星空のキャンプ③
いろいろと準備を整え、アイシスさんと約束したキャンプの日がやってきた。場所は魔界西部にある秘境とも呼ばれている場所で、本来であれば道中に魔物も多く、地形的な問題もあって辿り着くのが難しい場所だ。
だが、そこは魔界でも頂点の一角といえる力を持つアイシスさんにしてみれば、世界座標を用いた転移魔法で簡単にたどり着ける。
そして辿り着いた場所は想像通り、いや想像以上にいい場所だった。大き目の湖の畔の開けた場所であり、勾配もなく適度に土の地面もあって、キャンプに向いている場所といえた。
「いいところですね」
「……うん……静かで……落ち着く」
「さっそくのんびりしたいところですが、先にテントだけでも組み立てますか?」
「……うん」
とりあえずまずはテントの場所を決め、湖からはある程度距離をとり、周囲がよく見える開けた場所にテントを設置することに決めた。
本来であればテントを組むのは中々に大変と聞く、杭を刺したりロープを結んだりと……ただまぁ、今回は本格的キャンプではなくなんちゃってキャンプ風の旅行なので、テントも魔法具である。
「……開けた場所に設置して、魔力を注ぐと……あっ、出てきましたね」
「……この紐の先に付いた魔水晶を……四方に設置……すればいいの?」
「はい。それだけでOKみたいです」
出現したテントらしき筒状のナニカから伸びた四つの紐と、その先にくっついている魔水晶。それを紐が十分伸びる距離まで引っ張って地面に置き、魔力を注ぐと魔水晶の周囲に杭のようなものが出現して地面に刺さる。
アイシスさんと手分けして四方に設置しすると、ちょうど四つ目を設置したタイミングで中央の筒が光を放ち数秒の後に、一気に中から展開したテントがひとりでに設置された。
「……一瞬でしたね」
「……便利だね……けど……私……テントって初めて」
「実は俺もです。中は……あっ、思ったより広いですね」
「……簡易ベッドみたいなものもある……冒険者とかは……こういう場所で……寝てるんだ」
まぁ、このテントに関してはかなり高いやつを買ったので、一般的な冒険者が持っているものよりも中は広いのだろうが、それにしてもあっという間である。
ちなみに魔物避けの簡易結界も付いているので安心であるが、今回に限ればアイシスさんが居るので魔物が寄ってくることは無いため、効果を実感することは無いだろう。
「とりあえず、これで設置は完了ですね。それじゃあ、改めて近場を散策してみましょうか」
「……うん……カイトと一緒に……あちこち……歩きたい」
そう言ってはにかむように笑うアイシスさんは相変わらず可愛らしく、見ているだけで幸せな気分になれる気がした。
俺が手を差し出すと、アイシスさんは俺の手を嬉しそうに握り、そのまま恋人繋ぎをして湖の近くを一緒に歩き始めた。
「結構大きい湖ですね」
「……そういえば……あの小説では……湖で泳いでた」
「さすがに泳ぐ準備はしていないのでアレですが……この広さならその気になればいろいろできそうですね。あっ、そういえば釣りの道具も持って来たので、後で一緒にやりましょう」
「……うん……楽しみ」
透き通るような青空に、日の光を受けてキラキラと輝く湖、隣には愛しい恋人がいて仲良く手を繋いで笑い合いながら歩いている。
これは本当に素晴らしいというか、幸せとはこういうことだと実感するような感じである。
「……カイト……建国祭での露店は……どうだった?」
「楽しかったですよ。いろいろ経験することが多くて……そういえば、アイシスさんの代理で来たスピカさんは、穏やかそうな方でしたね」
「……スピカは少し……のんびりしてる……けど……周りをホッと癒してくれる……凄くいい子」
「なるほど、アイシスさんの居城もかなり賑やかになってきましたね」
「……うん……毎日本当に……楽しい……それも……カイトのおかげ」
アイシスさんの居城には現在、イリスさん、ポラリスさん、シリウスさん、ラサルさん、スピカさん、そしてウルが生活しており、アイシスさん一人だった時に比べてかなり賑やかになっている。
アイシスさんも本当に幸せそうで、俺としても本当に嬉しい限りである。
「そんなことないですよ。アイシスさん自身の魅力があってこそ、だと思います」
「……そう……かな?」
「ええ、確かに俺とか、最初にイリスさんを配下に勧めたアリスとかの影響もあるでしょうけど、それだけじゃ絶対ないですよ。俺も皆さんとは多少話しましたけど、皆アイシスさんのことを慕っているのがすぐ分かりました。なので、自信を持ってください。いままで、死の魔力の影響でたまたま、気付く人が少なかっただけで、アイシスさんには人を惹きつける魅力があります。俺が保証します」
「……ふふ……うん……カイトが保証してくれるなら……間違いない」
アイシスさんは俺の言葉を聞いて嬉しそうな笑みを浮かべたあと、ギュッと俺の手を抱えるように抱きしめて身を寄せてきた。
その甘えるような反応がなんとも愛おしく、自然と心が温かくなるような感覚を覚え……やっぱりアイシスさんは魅力的だと、改めて確信できた。
シリアス先輩「………………………………………………………………」
???「先輩、しっかりしてください。まだジャブですよ」
シリアス先輩「慰めようとしているのか、絶望させようとしているのか……判断に迷う台詞……」




