星空のキャンプ⑧
入浴を終えたあとは、アイシスさんと共に浴場から出てテントの前に設置した焚火型の暖房器具の前に小型の椅子を並べて座る。
そしてミニコンロ系の魔法具を取り出して、小さな鍋を用意してそこにクロの商会で発売しているインスタントスープを注ぎ温める。
……まぁ、このインスタントスープは最初から温かいので、温めてるのは雰囲気だが……。
そして少し経ってからマグカップにスープを入れてアイシスさんに手渡した。
「どうぞ」
「……ありがとう……クロムエイナは……いろいろ面白いものを……考えるね」
「そうですね。考え付くのもそうですが、実際に作っちゃうのが凄いですね」
マグカップに入ったスープを少し飲み、星空を見上げる。これがやりたかったというか、この星空を見上げながらマグカップのスープを飲むという姿に少し憧れていた部分もある。
そしてチラリと隣を見ると、両手でマグカップを持っているアイシスさんがいて、俺に気付くと可愛らしく微笑みを浮かべてくれる。うん、なんとも幸せな光景だ。
そのまま俺たちは、軽くスープを飲みながら他愛のない雑談をする。
「……へぇ、じゃあウルはスピカさんと仲がいいんですね」
「……うん……気が合うみたいで……よく一緒にいる……イリスはポラリスといることが多い」
「ふむ、ちなみにシリウスさんとラサルさんは?」
「……あのふたりは……よく喧嘩している……けど……凄く仲良しだと思う」
「喧嘩するほど仲がいいって感じですかね」
「……うん……お互いに相手を認めているけど……素直になれてない……みたいな感じ」
「なるほど」
関係としてはクロノアさんとアインさんの関係に近いのかもしれない。互いにライバル同士で喧嘩もするが、誰よりも互いを知っており、なんだかんだで仲がいいと……。
しかし、アイシスさんのところは本当にあっという間に賑やかになったものだ。イリスさんが配下に加わった時のことがつい最近に思えるが、まるで互いに惹かれ合うように次々配下が集まってきたような、そんな印象を受ける。
それに配下同士の相性もいいみたいで、基本的に仲良く全員でアレコレ動くことが多い様子で、アイシスさんとしても凄く嬉しいみたいだった。
「なんというか、ただの勘でしかないですが、これから先もアイシスさんのところにはどんどん配下が増えて賑やかになっていきそうですね」
「……そうかな……そうだったら……嬉しい」
「そういえば最近は、花畑を作ったんでしたっけ?」
「……うん……ブルークリスタルフラワーの花畑……すごく綺麗だから……カイトにも……見に来てほしい」
「それは是非見たいですね。俺にとってもブルークリスタルフラワーは印象深い花なので、見に行くのが楽しみです」
普通はあまり群生しないというか、基本的に生え方に法則が無いブルークリスタルフラワーではあるが、精霊であるスピカさんは自在にブルークリスタルフラワーを咲かせることができるみたいで、その能力で大きな花畑を作ったとのことだ。
一面にブルークリスタルフラワーが咲き誇る光景は本当に綺麗だろうし、世界的に考えても珍しい場所ではないだろうか?
ゆくゆくは死の大地の観光名所とかになるのかもしれない。いや、そうなるころには死の大地という名ではなく、あの場所自体別の名前で呼ばれている可能性もある。
「いろいろと、これから先が楽しみですね」
「……うん……カイトと出会うまで……先が……未来が楽しみだって思ったことは……無かった」
「それはやっぱり、死の魔力が原因で?」
「……希望は捨ててなかった……けど……楽しみとは思ってなかった……いつも先のことを考えるのは不安で……暗い考えばかり……浮かんできてた」
そこまで話したところで、アイシスさんは一度言葉を止め、俺の方を向いて柔らかく微笑んだあとで言葉を続ける。
「……でも……カイトと会って……カイトを好きになって……いまは……未来が……これからのことが……凄く楽しみで……考えるだけで……自然と笑顔になれる……全部……カイトのおかげ」
「アイシスさん自身が、希望を捨てなかったからですよ」
「……それでも……その捨てなかった希望を……私の手を握ってくれたのは……カイトだから……ありがとう」
かつては未来には不安しかなく、思い返してみれば最初に会った時もどこか俯き気味で、希望は微かにあってもほぼ諦めてしまっているかのような表情だった。
そして知り合ったあとも、過去のことがあるせいかどこか不安げな表情を浮かべていることが多かったアイシスさんだったが、一緒に過ごすたび笑顔が増えて明るくなっていたように感じる。
そしていまの俯くことを止め、未来を楽しみだと笑顔で語るアイシスさんの姿こそが、なによりもアイシスさんらしい姿なのだと……そんな風に感じられた。
???「このシリアス先輩が溶けた成分はなんなんでしょう……見た目はクリームっぽいですね」
マキナ「……どれどれ? あっ、カスタードクリームの味だね」
???「……なんでこれを躊躇なく口に運べるのか……我が親友ながらやはり頭のネジ吹き飛んでますねコイツ……」




