星空のキャンプ⑤
昼食を食べ終えたあとは、アイシスさんと一緒に湖で釣りを行うことになったが、いくつか不安要素はある。まずひとつ目は、この湖にどんな魚が生息しているか分からないという点だ。普通に俺の腕力でも釣りあげられるぐらいの魚であることを祈る。
そしてもうひとつがアイシスさんの死の魔力だが……これに関しては問題ないと思う。仮に魚が死の魔力の影響を受けて逃げていたとしても、ある程度の距離までなので遠めに投げることを意識すれば問題なく釣ることはできるだろう。
「……こんな感じに……投げればいいの?」
「はい。遠めにかつ、飛び過ぎてしまわないように加減する感じですね」
俺は全力で投げても問題ない。大きな湖の端まで届くことは無い。ただアイシスさんの能力であれば、それこそどれだけ飛んでいくか分からないので事前にちゃんと加減するように伝えておく。
そして同時に竿を振って練り餌の付いた先を飛ばすのだが……まぁ、予想通り全力で投げた俺の浮きより、アイシスさんの方が遥かに遠方に飛んでいる。
「……あとは、魚がかかるまで待つだけ――うおっ!?」
「……カイト……大丈夫?」
「だ、大丈夫です。思ったより早い当たりでビックリしただけで、それほど引く力は強くないです」
「……頑張って」
「はい!」
投げ入れて即かかったみたいで、竿がひかれて少し驚いたが……引きはそこまで強くなく、俺でも十分に対処できるレベルだ。
慎重にリールを巻いて魚を引き寄せ、水面に十分近付いてから引き上げると……それはかなり美しく輝く魚だった。キラキラというよりはギラギラというべきか、ミラーボールみたいな輝きである。
「……えらくキラキラした魚ですね」
「……これは……ダイアモンドフィッシュ……かなり……珍しい」
「へぇ、ちなみに食用ですか?」
「……ううん……硬くて食べられない……観賞用としては……かなり人気」
またそのタイプの魚か!? なんで食用の魚が釣れないのか……いや、まぁ、今回は食べる目的ではなく、アイシスさんと釣りを楽しむのが目的だから、問題ないんだけど……なんかこう、釈然としない気持ちがある。
ただアイシスさんは楽し気に俺の釣りあげた魚を見ているので、いいかな……魚はめっちゃ暴れてるけど。
とりあえず釣り上げた魚はリリースし、改めて竿をふって投げる。今度は先ほどのようにいきなり食い付かれることもなく、小型の椅子を取り出してアイシスさんと並んで座りながら釣りを楽しむ。
少しすると今度はアイシスさんの方に引きがあった。
「……えっと……これを巻けばいいんだよね?」
「はい。勢いよく巻きすぎても、魚が針から離れちゃうので、ゆっくりと……」
「……わかった……頑張る」
アイシスさんにアドバイスしながら引かれる糸の先を見ていると、少しずつ魚影が見えてきたが……あれ? デカくない? いや、デカいよな……。
「……あの、アイシスさん。引きは強いですか?」
「……ううん……凄く弱い」
数mはありそうなサイズなんだけどなぁ……。
「竿が折れたり糸が切れたりは?」
「……状態保存魔法使ってるから……大丈夫」
「なるほど……」
とりあえず納得しつつ成り行きを見守っていると、アイシスさんは魚が水面付近まで来ると、竿を片手で持ってもう片方の手を軽く動かす。
すると水の中から5m近くありそうなすさまじく巨大な魚が浮かび上がってきた。
「……釣れた」
「……デカいですね。魔物ですか?」
「……ジェノサイドフィッシュ……だと思う……こういう大きな湖に住む魔物だけど……温厚で大人しい……今は死の魔力で……怯えてるけど」
温厚で大人しい魚の魔物か……なんでジェノサイドって名前が付いてる? 完全に名前と性格が噛み合ってない気がするんだけど……。
「まぁ、食べるにしても大きすぎますし、先ほどのダイアモンドフィッシュと同じように逃がしましょうか」
「……うん……ビックリさせて……ごめんね」
アイシスさんが再び手を振ると、ジェノサイドフィッシュの口から針が外れ湖の中に戻っていった。
「……釣りは初めてだけど……面白い」
「楽しんでもらえたならよかったですよ。でも、凄い大物でしたし、アイシスさんには釣りの才能があるかもしれませんね」
「……そうかな?」
「ええ、きっと……俺も負けていられないので、大物を釣り上げますよ」
「……うん……頑張って……カイト」
「はい!」
優し気に笑いながら話すアイシスさんは、なんというか本当に楽しそうだ。釣りも初めてと言っていたし、いままで知識としては知っていてもやったことが無いことは多いのだろう。
こうした機会にいろいろなことを一緒にやれたらいいと、そんな風に思った。
なお、その後俺の釣竿には何度も獲物がかかり、数だけなら大釣果と言っていいレベルだった。ただし、釣り上げたのは全てダイアモンドフィッシュだった……解せぬ。
シリアス先輩「運が良すぎて釣りが上手くいかないってのも、なんか面白いな……このままほのぼの路線で行こ? ね? 砂糖やめよ?」




