万花の園⑤
ロズミエルさんの淹れてくれたローズティーを飲みながら雑談をしていて、ふと疑問に思ったことがあった。
「そういえば、ロズミエルさん。この万花の園って、大森林の入り口にあって、結界で見えなくなっているだけなんですか?」
「ううん。違うよ……正しくは、この場所は大森林の奥地にある場所で、結界によって立ち入れないようにしてるんだ。もっと正確に言うと、例えば万花の園の左側から入ろうとしたら右に通り抜けるって感じかな」
「気付けないだけじゃなくて入れないわけですね。けど、大森林の入り口に無い?」
てっきり俺は、普段は結界の影響で認識阻害魔法のような感じで見えなくなっていると思っていたが、そもそもこの万花の園は大森林の入り口ではなく奥地にあるみたいだ。
大森林は物凄く広大だし、たぶん場所を探すだけで相当大変だとは思う。
「えっと、細かく説明すると専門的な話になるから少し噛み砕いていうけど……実際に万花の園がある場所にきたとしても、無理やり結界を破ったりしない限りは立ち入ることができない。その理由は、入り口がそこには存在しないからなんだ。万花の園は大森林の奥にあるけど、入り口は大森林の入り口付近にしか存在しないって感じかな?」
「なるほど、その入り口が招待状を持っていると出現するわけですね」
「うん。転移ゲートみたいなものだと思ってくれれば分かりやすいかな。その招待状はカイトくん用に作ったもので、カイトくんが手に持って大森林の入り口に来たら、ここに繋がる入り口が出現するってそういう仕組みだよ」
「かなり複雑ですね」
「そうだね。この空間自体も位相をズラしてるから、大規模空間隔離結界に近い感じかな? カイトくんが会ったことがあるか分からないけど、幻王配下のグラトニーはもっと規模が大きい空間を作ってるね」
原理としては、グラトニーさんの亜空間に近い感じか……ただ、グラトニーさんほど時空間魔法が得意ではないロズミエルさんは、いくつもの結界を複合して似たような形にしていると、そんなイメージかな?
「なんとなくは、分かった気がします。ありがとうございます」
「ううん。気になることがあったら、なんでも聞いてね」
そう言って優しく微笑んでくれるロズミエルさんに感謝しつつ、俺の頭にはまた別の疑問が浮かび上がっていた。というのも、周囲を見て見ると意外とロズミエルさんの家には美術品っぽいものが置いてないことである。
ロズミエルさんは芸術に明るく、様々な知識があるし、芸術展などにも足を運んでいるみたいなので、花と同じぐらいそういったものも好きなはずだ。
なら、それっぽいものが飾ってあってもおかしくないのだが、絵画等の一枚も無いのは少し意外である。
「……ロズミエルさんって芸術品に詳しいので、そういう品もいろいろ持ってるんですか?」
「うん。それなりに所持してるよ。ただ、量が多いからここじゃなくて地下に置いてる」
「地下もあるんですか?」
「うん。むしろ、地下の方が広いよ。地上は花畑を邪魔しないように、建物は小さくしているからね」
尋ねてみると、どうやら普通に美術品もたくさん所持しているらしい。あくまでここには無いというだけ。しかし、地下室か……入口っぽいのはないけど、あまり探すように視線を動かすのも失礼だしやめておこう。
「よかったら、地下も見てみる?」
「いいんですか?」
「うん。もちろんだよ」
「正直、結構興味があります……ロズミエルさんさえいいのであれば、是非」
「ふふふ、うん。期待に応えられる品があるといいけど……」
そう言って苦笑したあとで、ロズミエルさんは俺の手元に視線を動かして微笑む。
「……ああ、でも、先にお茶を飲み終わってからかな?」
「そうですね。こんなに美味しいお茶なので、もったいないですね」
「気に入ってくれたなら、嬉しいよ。時間はたっぷりあるし、焦る必要はないからね」
「はい……それにしても、ここから見える景色も絶景ですね。やっぱりそういうのにも拘ってるんですか?」
「配色とかには結構気を使ってるよ。例えばこの窓から見えるのは……」
お茶が終わったあとで地下室を案内してもらえることになった。俺ひとりで見たとしてもたぶんサッパリ分からないだろうが、ロズミエルさんが居てくれるならたぶん大丈夫だと思う。
しかし、なんかこうして話しているとロズミエルさんが凄く嬉しそうで、なんだかこちらも自然と嬉しくなる。
かなり筋金入りの人見知りなので、こうして誰かを家に招いてお茶を飲むというのも、それほど多くは無いのかもしれない。
カミリアさんを始めとした七姫の方々も六王幹部ということで、普段は忙しいだろうし……まぁ、なんにせよ、互いに楽しめているのならそれが一番である。
シリアス先輩「ヒロイン力が高い理由が分かった。なんとなくアイシスに似てるんだ……話してて快人に明らかに心開いてる感があるとことか……」




