
「どうでしょうね~?」

 警告する様な言葉を放つルナマリア……6人は現在アリスを取り囲んでおり、人数的な利もある。
 しかし、アリスが快人を抱えている以上……強力な攻撃は快人を傷つけてしまう為、迂闊に攻め入る事は出来ない。
 そして皮肉な事にピンポイントの攻撃を得意とするイータは、以前ジークとの戦いで武器を破損しており、リリアの屋敷から持ち出した槍では十全に力を発揮できず、先程もアリスにあっさりと回避されてしまった。

 ジリジリと肌を刺す様な沈黙の中で、硬直する6人と1人……その沈黙を破ったのは、アリスだった。

「……白金貨20枚」
「……え?」
「……18枚、25枚、43枚……」
「一体何を……」

 リリア達を順に指差しながら告げて行くアリスに、リリアは怪訝そうな表情を浮かべて問いかける。

「いや~私は人に値段を付ける癖があるんすよ。今回は戦闘力だけで判断しましたが、皆さん大したもんですね~私が白金貨単位で価値を付けるのは、結構稀ですよ」
「……嬉しくありませんね」

 相変わらず人を喰った様な口調で話すアリスに、ジークも普段の彼女からは想像が出来ない程冷たい目を向ける。
 そんな刺す様な視線に晒されながらも、アリスが動揺する様子はなく言葉を続けていく。

「……私が仕事を受ける時の条件は二つ。一つは、私の気分が乗る事。二つ目は……私が対象に対して付けた価値を上回る報酬を提示される事です」
「……なにが、言いたいのです?」
「いえね。だから、今回の依頼料的に考えて、皆さんと戦うのは割に合わないな~ってことですよ」
「降伏すると、そう言う事か?」
「……いいえ。皆さんにとっては残念でしたね……私と、貴方達の利害は一致しなかった……そう言う事です、よっと!」
「「「「「「ッ!?」」」」」」

 そう言った直後、アリスは快人を抱えていた手を離す。
 アリスの立っている場所は二階建ての家の屋根、意識を失っている快人が地面に叩きつけられれば、無事ではすまない。
 だからこそ6人は一瞬意識が空いてしまった。落下する快人に視線を向け、アリスを視界から外してしまった。

 直後にアリスの姿は消え、6人の体が大きく弾き飛ばされる。
 しかし流石は6人も相当の実力を持つ存在であり、とっさにアリスの攻撃を防御する事には成功した。

 そしてアリスは快人が地面に落ちるより早く回り込み、その体を受け止めた後で笑みを浮かべる。

「いや~素晴らしい。アレにも反応するとは……でも、距離、離れちゃいましたね」
「ッ!? 不味い! 逃げるつもりです!!」

 アリスの思惑に一番早く気付いたルナマリアが叫び、6人は即座に体勢を立て直して、アリスに向かう……が、次の瞬間アリスは再び消え、6人からさらに離れた位置に現れる。

「……無理ですよ。さっきの私の動きを追えなかった貴女達じゃ、私には追いつけません」
「くっ!?」
「言ったでしょ? 利害が一致しないって……貴女達は、何としても私を倒してカイトさんを奪還したいでしょうけど……私は貴女達みたいな強い相手と戦う利点ないんですよ。だから、逃げさせてもらいますね」
「待っ――なにっ!?」

 アリスは淡々と告げ、追いすがろうとしたイータの前で笑みを浮かべ、直後にアリスの姿がブレて10体に増える。

「幻影魔法!?」
「「「「「「「「「「それじゃ、また会いましょう~」」」」」」」」」」

 幻影魔法によって造り出した分身が一斉に言葉を発し、それぞれ別の方向に高速で逃げる。
 しかしリリア達も黙ってアリスを逃す訳にはいかない。
 歴戦の戦士であるが故に、それぞれアイコンタクトだけを交わし、即座に分かれてアリスを追跡する。

 スピードの速いリリア、ジーク、ルナマリア、イータがそれぞれ二体ずつ、やや足の遅いアニマとシータは一体ずつのアリスを追う。
 何としても快人を奪還する為に……

 そして6人がそれぞれの方向に追跡を開始した後……少し離れた路地裏の景色が歪み、『本物』のアリスが姿を現す。

「……素直すぎですね。まぁ、騙し合いは私の領分ですけどね」

 そう一人呟き、アリスは再び煙の様に姿を消した。
































 微かに感じる光に目を開くと、そこは全く知らない場所だった。
 石造りの部屋はまるで牢獄の様で、部屋の中には十人程のローブを纏った人間が居た。
 正直良い状況とは思えなかったが……どうやら体は椅子に縛り付けられているみたいで、動く事は出来ない。

