〇〇有〇②
その怪物が生まれ出たのは、魔界の一角にある火山の中。燃え盛る溶岩の中からだった。
赤く長い髪、二本の巨大な角……その瞳に理性は無く、赤く染まっていた。その怪物は、己が生まれた火山とその周辺を消し飛ばし、ゆっくりと魔界を歩き始めた。
怪物にあったのは破壊衝動のみであり、目に付くすべては破壊の対象だった。
魔界の大地も、そこに生きる生物も、そのすべてに襲い掛かりことごとくを滅ぼした。もちろん魔族たちも無抵抗だったわけでは無い。
当時の魔界は群雄割拠の時代であり、腕に覚えのある魔族は多かった。とうぜん、怪物を討伐しようと考えた。
だが……怪物は圧倒的だった。物理攻撃も魔法も、その強固な皮膚を貫くことはできず。強固な盾も、防御魔法も怪物の攻撃を防ぐことはできなかった。
怪物が歩んだあとには草木の一本すら残ることは無く、すべてを滅ぼしながら魔界を歩き続けていた。
そしてその怪物による被害が魔界の3分の1にまで広がり、怪物が『赤き魔獣』と呼ばれて恐れられるようになったころ、怪物は魔界の中央付近に到着した。
そこには二体の魔族が住む小さな家があった。当然怪物にとって目に映る全ては破壊対象であり、その家もまた例外ではなく、破壊して次に進むはずだった。
「……アイン。離れてて、危ないからね」
「は、はい」
そこに住んでいたのがのちに魔界最強と呼ばれるクロムエイナでなければ……怪物はたしかに強かった。その有り余る力を持ってクロムエイナに襲い掛かり、微かな手傷を与えた。
そう、微かな手傷……それが限界だった。
「……凄い力だね。う~ん、これ絶対アイツが手を加えてるよね。はぁ、どういうつもりなんだか……君も振り回されて大変だね」
明らかに異常な怪物の力を見て、いまだ再会していない己の半身……創造神と呼ばれる者が手を加えていることを察したクロムエイナは、呆れたようにため息をつき、怪物に手を加えた。
その強大な破壊衝動を封印し、己やアインにある程度近い姿に外見を整えた。
「……ぐるるる」
「うん。元気なのは間違いないね。それに、破壊衝動を封印した影響で、襲い掛かってくることもない……ま、まぁ、少し怯えちゃってるのはアレだけど……その辺はこれから教えていけばいいかな」
己の半身が関わっていることもあり、クロムエイナはその怪物を引き取ることに決め……『メギド』と名を与えた。
怪物……メギドはクロムエイナに対しては従順だった。己を打ち破った強者と理解していたからだろう。クロムエイナの教えを受け、知識を獲得していった。
その過程で戦うことの楽しさを知った。己を鍛えること、競い合うことの喜びを知った。同時に……クロムエイナの封印があるとはいえ、いまだに残る破壊衝動を恨んだ。魔界の3分の1を滅ぼした己を嫌った。
戦いを楽しむことも出来ず、競い合うこともなく、相手に成長の機会を与えることもなく、ただただ蹂躙し破壊するだけの怪物としての己を嫌うようになった。
いつしか、メギドは己の体に何重にも封印を施し、真の姿を封じ込めた。
だが、メギドの持つ破壊衝動は決して消え去ったわけでは無い。封印されているとはいえ体の奥底に眠り続けている。
だからこそ、メギドは己の真の姿を嫌っていた。真の姿に戻ると、奥底に未だある破壊衝動の存在も感じてしまうから……。
ある程度の話を終え、メギドさんは気を切り替えるように深く息を吐く。
「……まっ、そんな感じだ。で、本題に戻るが……俺はその破壊衝動をなんとかしてえんだが、これがまた厄介でな。言うことをまったく聞きやがらねぇ」
「ゴリラが腹の中に狂犬飼ってるようなものですね。で、メギドさんはその狂犬の調教をカイトさんにしてもらいたいと……」
「まっ、そういうわけだな」
「……イマイチ、よく分からないんですが」
メギドさんが破壊衝動を嫌っていてなんとかコントロールしたいというのは分かった。だが、それを俺が行うという意味が分からない。
メギドさんの破壊衝動をどうやって俺がコントロールするんだ?
「早い話が、俺の破壊衝動をぶっ飛ばして屈服させてほしいってわけだな」
「……それじゃわからないでしょうが……えっとですね、カイトさん。『心比べ』って特殊な魔法があるんですよ。要するに互いに了承した上で行える精神力バトルみたいなものなんですが、それでメギドさんの破壊衝動……一種の感情ですね。それを打ち破ってほしいってことです」
「分かるような、分からないような」
「ちなみに、私やクロさんも頼まれてやりましたけど……あの破壊衝動、まったく負けを認めねぇんすよね。何度やられても次は勝つ的な思考で……」
そう言って呆れたようにため息を吐くアリスを見て、なんとなく破壊衝動っていっても結局はメギドさんの感情の一部なので、性格もメギドさんに似てるのかと、そんな感想を抱いた。
「……そこで、カイトだ。俺が知る中じゃ、カイトの精神力はトップクラスって言っていい。お前なら、もしかしてってそう思ったわけだ」
「……な、なるほど」
事情は分かった。分かりはしたが……その精神バトルとやらについて、もうちょっと詳しく聞かせて欲しいものである。
???「シリアス展開に……相変わらずいないっすね。あの人は……そして、タイトル……おや、これは……」




