〇中〇〇①
出店側として参加して参加して楽しんだ建国記念祭から一日経ち、疲れを癒すようにのんびりとベルのブラッシングをしていた。
そう、ベルのブラッシングをしていた……筈だったのだが。
「おう、悪ぃな、カイト。急に呼んでよ」
「……い、いえ」
呼ばれたというよりは、ほぼ強制的に連行されたようなものなんだけど……。そう思いつつ、目の前にいるメギドさんを見る。
現在俺が居るのは巨大な闘技場に隣接したメギドさんの家……もとい城で、なんだかんだで来たのは初めてである。
メギドさんの体のサイズの影響もあるのだろうが、とにかく室内のいろいろなものがデカい。
「……それで、用件はなんでしょうか?」
「ああ、だがちょっと待ってくれ……おい、シャルティア。居るんだろ、周囲に誰かいやがるか?」
「……誰もいませんよ」
メギドさんの問いかけにアリスが答えると、メギドさんは一度頷いたあとでなにやら真剣な表情を浮かべる。
「今回俺がカイトを呼んだのは、お前に頼みたいことがあったからだ」
「頼みたいこと、ですか?」
「ああ、俺を……倒して欲しい」
「はい?」
う、うん? なんだいきなり……勝負しようってこと……じゃないよな。戦おうではなく、倒して欲しい? ど、どういうことだろうか、さっぱり意味が分からない。
不思議そうに首を傾げる俺を見て、メギドさんは俺の反応が予想通りなのか説明を始めた。
「まぁ、簡単に言うとだ……まずは見せたほうがはえぇな」
そう言うとメギドさんの体が輝き、姿が変化した。長い真紅の髪に後ろに向かって沿った大きな二本角。ボロボロの服を着たグラマラスな女性の姿……え? なにこれ?
人化の魔法、ではないよな? メギドさんが人化した姿は、筋肉質な男性だった気がするし……。
「カイトも知ってるだろうが、この俺の本来の姿に関してだが……」
「え? いやいや、待ってください! まずその姿が初見なんですが!?」
「あん? 神界で見なかったか?」
「いや、仮に見てたとしてもそれがメギドさんかどうかなんてわからないですよ……」
この場合の神界というのは、シロさんの試練に関する時の話だろう。確かにいたのかもしれないが、説明されないとソレが初見でメギドさんとは気づかない。
「……まぁ、とりあえず、それがメギドさんの本来の姿なんですね。それは分かりました」
「おう。じゃ、説明を続けるぞ……この姿に関してなんだが、俺は正直自分の力を十全に使えている状態とはいえねぇ。一部の力を封印している」
「封印、ですか?」
「ああ、なんて言えばいいのか……自分でも抑えきれないぐらいの破壊衝動が俺の中にはある。それは生まれつき持ってたものでな……実際、一度クロムエイナにぶちのめされるまでは、俺は魔界で破壊衝動のままに暴れまわってた」
そう言って神妙な顔で話すメギドさんに、俺も真剣な表情で話を聞く。するとそのタイミングでアリスが出現し、俺の隣に座った。
「実はその辺の話って、私もあまり知らないんですよね。私がこの世界に来る以前ですし……聞いた話じゃ、メギドさんは昔の魔界を3分の1ぐらい滅ぼしたとか」
「すっげえ昔だが、確かにそうらしいな……まぁ、生憎と俺は覚えてないんだがな」
「な、なんか話のスケールがとんでも無いことに……」
広大な魔界の3分の1を滅ぼしたとか、それだけでまず大事件なんだが……クロにぶちのめされるまでってことは、クロに倒された感じだろうか?
「破壊衝動のままに暴れまわってた俺は、クロムエイナに倒された。で、その時にクロムエイナが俺の破壊衝動を封印してくれたわけだ」
「いや、端折り過ぎでしょ……なんで私がわざわざここに出てきたと思ってるんすか、もうちょっと詳しく話してくださいよ」
「いや、だからあんまり覚えてねぇんだが……まぁ、クロムエイナから聞いた話でいいなら……」
アリスの言葉を受け、メギドさんは軽く頭をかきながらも了承……過去を語ってくれるみたいだ。正直、メギドさんの過去にも結構興味があるし、それが最初の俺を倒してくれ発言にどう繋がるかもまだ不明である。
とりあえず、話を真剣に聞かねばと、そう思った直後……。
「あ、長くなります? じゃ、お茶のひとつぐらいください。あとお茶菓子も――あいたっ!?」
「お前、空気読めよ……」
緩い感じのアリスに拳骨を落としたあと、俺はメギドさんの方に向き直り話に集中した。
???「シリアス先輩は、砂糖だしすぎて寝込んでます。残念ですね、シリアスっぽい雰囲気なのに……」




