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謎だらけの存在だ

本日は二話更新です。これは二話目なのでご注意を。

 アイシスさんの居城へ遊びに来て三日目……時間はあっという間に過ぎてしまうもので、もう後数時間で帰る事になってしまう。

 それを寂しく感じるのは、アイシスさんと共に過ごす時間が本当に楽しかったからだと思う。


 一緒にいろんな本を読んで感想を言い合った。一緒に宝石の採掘場に行き、リリアさんへあげる分を含めて沢山の宝石を頂いた。

 二日目も、アイシスさんは入浴中にやって来て……結局また混浴する事になり、理性は崩壊寸前だった。


 本当にこの二日間は……ずっとアイシスさんと一緒に居た。

 それを嫌だなんて感じなかったし、むしろ凄く穏やかで幸せな時間だった。


 現在俺とアイシスさんは、リリウッドさんが迎えに来るまでの時間を惜しむ様に、城の一番高い部屋で並んで景色を眺めている。

 俺の手を握り、そっと身を寄せてくるアイシスさんを拒絶する事は無く、俺は優しく手を握り返す。


「……カイト」

「また来ますよ。何度でも……転移魔法の記憶もしましたしね」

「……うん」


 俺は居城の入り口を、アイシスさんの許可を得て転移地点として魔法具に記憶させた。

 これで今度からはリリウッドさんに案内を頼む必要もなく、気軽に遊びに来る事が出来る。

 その事にアイシスさんは本当に喜んでくれて、何度も可愛らしい笑顔で頷いていた。


「……また……一緒に……本を読んでくれる?」

「勿論です」

「……また……一緒に……ご飯食べてくれる?」

「当り前じゃないですか」

「……また……一緒に……お風呂入ってくれる?」

「うっ、も、勿論です」


 最後だけはちょっと即答できなかった。

 いや、勿論俺だって健全な男子……美少女との混浴となれば喜ばしいものなんだけど……アイシスさんの場合は、本当に純粋かつ無防備なので、邪な事を考えられない。

 だからこそ、本当に精神と理性をジリジリ焼かれている感じだった。


「……」

「……」


 訪れる沈黙すら心地良い時間の中、微かに感じるアイシスさんの体温が優しく心を癒してくれる。

 いつまででもこうして居たいと思える様な時間が流れ、だんだん俺が帰る時間が近付いてくる。


 そしてアイシスさんと俺はほぼ同時に、居城の入り口にリリウッドさんが現れた事を感知し、惜しむ様に歩き始めようとして……アイシスさんに手を引かれた。


「……カイト」

「え?」

「……んっ」

「なぁっ!?」


 アイシスさんの体がフワリと浮かび上がり、直後に頬に微かに湿った柔らかい感触が触れる。

 ソレがアイシスさんの唇だと理解すると、一気に顔が沸騰しそう程の熱を感じた。


「……カイトが来る前より……ずっと……ずっと……好きになった」

「……アイ……シスさん」

「……いつまででも……待ってる……カイト……大好き」


 そう告げるアイシスさんの笑顔は、舞い降りる雪景色の何倍も綺麗で、目を奪われた。

 笑顔のアイシスさんと見つめ合い、甘く暖かい空気が流れる中で……戸惑いがちに声が聞こえて来た。


『……あの……えっと、私、出直して来ましょうか?』

「うわっ!? り、リリウッドさん!?」


 振り返るとそこには、非常に気まずそうな表情を浮かべているリリウッドさんがいて、俺は慌てて弁明をする事になった。


























「送っていただいて、ありがとうございます」

『……いえ、お礼を言うのはこちらの方です。あんなに幸せそうなアイシスは、初めて見ました。カイトさんのお陰です』


 道中でお土産等を買いながら、ゲートまでリリウッドさんに送ってもらい、お礼と挨拶を交わす。

 初めての魔界訪問は驚きと幸せに満ちたもので、何よりアイシスさんと過ごした時間は本当に楽しく感じたし、また遊びに来たいと思えた。


 何度もお礼を言ってくるリリウッドさんに微笑みながら、俺はゆっくりとゲートに近付き、人界へと戻る。


 一瞬で景色が切り替わり……そして直ぐにその違和感に気が付いた。

 来る時はアレだけ人がいた筈なのに、今は大きな門の周りには人っ子一人いなかった。


 そのあまりに不気味な光景に身構える俺の耳に、乾いた拍手の音が聞こえてくる。


「……素晴らしいよ。ミヤマ・カイト」

「……幻王」


 甲高い声と共に目の前の景色がブレて、鎖の付いたローブに身を包んだ幻王が出現する。


「まさか、ああもアッサリとマグナウェルに気に入られるとは……いやはや、もはや君を称える言葉が見つからないね」

「……」

「そう熱い視線で見つめないでくれ、胸が高鳴ってしまうじゃないか」

「……お前、本当に何が目的なんだ……」


 相も変わらず不気味な奴だし、魔界でマグナウェルさんと会った事も当り前の様に把握している。

 本当にコイツだけは、何が目的で俺に近付いてくるのかが分からない。

 以前会った時は見定めるという様な言葉を放っていたが……今回もコイツの言う試練の一環だったという事だろうか?


