建国記念祭夜⑨
長く続いていた花火も終わり、花火の後の静けさが訪れる。先ほどまで花火が明るく光っていた影響もあり、一気に周囲が暗くなったように感じた。
普通に考えると花火は終わったので、このまま起き上がって帰るのだが……イルネスさんの手が俺の頭を撫でており、なんとなく起き上がるタイミングが……。
「綺麗な花火でしたね」
「はいぃ。終わってしまうとぉ、少し寂しさを~感じますねぇ」
「ああ、それはありますね。なんか、花火の後って妙に寂しさを感じるんですよ」
軽く言葉を交わして、いいタイミングなので起き上がろうと……起き上がろうと思うのだが、イルネスさんが凄く優し気にこちらを見ており、しかも覗き込んでいるような姿勢ということもあって、迂闊に起き上がれない。
起き上がってしまうと顔が急接近してしまうので、どうしたものか……明るい通りではなく、時計塔の屋根に居ることもあって、薄暗くてイルネスさんがどんな表情をしているのかまではわからない。
「えっと……イルネスさん?」
「カイト様ぁ、少しだけ~質問をしてもいいでしょうかぁ?」
「え? 質問? はい。俺で答えられることなら……」
膝枕のままで答えるのかな? う、う~ん、なんか真剣な声色だったし、ここは変に口を挟むべきではないだろう。
そう思っていると、不意にイルネスさんが軽く手をかざし、手で俺の目を塞いだ。え? なにごと? まさか、だ~れだ? とか、そんなわけはないだろうし……。
「カイト様にとってぇ、私は~どんな存在ですかぁ?」
「イルネスさんですか? う、う~ん。改めて口にするのは気恥ずかしいですけど……いつも凄くお世話になってて、頼りになりますし……な、なんて言えばいいのか、優しい年上の女性って感じでしょうか?」
「なるほどぉ」
暗い視界の中でイルネスさんの声だけが優しく響く。質問の意図はわからないが……うん。イルネスさんがどんな存在かといえば、頼れる年上の女性。
さすがに恥ずかしくて言えないが、憧れの大人の女性とか、そんなイメージがある人だと思う。母性というか包容力が凄いし、大人の女性って感じが凄いある。
「参考までに~伺いたいのですがぁ、カイト様は~私のような女性はぁ、恋愛対象になりますかぁ?」
「へ? それはもちろん」
「小柄な体でもぉ?」
「身長の話をすると、恋人のクロとかアリスも小柄ですし……俺はあまり気にしたことは無いですね」
「そういえばぁ、そうですねぇ」
「イルネスさんがなにを聞きたいのかまではわかりませんけど、少なくとも俺にとってはイルネスさんは凄く魅力的で素敵な女性ですよ」
「くひひ、そうですかぁ、それは~嬉しいお言葉ですねぇ」
一瞬、質問の内容的に……まさかイルネスさんが、俺を意識してくれているのでは? とか、そんな風にも感じたのだが……あんまりそんな感じじゃなくて、普段通りの落ち着いた返答。
その後もいくつか質問をされたのだが、あまり恋愛とは関係ないもので、単に最初の質問がそういうものだったというだけみたいだ。
ちょっとドキッとしたが、まあ世の中そんなものだ……けどこれ、いつまで目を塞がれているのだろうか?
「ありがとうございましたぁ。いろいろ~参考になりましたぁ」
「いえいえ、お力になれたようならなによりです」
質問の内容はバラバラでイマイチ規則性は無かったが、とりあえずイルネスさん的には満足だったみたいで、それならなによりである。
そう思っていると、不意におでこになにか柔らかい……えと、唇のような感触があった。そして、直後に目を覆っていた手が退けられる。
「それではぁ、そろそろ戻りましょうかぁ?」
「え? あ、はい……えっと、イルネスさん。いま……」
「どうかしましたかぁ?」
「いえ、なんでもないです」
俺の言葉に不思議そうに首を傾げるイルネスさん……あれ? 気のせいか、なにか別のものが当たったのを勘違いしたのか……一瞬おでこにキスされたのかと思ったのだが、イルネスさんの反応的に違うっぽい。
なんというか変な勘違いをしてしまって少し恥ずかしさを感じつつ、イルネスさんと共に転移魔法で出店の場所まで戻った。
「……口紅を付けてなくてぇ、よかったですぅ」
転移する瞬間に、そんな小さな呟きが聞こえたような気がした。
???「なるほど、カイトさん的にはパンデモニウムへの憧れの感情が強くて、子供の自分では相手にされないだろうみたいな感じがあるんでしょうね。パンデモニウムが、感応魔法での感情の伝わり方を上手く隠してる部分もあるでしょうが……」
シリアス先輩「……」
???「来ましたか! チョコフォンデュ……なんだ、砂糖じゃねぇっすか、使えないですね」
シリアス先輩「……酷くない?」




