星空のキャンプ⑦
アリスの余計なアドバイスによって妙な学習をしたアイシスさんの背中流しは、それはもう凄まじかった。途中で宇宙とでも交信したかのように何度も意識が飛びかけた。
ただ、ひとつ……アリスは絶対にあとでピコハンでぶん殴ると、そう心に固く誓った。
風呂に入る前から一大イベントが終わったかのような心持ちではあるが、なんとか気持ちを奮い立たせて……もとい、思考を冷静に戻して湯船に浸かる。
「……あっ、そうだ。コレを……」
「……カイト……それは?」
「えっと、クロのところの商会で作った入浴剤のサンプルですね。すごく簡単に言うと、これはお風呂に入れると花の香りがする感じです」
「……そうなんだ……凄い……楽しみ」
この風呂は、あくまで温泉風な見た目なだけで湯は普通である。なので気分を出すために入浴剤を入れることにした。
本当は温泉の素的な入浴剤が理想なのだが、生憎とこの世界における温泉のマイナーさのせいもあって、まだそのタイプの入浴剤は作られていない。
この入浴剤は、クロの商会で発売した入浴剤の第一弾である貴族の湯シリーズのひとつだ。これがよく売れたりすれば、第二第三弾と作られて、いずれ温泉っぽい入浴剤もできるかもしれない。
風呂のサイズも考えて複数の入浴剤を入れて、軽く混ぜるとすぐに風呂の色が変わり心地よい花の香りが漂ってきた。
「……いい香り」
「うん。いいですね。入りましょう」
「……うん」
入浴剤がよく混ざったのを確認して、アイシスさんと一緒に入浴する。実際は結界が貼られているとはいえ露天風呂風のお風呂はやはり開放感があって気持ちがいい。
それに今日は星がかなり綺麗に見えており、視界の先の山と合わさってなんとも美しい光景だ。
「……星が凄く……綺麗」
「ですね。ああでも、星を見るにはちょっと明るすぎるかも……少し照明を暗くしてきますね」
アイシスさんに断りを入れて一度湯から出て、入り口付近にある魔法具に触れて明るさを調整する。真っ暗にすると危ないので、足元は見える程度に薄暗くしてから湯船に戻る。
先ほどまでよりも星空が綺麗に見えて、なんとも贅沢な光景だと、そう感じた。
「……ふふ」
「アイシスさん、楽しそうですね」
「……うん……カイトと一緒だと……なんでも楽しいし……些細なことでも……凄く幸せ」
「……アイシスさん」
「……一緒にお風呂に入れて嬉しい……こうして綺麗な星が見れて嬉しい……カイトが居て幸せ……意識しなくても……自然に笑顔になる」
そういって本当に幸せそうに笑うアイシスさんの表情は、星空よりもずっと綺麗で眩しくて、愛おしさが込み上げてくるようだった。
ふたりきりということと、雰囲気がいいこともあってか……俺はそっと、アイシスさんの肩に手を回してその体を抱き寄せる。
アイシスさんは嬉しそうに身を預けてくれて、湯船の中で素肌が触れ合うのを感じた。
「……なんて言えばいいのか、俺もアイシスさんと同じ気持ちです。表現するのは難しいですが、なんかこう楽しいとか、幸せって気持ちを共有できるのって、凄くいいなぁって……」
「……うん……カイトと一緒の気持ちだと……そう思うと……すっごく嬉しい」
「アイシスさん」
「カイト……んっ」
肩を抱く手に少し力を込め、こちらを向くアイシスさんの顔に吸い寄せられるように顔を近づけてキスをした。重なり合う唇の感触は、表現するのも難しいほど心地よく、ほんのり甘いような気がした。
しばらくして唇を離し、もたれ掛かってくるアイシスさんの肩に手を回したままで再び視線は星空に向ける。
こうして、露天風呂で綺麗な星空を見ているのは凄く贅沢な気持ちになるが、それ以上にその贅沢な光景をアイシスさんと一緒に見られていること、楽しめていることが凄く幸せな気持ちだった。
不思議なもので今でさえ凄く幸せな気持ちなのに、時間が経つたびにどんどんその気持ちが大きくなっていくようにさえ感じる。
そしてそれはアイシスさんも同じ気持ちだと確信できるし、アイシスさんの方も俺が同じ気持ちでいるのを分かっていると確信できた。
互いの気持ちが深く通じ合っている状態と表現するべきか、言葉を交わさなくても……なんだかすごく、一緒に居るって気持ちを実感できた。
「……カイト」
「はい?」
「……もう一回……いい?」
「もちろん」
「……カイト……大好き」
「俺もアイシスさんが、大好きですよ」
心の底まで染み渡るかのような深い幸せを共に感じながら、俺とアイシスさんは再び唇を重ね合わせた。
シリアス先輩「……すまん……少し……融解する」
???「溶けた!? 甘さがヤバくなると溶けるんすか? 面白生態にパターンがあり過ぎるでしょ……」