「……ミヤマ・カイト……心に力は宿ると思うかい?」

「なに?」

「心……脆弱な肉体しか持たない貴方が、唯一我等六王と同じ土俵に立てる部分、私はそれを見定めたい」

「……」


 そう告げながら幻王はゆっくりと足を動かし、巨大な門に向かって行く。

 そして門の目の前まで移動すると、まるで重力などは存在しないとでも言いたげに、柱を歩き始める。


「そうそう、私の目的だったね。なに、大したことじゃないさ……私は貴方に、『クロムエイナを倒してもらいたい』とそう思っているだけだ」

「なっ!?」


 柱を垂直に歩きながら、幻王はどこか楽しげに聞こえる気味の悪い声で宣言する。

 俺にクロを倒してもらいたいと……


「おっと、言い方が悪かったね。別にクロムエイナを傷つけて欲しいとか、そう言う事じゃない」

「……」

「そうだね……どう表現するのが一番適切かと言えば……ああ、こう表現しよう。『クロムエイナを救ってほしい』」

「クロを……救う?」


 本当にコイツは何を言っているのかまるで分からない。

 クロを救うって言うのは。一体どういう意味なんだ?


「……疑問に思う気持ちは分かる。だが、悪いが今はまだすべてを語れない……ただ、これだけは言っておこう。私は今、この世界でクロムエイナの闇を払える可能性があるのは、貴方しかいないと思っている」

「……クロの闇を、払う?」

「だが、同時にまだ迷っている。確かに貴方は私の想像以上の逸材と言って良い……しかしそれでも、まだクロムエイナに対抗するには足りないとも思う」

「……」


 俺を貶している訳ではない、幻王の感情は……感応魔法を持ってしても上手く読みとれないが、この言葉が本心からのものであるというのは理解っできた。

 そして幻王は門の真ん中辺りで停止し、ゆっくりとこちらの方を向いて言葉を続ける。


「……だから、私に見せてくれ、貴方の得た翼が虚栄心で塗り固められた偽りでは無く、太陽に近づいても焼かれる事が無い本物の強さだという事を……」

「つまり、また試練を乗り越えて見せろって事か?」

「ああ、その通りだ。とは言え、君はもう既に三つの試練を乗り越えた。私が貴方に課す試練は、『残り二つ』だけ……期待しているよ。全ての試練を乗り越え、貴方が私の前に立つ事を……」

「……もし俺が、その試練とやらを全部乗り越えたら……一発殴らせろ」


 甲高い声で残る試練は二つだと告げる幻王。

 一番初めの試練は襲撃、二つ目はメギドさんの襲来、三つ目はマグナウェルさんとの出会い……だとすると、恐らく幻王は一つの試練が終われば俺の前に姿を現すという事なのだろう。

 これまでの内容から考えて、逃げる事は難しいと判断した俺は、幻王を睨みつけながら言葉を発する。


「構わないさ。いやむしろ、喜んで受け入れよう、好きなだけ殴ってくれればいい」

「……ソレは、本心で言ってるのか?」

「勿論だ。貴方がもし五つの試練全てを乗り越えたなら……御褒美として、私は貴方に『忠誠を誓おう』」

「……は?」

「貴方が殴りたいと言うなら殴られよう。素顔を見せろと言うなら、それにも応じよう、抱かせろと言うなら喜んで身を奉げよう……貴方のものになる事を約束するよ」

「……え、ええっと……一体何を……」


 何か訳の分からない事言い始めたんだけどコイツ!?

 え? 試練を全部乗り越えたら幻王が俺のものになる? なにそれ怖い。

 

 驚愕する俺の視線の先で、幻王は姿を消し、直後に俺のすぐ前に現れる。

 直ぐ近くの筈なのに、フードに隠れた顔は黒いもやがかかっているみたいで全く見る事は出来ない。


「ッ!?」

「ただ、今はまず、三つ目の試練を乗り越えた褒美を渡す事にしよう」

「……これは?」


 褒美だと言いながら幻王が差し出してきた紙の束、書かれている内容は俺も意味が分からない事ばかだが、何者かの情報だという事は分かる。

 首を傾げる俺を見て、幻王は信じられない言葉を発した。


「……4年前、リリア・アルベルトがかつて率いた第二師団を罠にハメた人物に関する情報だ」

「なっ!?」

「無論それだけでは何の証拠にもなりえない。ただ、裏の世界に詳しい人物に見せれば……何かしらの尻尾は掴めるかもしれないな」

「……」


 本当にコイツはどこまで知ってるんだ? リリアさんが探し求めている仇の存在まで把握しているとは……

 あらゆる情報が幻王の下に集まるという話も、嘘では無いみたいだ。


 そして俺が紙の束を受け取ったのを確認してから、幻王は静かに身をひるがえす。


「……では、ミヤマ・カイト。また四つ目の試練を乗り越えた時に会おう」

「……」


 そう言って幻王は姿を消した。

 また新たな謎を俺の心に残しながら……


 拝啓、母さん、父さん――アイシスさんの居城からの帰り道、俺の前には三度幻王が姿を現した。相変わらず何を考えているのか分からず、真意も結局分からないまま。本当にアイツは、俺が出会った中でも一番――謎だらけの存在だ。














 


意訳:幻王「マグナウェルにも気に入られたの!? 凄い、凄い! こんなに早く、私の予想を越えちゃうなんて流石! あっ、そんなに真っ直ぐ見つめられちゃうと、照れちゃうよ。やっぱり素敵……でもでも、まだまだ、もっと君の可能性を見せ欲しいな? 私は君ならやれちゃうって思ってるよ。一杯頑張ってくれたら、貴方のものになってあ・げ・る」


こいつただ快人が好きで、話したくて出てきてるだけじゃないのか?

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― 新着の感想 ―
[一言]要するに、後書きは副音声といったところかな。  それとも本編をアテにしながら呑んでる感じか。
翼・・・? イカロスの話してたし、幻王ってアリスなんじゃ?いや、そんなまさか
[一言] 相変わらずこんな時から伏線がある...
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