万花の園⑪
ロズミエルさんと並んで座り花畑を見ていると、不意にロズミエルさんがゆっくりと歌い始めた。先ほどの話を覚えていて、歌ってくれるということなのだろう。
ハーモニックシンフォニーの際も思ったが、ロズミエルさんの歌は本当に上手い。そして今回は、ハーモニックシンフォニーの時のような堂々とした歌声ではなく、優しさを感じる穏やかな歌声だった。
透き通るような綺麗な歌声が花畑に響き、俺は目を閉じて耳を傾ける。民謡っぽい雰囲気の歌で、なんというか花畑で歌うのに適しているような気がする。
優しく響く歌声に、香ってくる花畑の香りと穏やかな風、かなり長めの歌ということもあって、次第に少し眠たくなってきた。
せっかく歌ってくれてるんだからちゃんと聞かないとと思うが、どうも子守歌のような優しい旋律で意識が遠くなっていく。
なんとか起きていようと目を開けてぐっと力を籠めると、そのタイミングで不意に体が横に引かれた。不意打ち気味のかかった横からの力に抗うことはできず横向きに倒れると、絶妙な形に頭がロズミエルさんの膝の上に乗った。
え? なにごと!? さっきまでかなり近くに居たのに、いま横に倒れて丁度膝に頭が行くってことは、歌いながら動いていたのだろうか?
それより、いったいこれはどういう意図がと、ロズミエルさんの方を見上げると、ロズミエルさんが歌いながら軽く微笑み、俺の目に覆いかぶせるように手を当ててきた。
寝てもいいと言っている感じで、優しく響き続ける歌声と目を覆う温かな手、ロズミエルさんから香ってくる薔薇の香りと……一度寝てもいいと思ってしまうと、抗いがたい睡魔が襲い掛かってきた。
結局そのまま俺は、頭の下に柔らかなぬくもりを感じつつ眠りに落ちていった。
快人がすっかり眠ってしまったのを確認して、ロズミエルは歌を止めた。
「……今日は私のワガママでいろいろ振り回しちゃったし、疲れちゃったよね? つい、嬉しくてはしゃいじゃって……反省だなぁ」
元々はお茶を飲みながらゆっくりと話し、いろいろお世話になっていたお礼にもてなそうと考えていた。しかし、素敵なティーカップをお土産に貰ったりと、最初からどうも思い通りにはいかなかった。
その後に地下の美術品の展示を案内した時もそうだ。快人が己の好きなものに興味を持ってくれたのが嬉しくて、いろいろと細かく説明してしまった。
「どうにも、普段話慣れてないせいか、気を許せた相手には話し過ぎちゃうな」
ロズミエルは極度の人見知りであり、普通に話せる相手も少なく、仲のいい相手というのはかなり少ない。なので、その少ない仲のいい相手……カミリアや快人に対して、どうも口数が多くなってしまう傾向にあった。
当然カミリアや快人は気にしていないのだが、ロズミエル本人としては「話し過ぎだろうか?」といった具合に、どうにも不安に感じる部分が多かった。
そしてそれは、まだ知り合ってそれほど多くの時間を過ごしていない快人に対し、それだけ信頼して心を許しているということの証明でもあった。
「絵を描かせちゃったのも強引だったかな? カイトくんは優しいし、楽しんでくれてたみたいだけど、最初は結構緊張してたしなぁ……どうも、仲のいい相手とは好きなものを共有したくなっちゃうなぁ」
快人と共に絵を描いている時間は本当に楽しく、時間があっという間に流れてしまっていた。性格的な相性がいいのか、人見知りのロズミエルとしては極めて珍しく、快人は非常に話しやすくて一緒に居てストレスがまったく無い相手だった。
膝の上で眠る快人の頭を優しく撫でたあとで、ロズミエルは眼下に広がる花畑を見る。
「今日はいつもより綺麗に見える気がする……ふふ、カイトくんのおかげだね」
そう言って笑うロズミエルの表情は、本当に柔らかく楽しげであった。
シリアス先輩「……はぁ……はぁ……お、終わった……ようやく砂糖回は過ぎた!」
???(……次は砂糖回ですかね?)




