万花の園③
転移魔法を使ってユグフレシスに着たあと、ロズミエルさんから送られてきた簡易地図を見ながら移動する。万花の園はユグフレシスのすぐ近くにあるので、徒歩でも問題ない距離だ。
魔界最大と言っていい規模の都市であるユグフレシスのすぐ近くにありながら、幻の園と言われており、招待されていない人はたどり着けないというのは、ロズミエルさんの結界魔法がよほど強力なのだろう。
ユグフレシスの入り口からしばらく歩くと、大森林の入り口が見えてくる。このまま進めば魔界最大の森に迷い込んでしまうのだが……俺は森の入り口で、ロズミエルさんの手紙に入っていた招待状を手に持つ。
手紙によると、この招待状は俺専用に作られたもので、俺がコレを手に持っていると万花の園の入り口が見えるということだった。
招待状を手に周囲を見て見ると、薔薇の花で作られたゲートのようなものを見つけた。先ほどまではまったく見えなかったゲートである。
なんともファンタジー感あふれる感じに少しワクワクしつつ、先の見えない不思議なゲートをくぐると……景色が一変した。
「おぉ……すごっ」
そこは一面に広がる花畑であり、色とりどりの花々が視界いっぱいに咲き誇っていた。まさに万花という言葉がふさわしいような、果てなく広大な花畑で、その中央に木でできたお洒落な家があった。
あそこがロズミエルさんの家だろうかと、そう思った瞬間目の前に薔薇の花びらが舞い、ロズミエルさんが姿を現した。
ロズミエルさんはキョロキョロと周囲を見て、俺以外の人がいないのを確認したあとで、小さく微笑みを浮かべて口を開く。
「……いらっしゃい、カイトくん」
「こんにちは、ロズミエルさん。今日は、招待していただいてありがとうございます」
「ううん。来てくれて嬉しいよ。迷わず来れた?」
「ええ、頂いた地図のおかげで……」
他に人が居ないという状況であれば、ロズミエルさんの表情が固まることもなく、ロズミエルさんは穏やかに微笑みながら話していた。
表情が固まっていると、派手な外見も含めてキツ目な印象を受けるが、緊張していない状態のロズミエルさんは優しいお姉さん的な雰囲気がある。
「ごめんね。迎えに行けたらよかったんだけど……人が多くて……」
「大丈夫ですよ。それにしても凄い花畑ですね。これ、全部ロズミエルさんが管理してるんですか?」
「うん……花が好きで、いろいろ増やしてるうちにこのぐらいの広さになったんだ」
「へぇ……」
ロズミエルさんが花好きというのは知っていたが、こうして実際に目にしてみると凄いものだ。本当に世界中のありとあらゆる花があるのではと思うほどの、凄い花畑……色合いにもこだわっているのか、ここから見ているだけでも圧倒される。
「せっかくだし、家に行く前に、少し花畑を見ていく?」
「いいんですか? よろしければ、是非」
「うん。こっちの方の花が、人界にはあまりない種類だから珍しいかも」
花畑を案内してくれるということで、ロズミエルさんに続いて歩き出した。当たり前ではあるが、コレだけ花が好きなロズミエルさんは花の知識にも詳しく、簡単な解説を交えながら紹介してくれるので、聞いていて楽しい。
というか、芸術に関する説明を聞いた時もそうだったが、ロズミエルさんは結構説明上手なので、教え方が分かりやすくていい。
「ちなみに、ロズミエルさんが一番好きな花って、なんですか? やっぱり薔薇ですか?」
「う~ん、そうだね。どの花も好きで迷っちゃうけど、やっぱり一番っていうと薔薇の花かな……私自身が薔薇の精霊って言うことも関係してるから、少し身内贔屓かもしれないけどね」
「俺も薔薇の花はかなり好きですね。なにより見た目が華やかで、種類も多いので見ていて楽しいですね」
「うん。カイトくんのいう通り、種類の多さも薔薇の魅力のひとつだね。あっちの方に、薔薇が植えてあるエリアがあるから、行ってみようか?」
「ええ、是非。珍しい薔薇とかもあるんですか?」
「そうだね。オールドローズっていう古い品種で、いまはここ以外では見かけなくなった薔薇もいくつかあるよ」
そう言って話しながら、ロズミエルさんは薔薇についても穏やかに説明してくれる。色合いが美しくても気候の変化に弱い種などもあり、自然界ではほぼ絶滅している薔薇もこの万花の園にはあるらしい。
なんでも、ひとつひとつの種類ごとに小さな結界を張って気温などを調整しているとのことだ。やはり、花に関しては並々ならない情熱を感じる。
というか、花について話している時のロズミエルさんは本当に楽しそうで、こちらも釣られて楽しい気分になれるので、なんだかいいなとそう思った。
シリアス先輩「デートでは? デートだろ? デートじゃねぇか……くそがっ!」
???「なんすか、その三段活用……」




