万花の園④
ある程度花畑を歩いたあと、見えていた木造りの家……ロズミエルさんの家に辿り着いた。花畑の中にポツンとある小さな家という表現がしっくりくる感じで、大きさはそれほど大きいわけでは無いが、外観が花畑とマッチしている気がする。
中に入ってみると、そこはまたお洒落な空間だった。木で統一された落ち着いた色合いの家具類に、センス良く飾られたインテリア、華やかで窮屈さを感じない見事という他ない空間だった。
これは、本人のセンスが相当良くないと作れない部屋だと思う。少なくとも同じ家具とインテリアを使っても、俺ではこのお洒落な雰囲気は出せない。
「お洒落で綺麗な部屋ですね」
「そうかな? そう言ってもらえると、嬉しいな。あっ、カイトくんそこに座って、お茶を淹れるね」
「ありがとうございます……あっ、そうだ!」
「うん?」
ちょうどいいタイミングなので、お土産で持って来たカップを渡すことにした。
「実は、うちのネピュラとイルネスさんが、最近焼き物をするようになったんですが、今回の訪問に当たってロズミエルさん用にティーカップを作ってくれたんですよ」
「え? そうなの?」
「はい。なので、よかったらどうぞ」
「ありがとう、凄く嬉しい……わっ、凄く綺麗だね。最近始めてこれを? 紅茶用に考えられてデザインされてるし、薔薇の模様もすごく綺麗で、熟練の職人が作ったって言っても不思議じゃないぐらいの出来だね」
美しい薔薇の模様が描かれたティーカップを受け取り、ロズミエルさんは本当に嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。
コレだけ喜んでくれたなら、渡した方としても嬉しい。まぁ、作ったのはネピュラとイルネスさんではあるが……。
「……ところで、紅茶用のデザインとは?」
「えっとね。紅茶用のカップは、基本的に厚みは薄く、飲み口は広め、背は低めが紅茶の風味や見た目を引き出すのに適してるんだよ。逆にコーヒー用だと、厚手で飲み口は筒状、背は高めがいいって言われてるね」
「なるほど……」
へぇ、初めて知った。そう言われてみれば、紅茶とコーヒーのカップは違ったような気がする。そこまで気にして飲んでいたことが無かったし、日本に居た頃はマグカップでコーヒー飲んでたからなぁ。
「……それじゃあ、さっそくこのカップを使わせてもらうね。丁度、ふたつあるみたいだから」
「はい」
「カイトくんはローズティーは平気かな?」
「えっと……飲んだことが殆どないです。知り合いにハーブティーが好きな人がいて、ブレンドで使ってるとか聞いたことはありますが……」
「なるほど、じゃあ、あまり香りが強すぎないピンクローズがいいかな……」
紅茶は飲む機会が多いが、ハーブティーはあまり……フィーア先生のところでご馳走になるのが殆どだ。ただ、薔薇を使ったローズティーは飲んだことが無いと思う。
「……ローズヒップのお茶は飲んだことがあるんですが、それはまた別ですか?」
「そうだね。ローズティーは花びらを使うもので、ローズヒップティーは薔薇が咲いたあとに出来る赤く小さい果実を使うお茶だね」
「味も結構違うんですか?」
「ローズヒップティーは酸味が強めで、味も少し濃いね。ローズティーは味は甘みがあるけど薄めで、香りが強いのが特徴だね」
そう言いながら、ロズミエルさんは乾燥したバラの花びらを使って、慣れた手つきでローズティーを用意してくれる。
赤紫の綺麗な色合いのお茶で、透明なポットも相まって、これはまた凄くお洒落である。
「お待たせ、それじゃあカップに……あっ、凄い。紅茶を淹れると……つぼみだった薔薇の模様が、綺麗に咲いたね」
「たしか、温度で柄が変わる仕掛けにしてるみたいです」
「なるほど、凄いなぁ……っと、ごめんね。はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「普通に飲んでみて、もし味が薄いと思ったらこっちの蜂蜜を入れると、甘さが濃くなって飲みやすくなるよ」
お土産のカップをお茶を注ぐと薔薇が花開く仕掛けになっていたみたいで、その鮮やかな変化に思わず目を奪われた。
「……って、あれ? これ、微妙に薔薇の花の色も変わってません?」
「あっ、本当だ……もしかして、温度だけじゃなくて時間経過でも変わるのかも? お茶を注ぐと花開いて、時間が経過するごとに薔薇の花の色の移り変わりも楽しめる。本当に凄いね」
「なんというか、お茶が楽しく飲めそうですね」
「うん。見た目にも楽しいのは、本当に素敵だね」
そういって微笑むロズミエルさんに思わず目を奪われる。なんというか、本当に緊張していなければ優しくて柔らかい雰囲気の女性であり、可愛らしいという印象をとても強く感じる方である。
緊張してキリッとした顔になっている時はカッコいい寄りなんだけど……。
そんなことを考えつつ、ロズミエルさんの淹れてくれたローズティーを口に運んだ。口の中に広がる薔薇の香りは、なんだか上品で心地よく、すごく気持ちがリラックスできるような、そんな気がした。
シリアス先輩「なんでかなぁ、なんか、いちゃいちゃしてる感が強いんだよなぁロズミエル……快人に対しては心許している感が強いからか?」