「おや? カイトさん。お目覚めですか?」
「……アリス……ここは?」
「私の依頼人のアジトですね」

 黒いローブを纏った人物の後ろから、ひょっこりと顔を出したアリスは、緊張感などまるでないいつも通りの口調で話しかけて来た。
 そういえば、誘拐するって言ってたっけ……つまり、今は殆ど最悪の状況って事か……

「初めまして、ミヤマ・カイトくん……君とは是非、仲良くしたいものだ」
「……なら、せめて顔を見せて頂きたいものですが……」
「そうしたいところだが、こちらにも立場と言うものがあってね……あまり顔を晒す訳にはいかないのさ」

 ローブ姿の人物の内の一人……声からして男性が、俺に話しかけてきたが、こんな状況で仲良くしましょうなんて返せるほどお気楽な頭はしていない。
 だけど、状況的に圧倒的に不利なのはこちら……変に挑発的な事は言えない。

「さて……早速だが本題に移ろう。もう君も想像は出来ているだろうが、我々は君を――「あ~ちょっと良いっすか?」――なにかな?」

 何やら大物感ある話し方で目的を告げようとした男性の言葉を、アリスが途中で遮る。
 コイツ本当に空気読まないな……

「カイトさんをここに連れて来た時点で、私の仕事は終了っすよね? なら、さっさと報酬頂きたいんですけど?」
「……ああ、そうだな。ほら、約束の白金貨30枚だ」
「はいはい……どれどれ……はい、確かに」

 どうやらアリスが俺の誘拐で得る報酬は白金貨30枚らしい。
 日本円にして3億円……高いのやら安いのやらよくは分からないが、それがアリスにとっての俺の値段らしい。
 複雑な気持ちになる俺の心を見透かしたのか、アリスはこちらを向いて軽く手を振る。

「カイトさん、恨むのはお門違いっすよ。これはあくまで仕事です。それに、私と貴方はただの友人……別に家族でも恋人でもない、その程度の付き合いなんすから」
「……あぁ、そうだな……」
「それじゃ、私は帰りますね~」

 ドライな言葉を告げ、アリスは俺に背を向けて部屋に一つだけの扉へ向かって歩いていく。
 ……辛い気持ちはある。でも、確かにアリスに文句を言った所でどうにもならない。
 俺は色々アリスを叱ったりしたし、殴ったりもした……気の置けない友人だと……気の合う相手、信頼できる存在だと思っていたが、それはあくまで俺だけの印象。
 アリスにとっては、俺は口うるさいただの友人……

「……アリス」
「なんすか?」
「……今度は、無駄遣いするなよ」
「……考えときますよ」

 そう告げてアリスは扉を閉めた。
 辛い……だけど、そればかりを考えても居られない。それよりも今はこの状況だ。

「さて、話を戻そうか……ああ、助けを期待しているなら無駄だよ。この部屋は特殊な鉱石で出来ていて、魔力を外に漏らさない。それにこの場所は、街からは離れている……君を助けに来る者はいない」
「……」

 俺は、どうなるのだろうか? 拷問とかされるんだろうか?
 痛いのは……嫌だな。

 諦めに似た絶望が心に這い寄って来て、体が微かに震え始める。
 これからの自分を想像し、思わず目を閉じかけた時……部屋のドアが轟音と共に破壊された。

「なっ!?」

 男性とローブ姿の者達も驚愕した様子で扉の方を向き、俺もそちらに視線を向けると……土煙の中から、予想だにしない人物が現れた。

「ッと言う訳で……助けに来ましたよ! カイトさん!」
「……は?」

 ビシッと音が出そうなポーズを決め、先程扉から出て言った筈のアリスが現れた。
 何故か俺を助けに来たとか言いながら……

「な、な……何のつもりだ!?」
「いや~ほら、私今日、臨時収入を得まして、普段お世話になってるカイトさんとご飯でも行こうかな~って考えた訳ですよ。すると何と! カイトさんが、悪い奴に誘拐されたって言うじゃないですか!? そこで私は、カイトさんを助ける為に猛ダッシュでやって来た訳です!」
「……なに?」
「さあ、覚悟しなさい誘拐犯ども! カイトさんを誘拐した事、後悔させてやりますよ!!」

 いや、お前が誘拐の実行犯だよ……

 拝啓、母さん、父さん――不幸とは急に降りかかってくるもので、俺は誘拐されてしまった。危機的状況だった筈なのに、不本意ながら、本当に不本意な事だけど……今、俺と誘拐犯達の心は一つになった――コイツ何言ってるんだ?













シリアス先輩「ぬわあぁぁぁぁ!?」

まさかのセルフ救出劇である。
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