万花の園⑦
陶磁器の部屋を見たあとは次の部屋に、そこは絵画が置いてある部屋で、これもまた壁に綺麗に飾られていて、ロズミエルさんが几帳面な方というのが伝わってくる思いだった。
正直陶磁器よりは、絵画の方が分かる気がする。とはいっても、当たり前だが難しいことは分からずなんとなくではあるが……。
しかし、たぶんだけどこの部屋の絵画も相当値が張るのだろうし、全部合わせるとどれだけの金額になるのか気になるところである。
「……なんというか、数が凄いですね」
「いちおう、この絵画の部屋が地下では一番広い部屋なんだよ」
「確かに、美術館と言われても不思議じゃないぐらい広いですし、飾り方も綺麗ですよね。額縁も全部違うんですか?」
「うん。それぞれの絵に合った額に入れてあるよ」
拘りが凄いなぁと思いつつ、ぼんやりと絵画を眺める。なんとなくではあるが、価値が凄そうという絵画は分かる気がする。
明らかに額縁が年代を感じる荘厳さを兼ね備えたものだったり、飾っている場所が部屋の中でも目立つ場所だったりするのは高価なのだと思う。
「……ちなみに、変な質問ですけど、この中で一番高価な絵ってそれですか?」
「う~ん……あそこにある絵かな。アレは魔界で1万年前に描かれた絵で、『セブンプラネット』って七枚の絵のひとつで、魔界の七つの場所から描かれた風景と星空の絵なんだ。この絵が凄いのは、使われている絵の具が全く未知の絵の具ってことなんだよ」
「未知の絵の具ですか?」
「うん。不思議な光沢がある絵の具で、その七枚以外では確認されていないし、過去に何人もが再現を試みようとしたんだけど、同じものを作ることができなかったっていう逸話のある絵なんだ」
ロズミエルさんの話を聞いて絵を見てみると、確かに独特の光沢というか不思議な感じだった。妙に引き込まれるような、綺麗なのに禍々しさも感じるような……明らかに異質な雰囲気だ。
確かに他の絵とは、なにか絵自体が持つ迫力のようなものが違うように感じられた。
「たしかに、なんというか凄みがある絵ですね」
「うん。微弱な魔力がある絵なんだけど、その魔力の波長も不思議で異質な雰囲気だね。一説では、別世界の絵の具を使って書かれた絵だとも言われてるよ」
「なるほど、それはたしかに希少ですね」
「うん。なにせ世界に七枚しか存在しない絵のうちの一枚だからね。私は本当に、一番最初に売り出された時にたまたま通りかかって、気に入って買ったんだけど、いま買うとしたら……ちょっと、値段は付けられないね。最低でも数十億Rはくだらないと思う」
数千億円から、場合によっては兆に届くかもしれないほど貴重な絵というわけか……それは凄い。
「ただ、不思議なことにこの絵って……露店で売られてたんだよね」
「え? 露店で?」
「うん。なんか、ベレー帽被った犬みたいな着ぐるみを着た変わった店主だったよ。まぁ、芸術家って割と変わっている人は多いんだけどね」
「……なるほど」
アリスでは? アリスだろ、絶対アリスだな。たぶんなんか小遣い稼ぎみたいに絵を描いて売ったんだろう。謎の絵の具も、アイツならなんか変な製法とか変な素材から作り出していたとしても不思議ではない。
そんな風に納得しつつ、他の絵も見ていると……ふと気になる絵を見つけた。
「あっ、この絵いいですね。色合いとか雰囲気とか、優しい感じですごく好きですね」
それは花畑を描いた絵であり、優しい色合いとタッチで見ているとホッとするような雰囲気の絵で、芸術についてよく知らない俺でも見ていて楽しい気持ちになれるいい絵だと感じた。
位置的に端の方に飾られている絵ではあったが、それでも俺個人としては見てきた中でこの絵が一番好きかもしれない。
そう思いながらロズミエルさんの方を振り返ると、ロズミエルさんは顔を赤くして俯いていた。
「あっ、えっと……そ、そうなんだ……あ、ありがとぅ」
「……はい?」
「その、それ、私が描いた絵……だから」
「えぇぇぇ!? そ、そうなんですか!?」
まさかこの絵を描いたのがロズミエルさんだとは思わなかった。というか、ロズミエルさん絵が滅茶苦茶上手いな。コレはちょっと、素人が描けるような雰囲気の絵じゃないと思うのだが……。
「驚きました。ロズミエルさんって、絵が上手いんですね」
「そ、そんなことはないよ。それはあくまで、一番上手に描けたのを飾ってるだけだから、その絵ぐらい上手く描けることはあんまり……」
「いやいや、この絵を描けるってだけで凄いですよ。少なくとも俺には絶対無理ですし、本当に凄いと思いますよ」
「あぅぅ……は、恥ずかしいよ。けど、そう言ってくれて嬉しいな。ありがとう、カイトくん」
顔を赤くしつつもはにかむように笑うロズミエルさんの笑顔は、なんというか物凄く可愛らしくて、こちらの顔まで赤くなってしまった。
シリアス先輩「いちゃつきやがって……クソっ、キツイ……」
???「シリアス先輩、喉渇いたんすけど、コーラとかでないんすか?」
シリアス先輩「出るわけないだろ! お前、私をなんだと思ってるんだ!!」
???「面白生態の珍獣……ですかね」
シリアス先輩「酷くない?」




